その2
なにを申すか、あれらは全て……言いかけた国王が何かに気づいたように、ハッという顔をした。
「お気づきになられましたか、陛下」
ルグル侯が詰めに出た。
「……………………」
「陛下はこここそ国王の決断。人の身ならぬ神の聖断という場面で、欲に憑かれたボルザックに判断を任された。神の聖断ならぬ、人の判断を下されてしまったのです」
「いや、待てそれは……」
私の意見は間違いですかな? ルグル侯が問うと、国王は再び黙してしまう。
「御聖断二度あるべきところで、なぜ陛下は人になってしまわれたのでしょうか?」
ゆらりとした人の気配。誰だろうかと、ノボルは夜の闇に目をむけた。
そこには、ドラゴ中将の姿が。もはや人の世の者に非ず。青ざめた顔色と一点を見据えた眼差し。
「などてすめろぎはひととなりたまいし」
中将は口も開かずに呟く。
などてすめろぎはひととなりたまいし
その背後に、第二王子の姿も現れた。
などてすめろぎはひととなりたまいし
などてすめろぎはひととなりたまいし
言葉が繰り返されるたび、第三第四王子。
さらには、決起軍隊長として刑場の露と消えた同志たちが。
などてすめろぎはひととなりたまいし
などてすめろぎはひととなりたまいし
などてすめろぎはひととなりたまいし
陣幕を取り囲み、黄泉の国より声を届けてきた。
悲嘆の声ではない。志なかばで路傍に朽ちぬとも、恨みを吐く連中ではない。怒りの声でもない。ただ事実、「なぜ陛下は人になってしまわれたのでしょうか?」と、それだけを問いかけ続ける。
などてすめろぎはひととなりたまいし
などてすめろぎはひととなりたまいし
「済まなかった」
国王は頭を垂れた。
「汝らを見殺しにしたのは、朕が不徳であった。これからはワイマールをより良い方向へ導くゆえ……」
謝罪に非ず
闇の中から声が野太く、力強く響く。
我らが求むるは事実のみ
「事実というのであれば」
ノボルは口を開く。
「国王のあやまち、というのが事実ではあるまいか」
哀れみの心など微塵もなく、下長を抜いた。
「いかがであろう? そろそろ人の世で決着といきたいのだが」
「……………………」
鬼籍の者どもの、声は止んだ。
そして一人、また一人と闇の中へと帰ってゆく。
陣幕の入り口を最後に横切ったのは、大柄な男の姿であった。
ちらりとノボルを見た……ような気がした。
「嫁二人のとこに寄ってやれ」
声をかけると、うなずいた……ように見えた。
姿も気配も消え去り、またぬばたまの闇。
「待たせたな」
ノボルは罪人に声をかけた。
「もう、申し開きは聴かぬ」
「待ってくれぬか」
「問答無用っ!」
そうだ、問答の時はすでに過ぎ去ったのだ。ヤハラは机をずらした。血を避けるためである。地図を守るため、とも言う。
陣幕に鮮血が飛び散った。生臭い香りが充満する。首を失った咎人は、傷口から二度三度血液を噴出させて、それから横たわった。
もう、血はほとばしらない。
飛んだ首を拾い上げ、ルグル侯に示す。
「間違いありません。国王陛下にあらせられます」
傷口から竹竿を差し込む。その竹竿を、ノボルは陣幕の入り口に立てた。
「次はボルザックだな」
ヤハラに訊く。
「捜索舞台が良い場所を囲んでおります。時間の問題かと」
「うむ。……ルグル侯、御足労でした」
役目は終わったとばかり、ルグル侯は微笑む。
「維新断行の決意、あらためてこの目に焼きつけました。さすが、ドラゴの伜ども」
ノボルの頬もゆるむ。
しかし、すぐに顔を引き締めた。
次こそは本命、巨悪ボルザックの首なのだ。
世の中にはどうしようもないことがあります。作り手にとってどうしようもないこととは、筆が走るペンが走る、指が走るという現象です。
つまり何が言いたいかというと、私は悪くない。こんなシーン、予定してなかったのに……。




