親分&子分ズに御座候
結局のところ四人のヒノモト衆は、公平とも言えない話し合いの結果、ノボルの隊で引き取ることになった。ゴンも第一中隊長も彼らを欲しがってはいたが、既成事実は作った者の勝ちである。
そうなると、配置である。彼らはノボルが阻止しなければ、全員二〇人抜きを達成しただろう。三〇人を率いる、小隊長として迎えてやってもかまわないところだ。しかし、みんなノボルと同い年。ライゾウに至ってはひとつ下。……若すぎる。クセある古参兵たちが、指示にしたがってくれない場合がある。
「みなに実力をわからせるまでは、班長をしてもらうか」
「五人の長かい、そりゃチト厳しすぎやせんかい、ノボさん」
「そうは言うがゴンさん、やはりこの程度の年齢で小隊長は、なかなかキツイと思うぞ」
「俺たちはこの年で、中隊長やっとるがの」
「それは俺たちが有能だからさ。……という冗談は、さて置いて。俺たちは免許、免許皆伝に相当する力がある。二〇人抜きでも余力を残していた。しかし彼らは目録レベル。二〇人を越えたら、何人も勝ち抜けないさ。それが理由のひとつ」
「では他の理由は?」
「剣の腕や個人の腕っぷしと指揮能力は、やはり別物ということさ。変に小隊を背負うより、のびのび育てた方が良い連中だろう」
「ふむ、それは言えるかもしれんのぉ」
ゴンは巨大なアゴを撫でた。納得してくれたようだ。昼飯抜きで、ノボルは残りの配置を考える。
と、そこへ兵士が飛び込んできた。血相を変えている。
「ヒノモト中隊長! 新人どもが、街で暴れとります!」
さっそくやりやがったか!
兵士は、新人どもとは言っているが、新人の誰とは言っていない。しかしノボルにはわかった。
兵士が血相変えるような暴れ方ができるのは、あの四人しか考えられない。
返事をする暇も惜しい。腰に刀を落とすと、ノボルは部屋を飛び出していた。ゴンや他の中隊長も続いたが、ノボルの足が圧倒的に早い。さっと敷地を駆け抜け、東大通りに出た。
すると、すでに人垣ができている。豪快な掛け声とともに、人間が人垣の頭上まで飛んでいた。
「あ、お兄ちゃん! 何とかして!」
リコがすがりついてきた。まかせておけ、と人垣を割って入る。
すると、雑魚に群がられながらもロウ入道。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。人間を頭上まで放っている。
もう一人は長髪のテライモ。こちらも雑魚チンピラにたかられながら、当たるを幸い。人間を地面と水平に殴りとばしている。
カイとライゾウは観戦の位置。とりあえず捕まえて、カイの方に事情を聞いた。
「それがですね、あの連中が徒党を組んで、親分に復讐しようとたくらんでたんでさぁ」
親分とは、ノボルのことらしい。しかし、人に恨まれる覚えはないのだが。と、チンピラ陣営に目を向けた。
どこかで見たような年寄りがいる。ロウとテライモに子分がやられるたび、品性に欠けた顔を余計に醜く歪めている。
「おぉ、あれはガッポだかノッポだか言う、中途半端なチンピラの親分か」
「知ってるんですかい、親分?」
「ドクセンブルグに着いた初日に、ちょっとシメて……いや、関わってな」
「ライゾウと二人、ちょっと捕らえて来ましょうかい?」
「できるのかな?」
「造作もございません」
カイたちに頼むと、二人は人混みに消えた。
ノボルはノボルで仕事がある。とりあえずこの騒ぎを、沈静化させなければならない。
とりあえずチンピラを掴まえた……時には当て身を入れていた。ぐったりしたところを、道端に片付けておく。チンピラを掴まえて、当て身。場合によっては蹴り。どんどんチンピラを積み上げてゆく。
一〇人ばかり積んだところで、ガッポに目をやる。ガッポの周りにはチンピラが五〜六人、のされていた。カイとライゾウが、しなびたガッポの両脇を固めている。
「よし、全員静まれ! 静まれ静まれ!」
声をかけると、チンピラたちがおさまった。ロウ入道とテライモも、動きを止めた。いつの間にか参戦していたゴンも、こちらを見ている。ゴンがブッ飛ばした相手だろう。人垣の向こうに墜落してゆく。
「静まれチンピラども! お前たちの頭ガッポは、雑兵隊が召し捕った! 全員お縄につけ! 手向かいするな!」
「そんな! 俺たちはこのデカブツ二人に襲われた、被害者ですぜ!」
「そうだそうだ! 横暴すぎるぞ、兵隊さんよ!」
「汝らは徒党を組み、そこのガッポだかノッポだかの指示で、このヒノモト・ノボルを襲撃せんとしたと、そのように申す者もいるぞ!」
「事実無根だ! 兵隊どものでっち上げだ!」
残りのチンピラたちが、そうだそうだと騒ぎ出した。「では何故、徒党を組んでいたのだ?」と、ノボルは気負うこともなく訊いた。
「そんなの俺たちの勝手だろ!」
「兵隊なんぞに話す筋合いは無ぇよな!」
「そうだそうだ!」
