女の子は買い物がお好き
修学旅行を間近に控えた週末のことである。
月曜からはもう出発するため、この週末はのんびり過ごそうと思っていたところ、
「土曜日にショッピングモールへ一緒に行かない? 修学旅行へ持っていくもので買い足したいものがあるの」
咲良にそのように誘われた。僕としては少し面倒だったのだけれど、どうしても僕について来て欲しいと言われたので断れなかった。
どうせ荷物持ちとかそういうのだろうけどさ。
というわけで、土曜日の午前十時。僕たちはショッピングモールを訪れていた。僕“たち”というのは、僕と咲良の二人に加えて。
「私もちょうど服を買いたいと思っていたところなんですよ。偶然とは言え、こうして賑々しくお買い物に行くことができて光栄です」
「咲良ちゃんと香純ちゃんのどっちかと一緒に買い物に行くことはあったけど、両方と一緒なのは初めてだよっ。両手に花だね。なんか兄さんも居るけど」
優雨と香純ちゃんもついて来ることになった。咲良と出かけることを金曜の帰りがけに会った香純ちゃんに話したらついて行きたいと言われ、香純ちゃんも行くならわたしもと優雨まで加わったという訳だ。
咲良は今日は主に服を買いたいと言っていたので、僕なんかよりも同じ女子の意見を聞けてちょうど良いと思ったのだけれど。
「…………」
咲良は「こんなはずじゃなかった」とでも言いたげな残念そうな表情を浮かべている。
僕は何か選択肢を間違えたのだろうか。
今回僕たちが訪れたのは、地方にありがちな結構大型なショッピングモールだ。父さんたちが学生の頃から既にあるらしいけれど、見た目は綺麗で定番から流行りまで様々な店が中に入っている。ここで揃わないものはほとんどないと言って良い。
さて、今回来た一同を見回すと制服以外の姿を見るのが久しぶりな面々も居る。
咲良は薄桃色のコートの下に白いニットとスカート。
香純ちゃんは黒のコートの下にシックな色のニットとパンプス。
対照的ながら二人とも冬仕様のコーデをオシャレに着こなしている。逆に力の抜けたファッションを見たことがない。少なくとも僕が見る時はいつも気合が入っている。
おまけに、優雨はキャメルカラーのニットの下にスカートとタイツ。こいつはこいつでまあまあおめかしをしているなと兄ながら思う。
この三人はオシャレな上、人目をひく見た目をしているため、周りから心なし注目を集めている。冬の一張羅にいつものジーパンという僕が隣を歩いていると少し腰が引けてしまうね。
「そんなことはありませんよ。とてもよくお似合いです。安心感すら覚えます」
心を読んだかのように香純ちゃんからフォローを入れられた。
僕に微笑みを向けていた香純ちゃんは、咲良の方へと向き直る。
「服と言えば、葉山先輩。今ブティックで売っているものは冬物ですよね。修学旅行用の服をお探しとのことですが、旅先の沖縄の気候はこちらの九月や十月相当ですよ。このタイミングで買いに行っても見つかるのでしょうか」
そう言えばそうだ。僕も支度をするにあたって調べておいて、こちらで今着ているほどの防寒着が要らないことがわかっている。せいぜい薄手のコートやジャケットがあれば良いらしい。
しかし、咲良は香純ちゃんからそう訊かれるのも織り込み済みのようで。
「香純ちゃんの言う通りね。でも、広告で見たんだけど、秋物の処分でセールをやっているらしいの。だからどちらかと言えば、そちらが狙い目なの」
「なるほど。それは賢いですね」
香純ちゃんが感心したように頷く。
咲良の言葉通り安く買えるなら僕も何か買おうかと思ったけど、特に新しく買いたい服はないんだよな。何か良いものがあれば買うということにすれば良いか、僕は。
「というか、咲良は結構衣装持ちなのにこれ以上買ってどうするんだ」
「そんなことないよ。それに、お気に入りと流行りと気分で着る服を変えるから、どうしても欲しくなっちゃうの」
「……そんなことだから自分の部屋とは別にクローゼットだけの部屋が必要になるんだな」
「葉山先輩のお宅、クローゼット部屋があるのですか?」
香純ちゃんが驚きつつ食いついてきた。
「うん、一応ね。私の部屋の隣に。お母さんの服も入ってるんだけど、半分以上は私のものかな」
