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ヤハラ、小活躍に御座候


 どうやってこれを手に入れたか?

 問うのも無粋、ライゾウはヒバカリ村の出身。今は兵士をしていても、れっきとした忍者である。

 しかし、そのような事情を知らぬヤハラは、やはりどうやってと問う。


「オイラの仲間が、しきりとドクセンブルグに出入りしてるからさ、何やってんだって聞いたのさ。そしたらお前のとこでも必要だろう、って」

「ヤハラどの、この者は忍びの村の出身でしてな……」


 なるほどと納得したところで、「忍びたちはこの情報を、どこへ届けるつもりだったのでしょう?」と訊いた。

 ライゾウの回答は、村に集める、というものだった。


「ライゾウ班長、忍びの集めた情報を定期的に入手することは、可能でしょうか?」

「それは無理かな? ヒバカリの忍びは、ヒノモトの独立のために働いてんだ。ワイマールとなれ合う気には、ならないだろうね」

「それでもあなた方はワイマールの兵となり、ドクセンブルグに住まっています。両者は歩み寄れると、私は思うのですが」

「歩み寄った結果が、いま現在。将来はもっと歩み寄れるかもしれないけど、今はこれが限界。あまり事を急いても、いいことないよ?」


 そうですか、とヤハラは肩を落とす。

 ノボルは地図に目を落とした。


「ではヤハラどの、兵を集めますので、ヤハラどのならどのようにコズミクを攻めるか。講釈いただけますかな?」

「そうですね。ワイマール風な攻め、ドラゴ中将の攻めを説明しておきますか」


 だが、その前に。


「私は参謀本部に、この地図を届けてきます。もしかしたら、講釈の暇もなく一気に開戦となるかもしれませんよ」


 で、夜。

 ようやくヤハラが参謀本部から戻ってきた。地図の入手経路、ヒバカリ忍者の説明。そして忍者を使役することは不可能と、上司に説明することが山ほどあったらしい。

 外出する者たちを止めて、全員を講堂に集める。ヤハラは夕食抜きで教壇に立った。


「まず、私なりの軍略という話でしたが、忍びの地図により状況が変わりました。我が軍の方針が決定したのです。前回の戦さを経験していない方もいらっしゃいますので、改めて説明させていただきます。可能な限り殺生を控え、敵兵を捕虜とする。これは前回と同じ。復興のための人員確保に御協力ください」


 ここまではノボルも常日頃口にしている、ワイマール軍最近の傾向である。

 しかしここからが、いつもと違う。


「特に今回の戦さ、目的はドルボンド国の領地を、我が国のものとすることに決まりました。領地の再興が最優先となりますので、これはしっかり認識してください」


 ド国の領地を乗っ取る。ヤハラは確かにそう言った。そこまで両国の関係は悪化していたのか。ノボルも驚きを隠せない。というか、兵士たちもどよめいている。

 だがここで、疑問が生じた。


「ヤハラどの、質問よろしいか」

「どうぞ」

「殺さずの方針は結構ですが、ド国の王族はいかがされますか? 国王、王妃、王子など数が多い。前回の王子一人とは、訳が違う。王室やドラゴ中将は、いかがお考えか?」

「……敵軍王室は、閉鎖に追い込みます。ですが戦後のことを考えて、姫君など権力の薄い者を生かしておくよう、陛下より御言葉がありました」


 難しいだろ、それ。率直な意見だ。

 昼間チラリと覗いた地図には、城を守る兵士たちと街を守る兵士たちが、ビッシリと書き込まれていた。ただ戦さ、ただ城攻めというだけでも、骨の折れる仕事だ。そこにこのような、困難な条件を足されるとは。


