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オマージュとリスペクトに御座候

今日明日の更新は三島由紀夫の「英霊の聲」に対するオマージュとリスペクトで出来ています。タイトルで毛嫌いする方もいらっしゃるかもしれませんが、世の中何が心の琴線に触れるかわかりません。是非御一読を。


 深夜。

 絹のようにしなやかな雨が、首都ドクセンブルグを包んだ。月がかくれてしまったのだ。その聴こえるか聴こえないかという雨音の向こうに、かすかな気配をノボルは感じ取った。

 来たな。

 しかし、声には出さない。察しのよい兵は、ノボル同様に気配を感じ取っている。肩のあたりに気迫がみなぎっていた。その中にはロウがいてテライモがいて、ヒノモトの古ツワモノたちもそれを感じ取っているようだった。

 絹の雨が弱まってきた。城壁からの明かりに、辺りはわずかばかり照らされている。

 見張りの兵が現れた。

 ルグル侯の軍が到着したことを伝えてくれる。ノボルは「総員突撃用意」と低く命じた。自分は先に立ち上がり、外が見える場所につく。ヤハラも一緒だ。

 外は雨。

 その雨が作る薄絹の幕と闇のむこう、兵隊の行進が現れた。

「……殿」

「うむ……」

 門番とのやり取りが、かすかに聞こえてきた。もちろん遠いせいで、何を言っているかまでは聞き取れない。

 が。

 城門を閉ざす扉が動いた。きしむような音を立てて、ゆっくり降りてくる。城との間に横たわる、掘りを渡す橋のかわりにするためだ。洋城によくある、アレである。

 ノボルは右手を挙げた。ここから駆け出して、城門まで十数える間、と見ている。打ち合わせでは、無言の突撃。無言の襲撃となっていた。

 あと少しで扉が接地する。ノボルは右手を振り下ろした。

 兵たちが無言で駆けてゆく。

 行け行けドンドン、もっと行け! もっとやれ!

 ノボルは心の中だけで檄を飛ばした。

 最後の部隊は雑兵隊。場馴れしている。さすがコズミク城攻略の経験部隊だ。

「いくぞ、ヤハラどの」

「はい!」

 とても恥ずかしい気持ちだったが、ノボルは最後尾についての突撃だった。雨の中へ飛び出すと、すでに先頭は場内に突入している。おそらくは交戦しているだろう。

 ルグル軍は邪魔が入らぬよう、城に背を向けて布陣している。ルグル侯がいた。目が合う。互いに無言、目礼だけで済ませる。

 城門をくぐると、辺りはヒノモト装束であふれていた。城内から机が運び出され、ノボルたちの前に置かれる。竿が立てられ、「指揮所」の旗がなびいた。ランプと提灯で、昼間のように照らされる。

 雨が止んだ。三方を陣幕で囲まれる。ヤハラは机に地図を広げた。城の地図である。

 伝令が来た。

「雑兵隊ならびにたぬき軍、西側より城内に突入。一階の封殺に入りました!」

「わかりました。西側の封殺が済んだら、二階にも封殺部隊を送ってください」

 封殺。

 敵にとってはいきなり現れた奇襲部隊。彼らは城内の扉にカスガイを打ち込み、兵士をを外に出られぬよう閉じ込めて回っているのだ。

 そしてさらに伝令が来た。

「捜索部隊が奇襲部隊に続き突入。現在上階を目指しています」

「わかりました。ボルザックは四階参謀本部近辺……自室が本部のそばにありますから……そのあたりにいるものと思われます。重点的に捜索してください」

 はい、と返事をして伝令は帰って行った。

 ヤハラの地図にはピンが刺されている。赤いマチがついたものが、決起軍のようだ。城の西側に集まっている。青がボルザック軍であろう。その他の場所に散りばめられていた。

「屋外の占拠はどこまで進んでますか?」

 幕の外に声をかける。指揮所守備の兵が、「ほぼ制圧しました」と答える。

「ではヒノモト軍は一個中隊を残し、南北と東の門を制圧してください」

 守備兵が伝令がわりに走った。

 また伝令だ。

「西棟一階の制圧完了。一個小隊を残し、西側二階と中央棟にむけて進軍中です」

「わかりました、そのまま制圧と捜索を続けてください」

 ノボルからすると、伝令の出入りが激しく見えた。ヤハラは伝令に返事をしたり指示を出したりしているが、一度も机上の地図から顔を上げていない。まるで、「私の戦さは机上にあります」と言わんばかりである。

 地図上のピンを抜いては刺して、刺してはまた抜く。それのどこが面白いのか? ノボルには理解できない。

「やはりカスガイで兵を封じるというのは、大正解でした」

 ノボルに話しかけてきたみたいだ。地図から目を離さないので、今ひとつわかり難い。

「最小限の兵を残しておけば、本隊が次の目標に取り組めます。やはり大正解でした」

「なるほどな。……時にヤハラどの、この地図はどうやって手に入れたのかな?」

「ライゾウさんから届けられたものです。彼はすでに国王の抜け道はふさいでくれていますし、ボルザックが城に留まるよう工作もしてくれました」

「ボルザックが城に残る?」

「奴は自宅持ち、毎日帰宅してます。ですが、そこを少々……」

「ほう、妻や子がいるのか」

 考えてみれば、ノボルはボルザックのことを何も知らない。顔すら見たことが無いのだ。

 それを敵と呼んで討ちにゆく。どうにも変な気分だった。戦さならばそのようなこと、当たり前のはずなのに。

 などと考えていたら、ヤハラの返答は意外なものだった。

「ボルザックに妻も子もいません。奴は、男色家です」

 あらま、と簡単に考えるのは、時代と社会がそういうものだからだ。

 ノボルは一般兵に毛が生えた程度の身分で、軍に入った。それ故に、戦地での性処理は比較的自由である。隊を率いてその手の店を成敗しに行くことも可能だ。

 しかし、お偉いさんは違う。所持している情報は機密レベル。不慮の死を遂げれば軍は撤退を余儀なくされる。

 ならばどのようにして性処理をするのか?

