番外編・咲良・香純のふりかえりラジオ
香・「はいはい、こんにちはですよー。貴方の心に暗雲をもたらす、クラウド系女子、雲居香純です。この度は、最終話の一歩手前ということもあって、これまでの話を振り返っていこうという、文字通り『ふりかえりラジオ』をお送りすることとなりました。そこで不肖私がラジオパーソナリティを務めさせていただくことになったのですが、一人では荷が重いので、もう一方道連れ、もとい相棒を指名させていただきました。それでは、ドラムロール、カモン! ダラララララララララ、ラン!」
咲・「そんな、大袈裟な前振りは要らないから! ええと、はい、葉山咲良です。このラジオの存在意義、最悪の相性の中での相棒指名、色々と疑問が尽きませんが、よろしくお願いします」
香・「よろしくお願いします」
咲・「ねえ、香純ちゃん。あなたのキャッチコピーなんだけど、色々とおかしくない? 貴方の心に暗雲もたらす、とか不吉だし。あと、クラウド系女子ってどういう意味なの? 直前の部分を引きずると、こちらも不吉な意味になりそうだけれど」
香・「いえ、クラウドには群衆という意味も辞書的にはありますが、今回の場合はネットの方ですね。共有とか、そんな感じで」
咲・「あれ、悪い意味じゃないんだね。共有系女子……って、何を共有するの?」
香・「『赤信号、みんなで渡れば、怖くない』的なアレです。みんなで仲良く不幸や災いを共有しましょう」
咲・「お断りします!」
――――『優しい雨』〜『晴れて輝いて』
香・「さて、シリーズ最初と二番目のエピソードから振り返っていく訳ですが…………。私、全く登場してないので振り返りようがないんですよね。葉山先輩、お願いできます?」
咲・「うぅん、私も二話目の途中から登場したから、あまり言及することがないんだよね」
香・「当時、晴輝先輩と葉山先輩には弾丸会話という設定があったらしいじゃないですか。会話が段々一、ニ文字で済むようになってしまう、という。ただ、そういう設定を作ったものの、汎用性がなくて使われなくなりましたが」
咲・「なんで、知ってるの⁉」
香・「はっはー、私は何も知りませんよ。カンペが知ってるんです、葉山先輩」
咲・「うわ、本当だ。書いてある……」
香・「まあ、長期シリーズにはありがちですよ。そう気にすることはありません…………ひょっとしたら、ここから葉山先輩のヒロインとしての不遇が始まったのかもしれませんねえ」
咲・「どういう意味、それ⁉」
香・「どういう意味もありませんし、今さらどうしようもありません。さて、この時期ですが、あまりストーリー性のある作りではないんですね」
咲・「そんな簡単に切り換えないで欲しいんだけど…………、うん、そうね。この頃は物語にするつもりがなくて、キャラクターを登場させて自己紹介と挨拶くらいにしか考えていなかったみたい。と、カンペに書いてあります」
香・「確かに。この二つの話は家から出ていないどころか、リビングからすら出ていませんからね。しかも、中身もヤマなしオチなし、取り留めもない会話が終始するだけですから。特筆すべきところもありませんし、次に行きましょうか」
――――『父の日』〜『母の日』
香・「最初の二つのエピソードが時系列的にはそれぞれ六月、七月の話になりますが、『父の日』と『母の日』は更にそれよりも前ということになりますね」
咲・「『母の日』はもっと後に発表しているけれど、一緒に扱うのね」
香・「はい。発表順に開きがあっても、時期はかなり近いですから。『父の日』は、父の日当日に突発的な思いつきで書かれたらしいですね」
咲・「『母の日』は父の日があって母の日がないのはバランスが悪いから、って理由で書かれたらしいよ」
香・「それにしても、寺井兄妹のご両親は仲がよろしいですよね。それに、年齢の割には若々しい気がします」
咲・「そうね。おじさんおばさんは昔からあんな感じだったよ。あの二人の出会いは高校生の頃だったらしいけれど、その時って色々あったみたい」
香・「色々ですか?」