「以前、少しだけお邪魔したことがありましたけど、大きいし葉山先輩のお宅も富裕層なんですね」
「富裕層ってそれほどじゃ……あれ? 『も』って何?」
「いえ、晴輝先輩と優雨ちゃんのお宅も富裕層ですよね。四人暮らしにしては広い上、初めてお茶を出された時に普通にバカラのグラスが出てきて正直ビビりましたよ」
「「「?」」」
僕、咲良、優雨の三人で揃って首を傾げる。
そんな僕たちの様子を見た香純ちゃんは肩を竦めた。
「……本当、私たちって面白いコミュニティですよね」
ショッピングモール内に足を踏み入れたところで、咲良と香純ちゃんはブティックに吸い込まれて行った。場所が織り成す脚力である。
二人は鋭い目つきで品定めをしている。時折相談をしているような様子も見受けられる。咲良もさっきは何だか不服そうなようだったけれど、香純ちゃんたちも連れてきて良かったと思う。
「あれ? お前は見に行かなくて良いのか、優雨」
「うん。わたしは今特に買いたい服ないし。それにこういう光景も中々眼福だと思わない?」
「眼福って。どこがだ?」
「服選びって謂わば可愛い女の子たちが自分磨きをしているところでしょう。可愛い女の子がさらに可愛くなるんだと思うと、めっちゃときめくじゃん」
「ときめくのか」
「…………こんな甲斐性なしのために二人揃ってオシャレしようとしてるんだと思うと泣けてくるよ、わたし」
「ん?」
優雨が声のトーンを落として嘆いている。
その意味がよくわからな……くもないんだよな。修学旅行を控えた咲良はともかくとして、香純ちゃんが何故わざわざ僕たちの買い物についてきて服選びに躍起になっているのかと言えば、僕にオシャレした自分を見て欲しいのかな、という想像はつく。かと言って僕の方から何をすれば良いのかわからず、結局何もできていない辺りは確かに甲斐性なしかもしれない。
そんなことを考えていると、咲良と香純ちゃんが服を持ってこちらにやって来た。
「「晴輝(先輩)、試着するので感想をお願い(します)!」」
そう言い残すと、二人揃って試着室へ飛び込んだ。
僕、そんなにファッションセンスないんだけどな。
困って僕は隣を見ると、優雨は意地の悪そうな笑みを僕に向けている。
「……はぁ、わかったよ」
しばらく待っていると、二人同じタイミングで試着室から出てきた。
「おお……」
思わず声が漏れるほど、二人ともよく似合っていたーーそれでいて普段のイメージと違っていて驚きもした。
咲良は普段スカートを履くことが多いけれど、七分丈のシャツの下にパンツを履いていた。これもよく似合っていて、尚且つ動きやすそうだから修学旅行にちょうど良いだろう。
「スポーティーな感じで良いな。あまり見慣れてないけどよく似合ってる」
「ありがとう。動きやすそうで良いなと思って」
一方、香純ちゃんは深い青のニットの下にスカートを履いていた。しかもスカートの丈が膝上と短めだ。香純ちゃんはスカートを履く時も丈の長いものが多かったのでとても珍しい。
「短いスカートも似合うね。可愛らしさが増してる気がする」
「あ、ありがとうございます。でも、生脚をここまで出すのは照れ臭いですね。タイツを履きたいです」
こんな具合に安直な感想しか言えなかったけれど、二人ともお気に召したのか、試着した服をそのまま会計して買っていた。
でも、二人がそれぞれ選んだ服は本当によく似合っていたので、良いものが見つかって良かったと思う。
「さ、次の店に行きましょう」
「他にもオススメの店はありますか、葉山先輩」
「えっとね、私が気に入っているのは……」
あれあれ。
「ちょっと待ってくれ。あと何軒行く予定なんだ?」
「何軒って決めてないよ。ウィンドウショッピングってそういうものでしょう」
「そういうものですよ」
……せいぜいあと二、三軒だと思ってた。
「兄さん、女の子の買い物についてくるってのはこういうことなんだよ。諦めたまえ」
「ははは」
まあ、悪い気はしない。
咲良と香純ちゃんが仲良さげに並んで歩く姿は見ていてとても微笑ましいからな。
「二人とも待ってくれ。袋くらい僕が持つよ」
僕は意気揚々と歩く二人の背中を追いかけた。