ノボルはガッポに目をやった。すっかり観念してしまっている。春の記憶が生々しくよみがえったのだろう。しなびてさえ見える。
「チンピラどもよ。我々雑兵隊に証言する必要が無くとも、官権に証言する必要はあるぞ」
ノボルの背後から、警笛の鳴る音が聞こえた。正面からも聞こえる。
チンピラどもに、もう逃げ道は無い。人垣が彼らの逃げ道を塞いでいたのだ。後ろから前から、捕り方たちが迫ってきた。ノボルは、「おう、お勤め御苦労さん」と、気軽に声をかける。しかし……。
「おや?」
縄をうたれてしまった。
「ちょっと待て、話せばわかる」
「やかましい! キリキリ歩けっ!」
「いや拙者、騒ぎを沈めるために少々の力を振るっただけで……」
「話は番屋で聞く! 黙って歩け!」
両手を戒める縄が、厳しくノボルを締め上げた。本当はこの程度の捕縛術、たやすく抜け出られるのだが……。
ゴンも縄をうたれていた。やましいところはひとつも無いが、ヒノモト四人衆もおとなしく従っている。ノボルも暴れないことにした。
どうせ番屋で、話をさまざま聞いてもらえるのだ。やましいところが無ければ、じたばたする必要も無い。 無罪さえ証明できれば、逮捕が誤認であったことも証明できる。ノボルはおとなしく、チンピラたちとともに番屋までしょっぴかれた。
ノボルたちはすぐに釈放された。証人が多数出たからである。ガッポは以前から人数を集めて、ノボルに復讐しようと狙っていたらしい。
「しつこい連中だ。俺にとっては昔の話だというのに」
「親分、それがチンピラって生き物ですよ」と、カイが言う。
「そうそう、あいつらは頭をつぶしておかねぇと、いつまでも根に持ちやがりますからねぇ」
続けるのは入道だ。
しかし。
「そうはいうが四人とも、お前たちはもう、街角の男衆ではない。雑兵隊の一員なのだ。チンピラやヤクザを相手にして、良いことは無いぞ」
「……へい」
「俺にも侠客の知り合いがいるが、その兄さんも言っていた。堅気の衆がヤクザ者なんぞ、相手にしてはいけません、とな。俺はその警告を聞かなければならん、というのに……」
「すんませんでした、親分」
「まあ、説教はここまでだ」
ノボルの目が、キラリと光った。
「それでお前たち、一人で何人のしたのだ?」
「オレ……八人……」とテライモ。ロウ入道は七人。
「あっしは序盤に二人の、ガッポのそばで三人。」
「オイラは序盤一人で終盤二人だよ、ダンナ」
つまり、四人で二五人。ノボルが一〇人ほどでゴンは不明。推察でしかないが、ガッポはノボル一人のために五〇人もの人数を集めたようだ。
「で、どんな技を使ったのだ?」
俺はこう突いた、あるいはこう捕った。蹴りはこんな感じで、うちの流派にゃこんな技がと、にわかに武術指南所の開設となった。
ノボルと入道は天神一流。併伝の柔も似たところがある。当て身を入れるに際して、相手を捕らえる、固定する。それからトドメの当て身を入れるところは、よく似ていた。対してテライモやカイの柔は、先に打つ。それから捕らえるものらしい。もちろんどちらが優れ、どちらが劣るという話ではないし、捕りと打ちの順番が逆になることもしょっちゅうである。
ただ異彩を放っていたのはライゾウで、蹴りが実に多彩であった。戦さ場においては、帯より上を蹴ってはならぬ。というのが、どこの流派でも言われることなのだが、さすが忍者。固定観念にとらわれることが無い。一般の兵には毒にしかならない技術だが、ノボルには大いに参考になった。
「オイラのところじゃ、当て身は『どぃぃぃん』と入れろ、なんて言われてさ。なんだよその例え? って思ったんだけどね」
「いやライゾウ。他流派だからこそ、俺にはわかる気がするぞ」
「そうそう、そんな当てを出会い頭で食らっちゃあ、ワシも危ないわい」
と、ここまで聞き役に徹していたゴン。
「えぇのぉ……俺たちの中隊も、ヒノモト武術を取り入れるかいのぉ?」
「……中隊長さん、もしかしてそちらさんの中隊に、ヒノモト衆は……」
「おらん、全部ノボさんにかっさらわれたわい」
ヒノモト四人衆は、互いに顔を見合せた。ノボルは言葉をかける。
「お前たちのような暴れん坊は預かれんと、他の中隊長に断られたのだ。四人とも俺が面倒を見ることになった」
あからさまに喜ぶ四人。「こらこら、ゴンさんの前だぞ」と咎めるが、当のゴンが苦笑いしている。
「いやあ、二〇人目で親分にのされた時から、この隊長さんの下で働きてぇって思ってたんでさぁ!」
「オイラもさ! 忍者に勝てるお武家さんがいるなんて、思ってなかったからな!」
「………オ、オレも、オレも」
しかし、カイだけは微笑みを浮かべるだけ。なんだい、お前さんは嬉しくないのかい? ノボルは問うてみたが、鼻をこするだけ。
ライゾウがニタニタと笑った。
「カイの兄貴は、照れてるだけっスよ、ダンナ」