咲・「うん。色々な意味で問題のある生徒が多くて、大変だったみたい。私の両親も同級生だったから、少しは話を聞いているよ」
香・「なるほどなるほど。あの親あってこの子あり、という感じの世代なんでしょうね、あなたたちは。ねえ?」
咲・「ねえ? って言われても……」
香・「ご両親が若々しいという話に戻りますが、大人らしい大人なんて本当は居ないのかもしれませんね。私たちだって大人に近づきつつあるとはいえまだまだ子どもですし、急にスイッチが切り替わって大人になるわけでもありませんから」
咲・「確かにそうね。昔は高校生も大人に見えたけれど、実際に高校生になった今は全然そんなことはないわけだし。……それか、あえて大人ぶらないことが大人らしさかもしれないね」
香・「と、言いますと?」
咲・「大人になるにつれて、接する人の種類が増えていくでしょう? 全員に同じ態度を取るわけじゃない」
香・「少し前までの私は、自分以外の全員に口調だけは丁寧にしていましたが。ええ、確かに一般的にはその通りです」
咲・「だから、その丁寧じゃない方。顧客とか取引先ならぬ私たちには、もっとこう、ざっくばらんとした態度を取ることで、礼儀じゃなくて親しみを感じて欲しいんだと思うの。それこそ、家族で親子で……自分で言うのも何だけど、親しい関係にある子どもだから」
香・「なるほどなるほど。丁寧さや威厳を発揮するばかりでなく、あえてそれを感じさせないのもままありですね。まあ、ただそれを私たちから察してしまうのは邪推ですがね」
咲・「知ってても知らないフリ。優しい嘘はありだと思う」
香・「私も同感です」
――――『雲に覆われて』
香・「はい、ここで私登場ですね」
咲・「あなた登場だね。ここら辺から、シリーズの雰囲気が変わっていく印象を受けるんだけど」
香・「ですね。これまでは、話にもならない話を一話完結でやっていましたが、この話からは完結しきれない謎が残るようになります。伏線というやつですね」
咲・「うん。それに、初登場時のあなたって分かるような分からないような、どっちつかずの話し方をしていたから。晴輝は完全に分かっていなかったようだけど、あなたこの時心中穏やかじゃなかったでしょう?」
香・「はい、正直かなり苛ついていました。ネガティヴに鈍い貴女がよく分かりましたね」
咲・「あなたの毒舌はちゃんと届いているからね?」
香・「想いが届いて何よりです」
咲・「こんな想いは要らない!」
香・「想いは返品不可ですよー。と、さて、話を戻しますが、この話をきっかけに晴輝先輩の内面に踏み込んで行くことになるんですよね」
咲・「これまでも仄めかされてはいたけれど。ようやくシリーズらしくなった気がする」
香・「自分の内面を引っ掻き回された晴輝先輩からしてみれば、いい迷惑でしょうが。というか、この時の私って悪役みたいで怖くありません?」
咲・「底知れない感じがするよね。……でも、今もそこは変わらないよ」
香・「当時は狙って振舞った部分もありますが、今は知りませんよ。今の私はごく普通の平凡なヒロインなのですから」
咲・「ツッコミが渋滞しそうなことを言わないでくれないかな?」
香・「色々と意味が含まれたこの話ではありますが、そろそろ次に回しましょう」
――――『アイスクリームを食べよう』
香・「葉山先輩。私、思ったんですけれど、葉山先輩って普段現れないキャラクター性が多くありません?」
咲・「言わないで! 弾丸会話といい歴史好きといい、あんまり発揮されてないキャラクター性のことは触れないで!」
香・「可愛いものじゃあないですか。そういう抜けてる部分も、人間には必要なものですよ」
咲・「それより、後半部分よ。すでに明かされてるけれど、この時現れたのってあなたなんだよね」
香・「はい、それはもう自分で明かしましたよ。髪の毛を帽子に引っ詰めて、声を低くして」
咲・「でも、あの時って、あなたが晴輝の家に来るよりも前のことだよね。それなのに、私たちに接触してたのは?」
