夢はこれから
サークル用短々編です。「夢」をテーマに書きました。
「夢オチが、物語においてタブーとされているのは、ご存知ですか?」
僕こと寺井晴輝と、妹の友だちである雲居香純ちゃんとの行く道の途中での雑談である――妹の友だちと二人っきりなんて状況はそうそうあるものではなく、それ故に記憶に残っていたのかもしれない。
「夢オチって、今までにあったあれやこれやが実は夢だった、ていうオチのことを言ってるんだよね? アレってタブーなのか?」
「はい、その通りです。――いえ、正確にはタブーとしている方も居る、と言った方が良いのかもしれませんが。私もその意見には賛成票を投じたいと思いますね」
「へえ? 夢オチはあれはあれでアリだと思うけど」
「本当にそう思ってるんですか? 数々の艱難辛苦を乗り越えた末に、その過程が夢としてある種なきものとされるんですよ。虚しくなりません?」
「それは分かるけど、むしろ逆じゃないか? 『夢で酷い目にあったけど、夢だった。助かった』って、自分の無事に安堵するところだと、僕だったら思うよ」
「……それでは済まない、無事では済まなかったという作品を数多知っているのですが、お教えしましょうか?」
「……いや、良い。間に合ってる」
「そうですか。……今は悪夢の場合を想定していますけれど、良い夢の場合だったらどうです?」
「うーん、…………確かに現実だったら良かったのに、とは思うだろうな。けど、そこからポジティブな展開が始まりそうじゃないか? ……そうなるためのモチベーションは産まれると思うぜ」
「なるほど、良い夢はより良い現実への叩き台になる、ということですか。そのように解釈すれば、夢オチは夢オチでアリということなのでしょうかね」
と、香純ちゃんが言ったところで、しばらく雑談が途切れる。別に真面目にディスカッションをしている訳じゃあないので、こういうこともあるだろう――――別に、話が進むにつれて、香純ちゃんが僕に擦り寄ってきたりなんかしてないんだけれど。ないんだけれど!
別の話を振ろう。僕は香純ちゃんとの距離を先ほどぐらいにまで離しつつ、
「夢繋がりで、将来の夢について話さないか? どうやったら叶うかなーっとか」
と、僕が言ったら、
「は?」
香純ちゃんは眉を寄せて、あからさまに嫌そうなリアクションを返した。
「『は?』って……。何だ、その反応は」
「あー、いえ、でも、敬愛する晴輝先輩が相手でなかったら、『はァ?』と言ってしまうところでしたよ」
「どっちも多分先輩に対する態度じゃないし――いや、別にそれは良いんだけど――、それに物凄く嫌そうな表情なんだけど。え、そんなに嫌なの?」
「嫌ですね。特に、夢を叶えるなんて馬鹿げてません? 夢は見るものであって、叶えるものではないんですよ。社長にスポーツ選手、アイドルに漫画家、エトセトラ。どれも憧れている内は楽しいものですけれど、実際になってみてやっとその夢のダークサイドを知ることができる――夢なんて叶えたところで、ただその虚しさを知るだけなんですよ」
「でも、それってさっき君が言っていたことと矛盾してないかい?」
「え? どこがです?」
首を傾げる香純ちゃん。
「君がさっき夢落ちを否定していたのは、過程を重んじてたからだろ。将来の夢って叶えただけでお終いって訳じゃないし、叶えるまでに得るものだってあるはずだ。君の言い方だと、そういう過程まで否定することにならないかな?」
と僕が言うと、香純ちゃんは拗ねたように唇を尖らせた。いやいや、そんな論破されたかのようなリアクションを取らないで欲しいんだけど。
「なら、例えば何を得られるんです? 友情ですか? 努力ですか? 勝利ですか?」
「いや、だから、そんなに嫌そうに言わないでくれよ。友情も努力も勝利もそうだろうけど、そもそも夢への過程って、今の僕たちのことじゃないか?」
「今の私たち、ですか? …………ああ、確かに。今現在、オンタイムの私たちって、まさしく夢への道を歩んでいる過程なんですよね」
僕たちは今登校している最中。もうすぐ、学校に着くだろう。
学校で僕たちは勉強したり、運動したり、部活したり、他にもいろんな経験をしたりして、僕たちは成長して行く。少しずつ、夢に近づいて行けるのだ。
一歩ずつ、前に――――って、
「何かただの雑談にしては、話が綺麗になりすぎじゃないかな? 恥ずかしくなってきたんだが」
「さあ、ご自分で話を振って来たんでしょう? けれどね、そういうロマンチストな殿方も好きですよー、私。ふふ、お後がよろしいようで」