「そこで、この地図です」


 ヤハラが黒板に貼ったのは、城から伸びる脱出用の地下道をしるした地図であった。

 ノボルたちワ軍は、敵城の東側から攻めることになるが、地下道は東西南北四方に伸びている。


「王族の脱出は、西向き通路を選ぶはずです。その出口に雑兵隊を待機させ、身柄を確保します」


 東側から攻められているなら、西へ逃げるのは当然のこと。それだけではない。西側から出ると、街道が近いという利点がある。

 そこに雑兵隊が配備されるのだが、地下道出口は敵陣深い場所にある。軽量快速、ついでにいえば隠密行動も可能な雑兵隊が選ばれるのも、これまた当然のこと。


「王族を確保したら、この地下道から攻め込み、ド軍を城の内側から切り崩し、味方を城内へ誘導します」

「……雑兵隊が城内へ攻め込んだ時点で、死者の数が跳ね上がりませんかい?」


 カイの質問に、ヤハラが答える。


「効率のよい制圧を行えば、死者の数はかなり抑えられるはずです。それを実現するには、突入部隊の練度が必要となりますので、存分に力を発揮してください」


 詳しい話は、現在参謀本部が作戦を発表してから。現在話できるのは、ここまでだという。

 状況によってはここまでの作戦も、大幅な変更を余儀なくされる場合もある。くれぐれも、思い込みなどなさらぬようにと、ヤハラは締めた。

 ノボルは、「出撃命令がいつ下るかわからない」と前置きして、「各自、家族や縁者に挨拶は済ませておくように」と命じた。

 兵士たちが解散してゆく。外出する者、自室に戻る者とさまざまだ。


「ヤハラどの、晩飯がまだでしたな?」

「えぇ、お偉方の前で空腹を訴える訳にもいきませんでしたから」

「俺の下宿が飯屋をしている。御一緒に、いかがですかな?」

「いたみ入ります」


 ヤハラとともに隊を出た。向かいの飯屋に入る。「今日は客を連れてきた」と、部屋には上がらずホールの席に着く。

 ヤハラは酒を飲まないという。飯だけを注文した。逆にノボルは夕食は隊で済ませている。酒だけ注文した。


「いかがでしたかな、ヒノモト忍者の実力」


 ノボルの声は低い。


「驚きましたね。参謀本部も密偵には力を入れていましたが、あれほどとは……」

「欲しかったでしょうな、ヒノモト忍者とのパイプが」

「えぇ、あれだけの情報収集能力があれば、世界を奪うことも可能でしょう」


 ヤハラは、ナイフとフォークを止めた。止めたが、手離さない。肉を切る動作のまま、動きを止めている。

 そして目だけで、ノボルをジロリと見た。


「……その能力を、イズモ・キョウカが所持している。そう言いたいのですね?」

「そんな巨大な力、持って何がしたいのやら」


 ヤハラは活動を再開した。肉を口に運びながら言う。


「世界中の富を集めたいのでは?」

「それが目的、というのはわかります。しかし巨大な力というのは、己の身を滅ぼしますぞ」

「……イズモの力は、先日お話しましたね。そこにヒノモト忍者という、巨大な力。一人を滅ぼすだけでなく、周辺国家まで滅ぼしかねませんね」


 一体何と戦う気になっているやら。もはやノボルの知る戦いではない。


「勝てる気がしますか?」


 ヤハラに問われて、「そんな者に勝てる訳がありません」と答えた。

 ヤハラは笑う。


「イズモに、ではありません。次の戦さです」

「勝てるかどうかは、参謀であるヤハラどのが考えることだ。俺の守備位置を越えている」

「いえ、中隊長として勘が働くかな、と」

「その程度の意見でよろしければ……正直、圧勝でしょうな。先の一戦でド軍は、明らかに士気を落としている。何しろ送り出した将兵が、一人も帰って来なかったのですから。そこへいきなりの本土防衛。しかも地図にあった通りなら、ド国の東側領土を見捨てて王城を守るという……これはド国の意志が統一されていないと見ても、差し支えないのでは?」


 ヤハラはナイフとフォークを置いた。酒を飲まないとはいえ、軽い食前酒や食後酒くらいは口にする。


「意志統一に関しては、まったくの御明察。どうやら今回の戦さ、ド国の強硬派が無理に押し進めたものらしいです」

「名前は上がってますか?」

「もちろん」

「ならば戦後は、その者らを確実に処刑……」

「戦中でもかまいません。案外雑兵隊の守る地下道出口に、王族より先に現れるかもしれませんよ?」


「笑えない冗談ですなぁ」と、ノボルはグラスを口にした。


「ところでヒノモト中隊長、ボルザックという男は御存知ですか?」

「ボルザック? ……知りませんなぁ」

「参謀本部の軍師なのですが、覚えておいていただきたい」


 澄ましているが、ヤハラの肩口から殺気が漂っている。


「もしもワ国に意志統一を崩す者がいるとしたら、このボルザックという男……」

「なにか、確証でも?」

「ひとつ、我々が出征している間、国を守る将兵たちを束ねる役割なのですが……これが軍部と接近しすぎている」

「確証というには弱いですなぁ」

「ひとつ、一部王室に反抗的な諸公と接近しすぎている」

「その中に、ヒノモトは入っておりますか?」

「いえ、私の調べでは」

「まだ弱いですなぁ。ヒノモトは現在の国王が不干渉の姿勢なので、気に入っていますから。ヒノモトが動かないのなら、まだまだ脅威とは言えません」

「逆に言えば、ヒノモトが動き出したらこのボルザック、危険と見なしてもよろしい、と」


 ボルザックは黒だ。とヤハラはにらんでいる。ノボルにもわかった。

 もしもそのボルザックという男。動き出すとしたら? ノボルたちの出征中。いや、城攻めの最中ではない。追撃戦の最中……これもまだ、動乱の中だ。

 やるとすれば、ド国をワ国の領地とし、再興に力を注いでいる時……。

 王室の兵力が薄くなっている時か。


「……ヤハラどの、少し考えが先走りしてしまいました」

「どのように?」

「そのボルザック、挙兵してワイマールを乗っ取るとか、考えてしまいました」

「……そのお考え、胸にしまっておいて下さい」


 なるほど、的中であった。

 しかし、もしもそのようになった場合。

 あのイズモとやらは、どう動くだろうか?

 そんなことを、漠然と考えてしまう。


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