本編終了の反省会に御座候
本編はこれにて終了。
あとは「おまけ」がございます。夜までお待ちください。
玉座の間。
代々の統治者が君臨した厳かなる場所。
そのかしこまるべき場で、ノボルはかしこまっていた。別な言い方をすると、正座させられていた。
目の前ではヤハラが微笑んでいる。こめかみに血管を浮き上がらせて、穏やかに微笑んでいた。言葉を変えて言うならば、ヤハラはものすごく怒っていた。
「……で、殿。国王たる者が城内において、無銭飲食。……これは、間違いありませんね?」
「いやヤハラどの、それはちと違い申して、タカリを受けたが故に金銭が足りなくなった、と。つまり俺は悪くない」
右手の中指でツイッと、ヤハラは眼鏡を押し上げる。
「なるほど、それは災難でした。ではお訊きしますが、無銭飲食で捕まった。これは間違いありませんね?」
「冤罪に御座る」
「おかしいですね……ではなぜ就寝直前の私が叩き起こされて、他人の飲食代を自腹でまかなうことになったのでしょう?」
あのクソじじい、次に会った時は覚えてやがれ。腹の中で悪態をつく。
「よろしいですか、殿。王国はまだ不安定。なにが失脚の原因になるか、わからないのです。そういった折にこのような不祥事、ヤハラも打つ手がありませんぞ」
何をしているのか。ヤハラもゆったりとしたズボンを捌いて、ノボルのとなりに正座した。
雅やかな楽曲が玉座の間を包む。控えの間の扉が開いた。
何事だろうか?
露払いにイズモ・キョウカ、扇で口元を隠したリコ、太刀持ちのアンジェリカが入ってきた。三人並んで、ノボルたちの前に正座する。
ヤハラは両手をついて頭をさげる。何がなにやらわからないが、ノボルもそれに習った。
「これよりお妃さまのお裁きを始めますわ。一同、おもてを!」
たぬきがなんか偉そうにしてる。と思ったが、質問するのも面倒くさい。
リコは扇で口元を隠したまま、イズモ・キョウカに耳打ち。
「何が失脚の原因となるかわからないと申されましたが、その原因は……ヤハラさま」
「はっ!」
「維新断行の筋書き……すなわちヤハラさまの落ち度とうかがっております。申し開きなさいますの?」
「さてキョウカどの……いえ、お妃さま。私には何の話やら」
またもリコが、キョウカに何か告げたようだ。しかしこれはただの芝居だと、ノボルは踏んだ。リコが政治に意見する訳が無い。
ついでに言うならば、たぬきがリコとアンジェリカをそそのかし、このようなお裁きのふりをした茶番劇を仕組んだのだろう。
「この度の維新、ヒノモトさまが先王を討ち取ったという話ですが……」
「左様、拙者が討ち取った」
「何故生かしておかなかったのですか、ヤハラさま?」
ヤハラは「ははっ」と頭をさげるばかり。
「生かしておいた上で先王から、王位を引き継ぐという手段が何故取れなかったのでしょう? その方が民草蒙すみずみまで、納得いく維新だったのでは?」
イズモ・キョウカはため息。ヤハラはひたすら「平に平に」と、頭をこすりつける。
左手の太刀……ならぬレイビアは立てたまま、アンジェリカがにじり寄って来た。そして懐から手拭いを出して、ノボルたちの目の前に置いた。
開いてたもれと、アンジェリカが言う。口元がムニョリと歪んでいた。笑いをこらえた口元だ。
お前もグルなんだな?
目で訴えると、たまには良い薬じゃと、目で答えてきた。
ヤハラが手拭いを開く。イラストが描かれていた。
「染め物屋に急ぎ注文したものですわ」
先王から戴冠されるノボルのイラストであった。
「私がこのようなグッズを配布し、ようやく世論を円満即位の方向に向けたのですが……どれほど資金がかかったものやら」
ヨヨヨと泣き崩れるキョウカと、それを支えようとするリコ。もちろんたぬきの頬は濡れていない。
リコ、悪い友だちを作ったな。
素直にそう思う。大体にしてこのような染め物、事前に用意していなければ現物など目の前に出てくる訳が無い。
ヤハラめ、いつの間にたぬきと話をつけていたか。
「そうは申すがな、キョウカどの」
頭をあげて腕を組む。
ノボルには確信があった。
「おそらくはキョウカどのの商い、生涯順風満帆にゆくと思いますぞ」
「あら、何を根拠にですの?」
キョウカはこちらを向いた。もちろんリコもアンジェリカも、夫の意外な言葉に食いついてきた。
「キョウカどのにはわからぬかもしれませぬが」
ノボルは部屋の片隅に目をやる。先ほどからずっと、気配がしていたのだ。
「この国の英霊たちが、我らを護るゆえ」
癇癪を起こしたように、キョウカが怒り出した。リコとアンジェリカが止めに入らなければいけない勢いだ。
小さな拳でペチペチ叩かれながら、ノボルは英霊たちに目を向ける。
誰も彼も、腹を抱えて笑っていた。
「よし、ヤハラどの! ここは撤退だ!」
「なんと殿! ヒノモト・ノボルが撤退ですか?」
「城下の酒場でメートルあげて、捲土重来を謀る! 我に続け!」
どんくさいたぬきを置き去りに、ノボルは駆け出した。後ろなどは振り向かない。
駆けるだけさ、俺の人生は。そうでなくては、王はつとまらぬ。
ヤハラやたぬきの気苦労など気にせず走り出す。そうでなくて、何ができるか。
人間はでこぼこ生きているから面白い。
のちに語った、ヒノモト王の言葉である。




