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開戦にて御座候


 二日後、ドルボンド軍が迫ってきた。密偵からの知らせだ。もちろん繁華街はすでに、撤退を完了している。

 合戦準備の号令がかかる。頭上のドクセンブルグ陣地からだ。ノボルは兵士たちに命じて、自らも小山の暗がりに身を隠した。視線の先は、国境の壁だ。

 だが、なかなか敵は現れない。

 一〇刻(午前一〇時)をまわる。一一刻も過ぎた。それでも敵の姿は見えない。

 さすがにジレてきたが、勝手に動くわけにはいかない。そうこうしている間に、昼になった。仕方なく、兵士たちに命じて携行食をとらせる。ノボル自身も乾パンを口に入れた。

 ドルボンド軍が姿を現したのは、昼をだいぶん過ぎてからだった。

 ノボルたちは身を隠す。つまり戦況は、まったく見えない。


 よってこれからしばらくは、視点を移行。


 まず、国境を守るワイマールの門番が、ビラモア砦に向かって逃げ出した。その後ろから、先遣隊らしき小隊が侵入してくる。数は三〇人程度。

 次は一〇〇人組レベルの槍兵が入ってきて、国境の門で槍をかまえる。続いて弓兵。これは数が多い。そしてかなり深く侵入して、盾をならべた。弓兵の背後に槍隊、剣士隊、そして五〇騎ほどの騎士が整列した。

 騎士団は旗を立てている。ドルボンド王室の家紋が入った旗だ。王家の者が大将をつとめている証である。

 しかしワイマール陣営では、密偵を介してそのことは知っていた。末の王子ヘンリーの初陣ということも、確認済みだ。

 そのワイマール陣営は、すでに本陣からビラモア砦の櫓の上に移動していた。三の壁の奥、合戦場が見渡せる高さだ。

 参謀長はルグル侯に許可をとり、ラッパ兵に「警戒」の合図を吹かせる。ラッパが響き渡ると同時、ドルボンド軍が前進を始めた。国境の門からも、先端を尖らせた丸太が引きずられてくる。

 参謀長は呆れた顔でルグル侯に言う。


「殿、どうやらドルボンドが遅参したのは、あの大荷物を運んでいたのが理由のようですな」

「ふむ、遅参は我々に失礼だが、気を悪くせずたっぷりともてなしてやりなさい」

「かしこまりました」


 参謀長は、「弓兵戦闘準備」を命じる。前進してくるドルボンド軍は、丸盾を携帯していた。弓兵にいたっては、雑兵隊より小振りな、立て掛け式の長盾である。

 一の壁から、約二〇〇メートル。ドルボンドは足を止めた。

 砦に向かって、一人の槍兵が歩いてくる。槍の先から赤布を垂らしていた。使者である。

 使者は一の壁の前まで来ると、口上をのべた。

 曰く、ワイマールは卑劣にも貯水場を建設し、全人類の財産である水を独占しようとたくらんでいる。我々はこの愚行に対し、天誅を下すべく乗り込んだ。

 今この場で貯水場を破壊するか、一戦交えるか、返答せよ。


 対するは一の壁を守るルガー侯だ。

 我々の計画にやましい所はひとつも無く、ドルボンドの言い分は難癖であり、到底受け入れがたい。兵をまとめて帰還しなければ、侵略行為とみなして討ち果たす。

 そのように伝えよ。


 使者は陣営に戻り、大将にそのことを伝える。一二歳のヘンリー王子は作法に則って、戦闘開始の指示を下した。これで一連のセレモニーは終了。いよいよ開戦である。


 まずは盾で身を守る弓兵の前進。小山と小山の間を通り、一の壁へと接近。

 そこへワイマール陣地で、「弓兵戦闘開始」のラッパが。一の壁から飛来する、矢の雨……と思ったら、それほどでもない。ドルボンド弓隊は盾に隠れて前進と、盾の陰からの射撃を繰り返し、ジリジリと進んでくる。

 ワイマールは一の壁に、申し訳程度の兵しか配備していない。この陣地はいわば釣りの餌で、本命は二の壁。こちらに兵を蓄えている。


 しかし弓の射あいが有利と踏んで、ドルボンドは攻城兵器の丸太を準備した。丸太一本に二〇人、片側一〇人ずつ。ロープでくくった丸太を引き上げた体勢で、扉めがけて突撃してきた。

 同時に梯子をかついだ兵士たちが、わらわらと群がるようにして一の壁にとりついてくる。

 これでは弓兵も、丸太をねらえばいいか梯子をねらえばいいか、はたまた弓合戦を続けるべきなのか、狙いがバラバラになる。

 その隙に、丸太が門扉に激突。頑丈な扉が大きくきしんだ。ドルボンドの兵たちは丸太を引き抜いて、再度突撃のかまえ。壁の上からの射撃にかまわず、声をそろえて駆け出した。