 それが男色行為なのである。忠義を誓った者にさせるのだ。これは忠義の一種であり、変態的な行為ではない。

 ……戦場においては、だ。

 日常的かつ妻もめとらずこの行為にふけるなら、それはあれこれ言われても仕方ない。ボルザックという人間は、あれこれ言われる側の人間なのだ。

「ちなみに私は、ボルザックの好みには当てはまらなかったようです」

 男女の間にも好き嫌いはある。なかなかボルザックも、うるさい男のようだ。

 そのボルザック好みの男に、頼んだものらしい。今夜はボルザック、帰宅していないそうだ。

 そうこうしている間にも、赤ピンは地図上に広がってゆく。進軍の速度が尋常ではない。

「当たり前です。本来ならば走る速度+αを予定していたくらいですから。これでも時間がかかっている方なんです」

 しかし、殺すよりも扉を封鎖する方が確かに早い。なるほど納得というところだ。それに誤殺とでも言うべき、戦闘中の事故も防げる。

 おまけをつけるなら、ノボルたちの目標は維新である。それを達成するために国王とボルザックの命を奪うだけのこと。それ以外の命は奪う必要が無い。むしろ生き残ってもらい、新政権の安定に力を注いでもらいたい。なにしろ国土は二倍になったのだ。人材はいくらでも欲しい。

 抵抗する者も、いるかもしれない。しかしそのような者がいれば、ノボル軍の武力と、たぬき商会の経済力を見せつけるだけのこと。難しいことはひとつも無い。

 ヤハラとたぬき商会がノボルの背中を押してからこっち、少しずつわかり始めたことがある。

 やがて戦さは、刀剣の時代ではなくなるだろう。金貨の数がモノを言うようになるに違いない。たぬき商会は商いにより、金貨を生み出し金貨を回転させている。それを見れば、国王ひとりが富を抱え込む時代ではなくなる、というのがよくわかった。

 イズモ・キョウカの商いは、売る側買う側ともに利益となる、Win:Winの商いだ。両者の利益になるのだから、その関係が次の商いを生む。しかもより大きな、より太い商いを期待できる。

 明日の利益は安定を生む。希望を生む。計画を生み人に知恵を与える。

「……なにやら、時代に取り残されそうな気がするな」

「何を言ってるんですか、殿?」

「いや、イズモ・キョウカを知りヤハラどのを抱えていると、自分が時代遅れになった気がしてな……」

「たそがれてる場合じゃありません。時代遅れどころか進化の止まった連中が、城の中にまだゴロゴロしているんです。その時はまだまだ、殿の剣が必要になるんですから」

 地図全体に、赤ピンが広がった。現在は捜索部隊が、標的二人を捜しているところだ。

「国王発見っ!」

 伝令が飛び込んできた。いま、捜索部隊が連れてくると言う。ヤハラはルグル侯を呼んだ。城内の誰も、国王の顔など知らないのだ。

 老人が連行されてきた。寝間着姿である。陣幕の内、ノボルたちの目の前で膝を着かされた。まだ雨に湿った地面にだ。

「……国王か?」

「陛下とつけよ、愚か者! この夜中に何の騒ぎかっ!」

「心当たりは無いのか?」

 ノボルはあくまで大上段。かつてドルボンドの王族に払った敬意は無い。目の前にいるのはノボルにとって、国を傾けたカン賊である。もちろん敬愛するドラゴ中将の殺害を許し、ゴンを始めとした決起軍を討伐したという恨みも、ない訳ではない。

 しかし、俺は……。

 もう私人ではない。私の怨みを持ち込んではならない立場なのだ。

「お前たちは何者だと訊いておるっ!」

 こちらもまた大上段。またも反乱軍か、というところだろうか? しかも今度は朕に手をかけるなど、不敬にもほどがある! とでも言いたそうだ。

「国王陛下、お久しぶりです」

 陣幕の内に、ルグル侯が入ってきた。

「おぉ、ルグル! 貴公がついていながら、なんということかっ!」

「ルグルがついているからこそ、このような事態と相成りました」

「……………………」

 国王は言葉に詰まった。どうやら恫喝などでは解決ならぬ事態と、ようやく気がついた様子である。

「いや、むしろこの事態は、国王陛下御自身が招いたもの、というのが正しいでしょうか?」

「なにっ?」

 国王には二つ、咎がある。

 ルグル侯は言った。

 ひとつはドラゴ中将の殺害を許してしまったこと。

 忠臣の中の忠臣を失っていながら、その罪を追及しなかったこと。

 そしていまひとつは、決起軍の声を聞かなかったこと。何故兵が決起せざるを得なかったか、それを追及しなかったことである。


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