その2
さて、そうなるとやはりヒノモトの装束が問題になる。ルグル侯をはじめとした本土軍はまだいい、洋装だ。しかし新領地軍のヒノモト拵えは、あまりに目立ちすぎる。
「それに関しては、夜陰に紛れて行動すれば大丈夫かと」
まずは諸侯の接近により、城に開門させる。開門直後、伏していた新領地軍(少数)により城門の開閉を制圧。諸侯軍は城外待機、万が一本物のボルザック派シンパが接近した場合、これに対応する。入城するのは新領地軍のみとする。
「なるほど……ならばこの作戦、肝はどこになる?」
「新領地軍の隠密性にあります。いかにして我々がボルザックの目を欺くか? そこに尽きます」
「城のそばに、我々をかくまってくれるような、そんな協力者がいるだろうか?」
と口を開いた途端に、思い出した。しかもヒノモト装束が目立たない集団である。
たぬき商会だ。
あちこちに開設したたぬき商会の営業所は、大抵集荷場を持っている。そこに身を隠していれば良い。
「おおむね骨子が固まってきましたね。今夜の宿営地で各軍の長に、この策を説明したいのですが」
「うむ、よかろう」
次の領地に入った。城からの情報で、年貢徴収のために兵を出すか出さぬかで、かなり揉めているようだ。
城としては、諸侯の援軍を集めるだけの金は無いという。いや、それどころか年貢の集まらない昨今だ。城の兵さえ出したくない。というかそんなことをしている場合ではない。すぐに節制の態勢に入らなければ、城がもたないという。
そこを捻出するのだと、ボルザックは退かない。ここで兵を出しておけば、来年からはいつも通り年貢を徴収できる。いや、新領地にこれまでの負担をかぶせることができる。今が正念場なのだと訴えたらしい。
「ボルザックの動きは予想通り。しかし城がこれだけ抵抗するのは、予想外だな」
「それだけボルザックの求心力が落ちているのです。もしもボルザックが兵を出せなければ、それはまたそれで」
策を練れば良い。ヤハラはそう言った。
そして予定より早く、ヒノモト州の軍勢が合流。合流はいいのだが、数が三〇〇〇名と必要以上に奮っていた。これではノボルたち新領地軍に、たぬき軍を加えた数と同じくらいだ。ついでに言うと……。
ノボルたちの進軍は西側からドクセンブルグを目指している。そのドクセンブルグよりも東側にあるヒノモト州からの援軍。……ということは?
やる気がゲージを振り切ったヒノモト軍は、目的地ドクセンブルグを通り越して、ノボルたちと合流したということになる。もはや破壊したゲージからやる気があふれ出して、あちこち侵食をはじめている、というありさまだ。
「やり過ぎでしょ……ヒノモト州……」
と、あのヤハラも呆れたほどだ。
しかも無駄に士気が高い。一人で一〇人の首をあげるのだ、などと「お前らの敵は何人いるのよ?」と訊きたくなるようなことを、平然と叫んでいたりする。
「……殿」
「……なにかね?」
「ヒノモト衆を久しぶりに見て、感想を一言」
「頼もしい限りじゃないか」
そんなヒノモト衆に、たぬき商会軍が合流した。ますます快気炎をあげている。その中にはロウ入道がいた。テライモの姿もある。
そして……。
「殿、悪い報告があります」
「聞きたくない」
「ヒノモトの士気と快気炎が、他の部隊にも伝染してます」
「知らねぇなぁ……」
「分かりやすく言うならば、馬鹿が増殖しています」
よし、とノボルは立ち上がった。何とかしてやろうと、ヤハラの肩を叩く。
「何とかしてくださるのはありがたいのですが、殿。……なんですか、その右手に握った一升瓶は……?」
見つかったか。ならば止める隙を与えないだけ。
栓を抜くと、ノボルは一気に酒をあおった。
「目に焼きつけておけ、ヤハラくん! これがヒノモトのやり方だっ!」
口の端からこぼれた酒を拭い、ノボルはもろ肌脱いで駆け出した。
「みなさんっ! わたくしがっ! ヒノモト・ノボルで御座いま〜〜すっ!」
ばか騒ぎに飛び込んだ。大将の登場に、場は狂気の度数を跳ね上げる。
ノボルは揉みくちゃにされた。胴上げまでされる。胴上げで宙に舞うたびに、袴が脱がされ着物が脱がされ、ふんどしが外され、全裸で何度も弄ばれた。
これでいい。
戦さ前なのだ。こうでなくてはならない。
おそらくボルザック派には、こんな笑いは存在しないだろう。誰も彼もが沈鬱な面持ちでうつ向いているに違いない。
だがノボルたちは違う。
みんな上をむいている。天にむかい高々と、手を伸ばしている。そして全軍、目的をひとつにしていた。
維新。
この二文字を達成するには、愚かなほどの若さと、愚かなほどのひたむきさが必要なのだ。
愚者よ報いを求めるなかれ。奔騰するただ一路に身を投ぜよ。
……なぜなら我もまた。
それが、維新の核なのだ。