 ワイマール兵の矢は、半分丸太部隊に。もう半分は梯子部隊にかけられた。すると敵の弓兵に対して、矢をかける兵士がいなくなる。ルガー侯が赤旗を振り、撤退を要求。ほぼ同時、弓兵に撤退ラッパが鳴らされた。


 奮い立ったのはドルボンドの丸太兵たちだ。この門扉を砕けば、勝利は自軍に大きくかたむく。

 二度目の突撃で扉が変形。三回目で、ついに扉を吹き飛ばした。

 ドルボンドの陣営では、これを勝機と見た。突撃ラッパを響かせる。丸太が引き抜かれると、槍兵剣兵弓兵問わず、我先にと門扉跡に殺到した。


「王子、勝敗は決したようです」

「では本陣の兵士たちも、乗り込ませようか」

「御意」


 と、ヘンリー王子と騎士団長の間で、言葉が交わされる。

 騎士団長は、守りについていた槍と剣士を二手に分け、小山二つの攻略を命じた。

 あの山にワイマール軍はいない。もしいるのならばすでに、丸太攻撃中のドルボンドへなだれ込んでいるはずだ。

 騎士団長は、そう踏んでいた。


 しかし……。

 ドラゴ中将の部隊が槍を励ました。ドルボンド兵をカカシのように突き倒す。中には斜面を転がり落ちる者も出た。もうひとつの小山では、南北連合軍が、ドルボンドの進撃のはばんでいる。どちらも上手く回り込み、一の壁前の密集の中へ、追撃隊を追い込んだ。そこへドラゴ中将の号令一下。二〇〇〇のワイマール軍がなだれ込み、退路を完全にふさいでしまった。


 焦ったのはドルボンドの騎士団長である。急いで撤退ラッパを命じたが、混乱した兵士たちの耳には届かなかった。


 ここまでの流れは、あまりにドルボンド軍が無能に見えるだろうが、これには理由がある。

 ひとつは全体の流れを簡略化しているためだ。こういった簡略化した文章では、敗者があまりに稚拙な判断ミスを冒しているように見えたり、愚者まがいの選択をしているように見えたりする。

 史実などはこと細かに調べたり、様々な角度から検証してみると意外なほど当時の指揮官が、正しい判断をしながらも敗れていたりすることを発見できる。

 ドルボンド軍騎士団長も、さまざまな思慮から判断決断を下したのであって、決して愚者という訳ではない。


 もうひとつの理由は、両軍の目的がまったく違うという点があげられる。

 ワイマールは国王の方針で、可能な限り敵を捕虜としたい。そのためこの三重の壁を築き上げ、兵を配し策略を練った。そしてワイマール軍は、敵の目的が「進軍」であり、その手段として「殺害」を用いることを熟知していた。

 これが重要な点で、事実ドルボンドは一の壁を突破しても、進撃をやめなかった。二の壁にはばまれても、その意思はくじけることなく、さらなる突破を目指していた。だから簡単に背後を押さえられてしまったのだ。


 もうひとつの理由をあげるならば、ヤハラがすでに言っている。間諜の差があげられるだろう。

 ワイマールでは質量ともに、ドルボンドをはるかに凌駕する間諜を放っていた。それは国境の壁から監視していたドルボンドの間諜を、ワイマール側で始末していたという点でもわかる。もちろん、ドルボンドの大将が王子であり名前や年齢、初陣であることまで調査が済んでいた点も、間諜の差をしめすものだ。

 ドルボンドの間諜が劣っている点をあげるなら、ワイマール軍の数をどれだけ把握していたか、疑わしいところがある。もしも、ドルボンドがワイマール軍の人数を正確に把握していたなら、一の壁からの矢が少なすぎるとあやしんで、違う展開となっていたはずだ。


 最後にあげるのは、戦さに対する取り組みの差、と言えるだろうか。

 ワイマールが策を講じたのに対し、ドルボンドは数を頼みに力押ししただけである。

 もちろん戦さには馬力や勢いは必要だ。それを出すべき時に策略がどうこうと言うのは、まったくの間違いである。

 ただ単にワイマールの策により、「それを出すべき時」を見誤ってしまっただけだ。ワイマールの数が少ないと見たのならば、丸太による突入はまったく正しい選択だった。やはり、間諜の差がここにも影響を与えている。


 ドルボンド軍が一見狂言役者のように見えるかもしれないが、実際にはそうではない。一軍が敗れる時というのは、割合こんなものであったりする。


 懐刀とも言える槍と剣士を失ったドルボンド本陣だが、まだ勝機はある。騎士団長の号令で、五〇騎士のうち四〇がランスを構えた。背中を見せているドラゴ軍に突撃を開始した。


 ワイマール本陣の櫓上、作戦立案所は、その動きを見逃さなかった。すかさずラッパを命じる。

 丸裸になったドルボンドに対し、突撃を決めるのだ。


 ラッパは短・短・長・短・短で吹き鳴らされた。


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