香・「言い方がまるで私が悪役みたいで泣いちゃいそうですけれど、あれは私の単独行動です。だから、優雨ちゃんに頼まれた範囲外ですよ。今から思えば、あれは余計なことをしていましたが」
咲・「この話って、あんまり掘り下げると気まずくならない?」
香・「次に行きましょう」
――――『暖かさの理由』
咲・「これは……なんで書かれたんだろう?」
香・「さあ、暇だったんじゃないですか? その割には、完結編の後の時系列っていう、結構際どい話なんですよね」
咲・「この時、私が初めて語り手だったんだけど、久しぶりのヤマなしオチなしの話で落ち着いたよ」
香・「その平穏に混ざる私は……どうなんでしょうね。馴染んでました?」
咲・「うん。でも、突然現れる、っていうあなたのクセはなんとかならないの?」
香・「なりませんね」
咲・「ならないんだ……」
香・「ところで、葉山先輩。一つお訊きしたいのですが」
咲・「なあに?」
香・「あと殆ど残すところは、『スウィート・レイン』から始まる完結編(嘘)になってしまうのですが、……振り返れます?」
咲・「うぅん…………。あそこからはシリアスな話が続くから、今のタイミングで振り返りをしちゃうと……」
香・「ええ。なにか、水を差してしまうような気分がしてしまいますよね」
咲・「そうなんだよね」
香・「葉山先輩の出番も少ないですしねえ」
咲・「それ、あえて言わなくても良かったんじゃないかな?」
――――『クエストは終わらない』
咲・「ということで、完全にスピンオフな『クエストは終わらない』を振り返ることになったんだけど、これは……」
香・「……言葉が詰まるのも分かります。スピンオフとはいえ、急にファンタジーになっていますからね。これまでの私たちの軌跡をわずか四行でなかったことにされています」
咲・「うん、でも、たまにならこういう催しもアリだと思うよ。ちょっとゲームみたいで楽しかったし」
香・「それに、なんだかヒロインみたいでしたしね、葉山先輩」
咲・「えっ、い、いや、そんなことは……」
香・「混沌の途を征く者、暗黒を泳ぐ者、我は灰塵を纏いし愚者なり。右手に鮮血を、左手に頭蓋を持ちて、恨みし神に悪意を捧げん……」
咲・「やめてやめてやめて! 呪いの詠唱を再開しないで!」
香・「冗談ですよぅ。この世界観では、私はただの女子高生ですから」
咲・「今でも、使えそうなのよね……」
香・「あれれ、何かおっしゃいました?」
咲・「何も言ってないよ」
香・「はは、こういう場面で押しが強くないところが貴女の……おっと、感じ悪くなってしまうので、言うのはやめておきましょうか」
咲・「十分感じ悪いよ。そこでやめることで、余計に感じ悪くなってる」
香・「こういう場面で押しが強くないところが貴女の悪いところで、決め手に欠けるんですよ」
咲・「なっ」
香・「言えば、感じ悪くならないのでは?」
咲・「あなた、私に歩み寄る気ないでしょう⁉」
香・「ないけど、あります」
咲・「ないんじゃない!」
香・「さて、宴もたけなわではございますが、そろそろお開きのお時間となってしまいました」
咲・「宴もたけなわって、使えない場面もあると思うよ。例えば、今!」
香・「そうですか? 私は葉山先輩とこれだけの長時間お話させていただく機会を与えていただけて、大変喜びを感じておりますよ」
咲・「え、そうだったの?」
香・「悦びを感じておりますよ」
咲・「りっしんべんに変えないで!」
香・「ところで、次のラジオですが……」
咲・「ラジオが何回もあるのがおかしいんだけどね。ええと、次は『フラワー・ギフト(後)』の後かな」
香・「そうですね。いい加減に、本編を進めろという意思を全く感じていない訳ではありませんから」
咲・「じゃあ、このラジオももう終わりにしましょうか」
香・「そうですね。ではではっ、『咲良と香純のふりかえりラジオ』は、このあたりで締めとさせていただきます。『フラワー・ギフト(後)』、もしくはラジオしか読まない方は、『晴輝と優雨のたいぷらじお3rd G』でお会いしましょう! さよーならー」
咲・「今更だけど、なんでラジオのナンバリングがモンハンなんだろう……?」