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兄妹シリーズ  作者: モンブラン
Finalシーズン〜Part.2 少年Iの物語〜
181/250

『リセット』と真実

『「どうぶつの森」シリーズにリセットさんというキャラが居る。セーブをすることなく電源を切ると、次にプレイする時に小一時間説教をかまして来るお方である。厳密にはシステム上リセットができないようになっているので、リセットはできず、ただリセットさんに叱られるだけなのだ。

 ……うーん、上手く喩えられていないが、つまり、リセットには代償が伴い、その割に大概上手く行かないということが言いたかった。

 積み上げたものはそう簡単に崩せない。

 時間は過去には戻らない。

 楽しいことばかりではなかったけれど、青春時代をやり直したい、取り戻したいという思いは、誰にでも大なり小なりあると思う。そのコンプレックスがリセット願望に傾けさせる。

 認めよう、俺も小説の中で再び高校生となり、友人たちとてんやわんやに騒ぐのが楽しかった。修学旅行の時は本当はもう大人であるが故に、ククルのイベントでは大いにハブられていたが、それでも尚楽しかったと言っても良い。……しかし、そういう類のやり直しが本当に自分のためになるかと言われれば、そんなことはないんだよな。本当は解っていた。

 それを理解しながらも、理解とは真逆の行為をしなければならないから嫌なんだよな。

 嫌だ嫌だ。

 そう思いながらも選択肢から消えないのは意味があるからだ。……いや、選択肢から消えないどころか、最早それが最適解ですらある。

 全く全くやれやれだ。

 コツコツとレベル上げをしている勇者たちを待つ魔王ってのはこんな気持ちなのかね。しかし、勝ち負けはどうでも良い。目的を果たせるならば、いくつかの負けや犠牲など厭わない。

 思えば、『兄妹シリーズ』のキャラクターたちはワガママでありながら、人を惹きつける引力があった。

 “人は一人では生きていけない”という言葉は、一見支え合う美しさを表しているようにも見えるが、捉えようによっては“人は他人から影響を受けずに生きていけない”とも受け取れる。そこに善し悪しの別はない。影響を与え、与えられて、人は時を刻む。

 俺の意図しないところで、彼らはそのようにして成長してきたのだと思う。それは素直に喜ばしいことだ。

 再び“井坂文弥”という駒を使ってまで、彼らの前に立ちはだかる俺の心情を答えよ。

 案外悪くない気分かもしれないぜ。』







「日記はここで途切れてます。これ以上は何も書かれてませんね」


 七海がノートをパラパラと捲るが、確かに残りのページは真っ白だ。何も書かれていない。

 井坂文弥のこれまでと、僕たちが書かれた経緯はわかった。ただ、これを読んだところでどう受け止めれば良いのか。


「私はこれを出題編と受け取りましたよ。読者への挑戦ほど体裁が整えられたものではありませんが、お陰で私は全ての答えに辿り着くことができました」


 悶々とする僕たちを他所に、香純ちゃんはそう言って晴れやかな表情をしている。

 全ての答えって、どこからどこまでのことを指しているんだ。


「そう焦らなくても大丈夫ですよ。“名探偵 一堂集めて さてと言い”……まあ、名探偵を自称するのはあの金髪巨乳みたいで小っ恥ずかしいのですが。焦らす時間はもうお終いです。全てを開示しますよ」


 そこはちゃんと“師匠”と言ってあげよう。なんだかんだで、あの人は香純ちゃんを相当可愛がってるんだから。

 ……と、そこにツッコミを入れている場合ではないな。


「ところで、七海。この期に及んで、まだわからないとは言わないだろうね?」

「……香純おねーさん、そんな、声にドスを利かせなくても……」

「やれやれ、天才が聞いて呆れるよ。私が何の意図もなくあんな雑談をしたと思っているのかい?」

「私は発明の天才であって推理の天才じゃないんですよ。大体、香純おねーさんが話していたことなんて…………え⁉︎」


 七海は話している途中で顔色が見る見る青褪めていった。そして何を思ったか、青褪めさせた発言の主の香純ちゃんの背中の後ろに隠れてブルブルと震えている。高校生と小学生の時からともかくとして、同じ背丈同士でやっていると妙な感じがするな。

 しかし、当の香純ちゃんは満足そうに頷く。


「そのリアクションは少し意外だったな。もっと好戦的になるかと思ったのに」

「世界、というか世界観が違うんですよ! そりゃあ話には聞いていましたけど、私の世界には“彼”は居なかったんですから……」


 二人とも訳知り顔で会話しているけれど、事情を知らない僕や読者は置いてけぼりだぞ。


「すみません、全てを開示すると言っておきながら早速脱線してしまって。今からちゃんとお話ししますよ。まずは半分まで」


 半分?

 その区切りは何だろうと思いつつ、僕は彼女の回答を聞くことにした。







「まずは、この世界に起こった異変について整理しましょう。

「私が勝手に“α化”と呼称した世界の変化です。時間が6月の半ばへと遡り、私たち以外はその変化に気付いていない。後に元の記憶を取り戻すまで、私は完全記憶能力を失い、更には元の両親のこともなかったことにされて最初から雲居家の娘として生活していました。

「さらに、七海は存在そのものがなかったことにされて、七海を出産しなかった水川翠さんが代わりに生存しています。

「そして、明言されていなかった変化がもう一つあるのです。何だと思います?

「井坂文弥のことですよ。変化後の世界に彼の姿がないのです。

「作者が作品への出演を辞めたという説もありますが、もう一つ考えられる説があります。

「“彼”が別の姿で私たちの前に居るという説。

「新キャラとしてではなく、既存のキャラの誰かのフリをして、この物語に登場しているという説です。

「その可能性を考えると、私はある人物のことが怪しく思えてきたのです。勿論、作者なのですから、自分の書いたキャラに化けるなど、他の誰よりも上手くやるでしょう。しかし、あまりに感情の深い部分を揺さぶられると、自分とキャラとの境界線が曖昧になってしまう。

「“彼”は迷っていた。元の世界を取り戻そうとすると、この世界での生存しかあり得なかった翠さんの命が失われる。しかし、元の世界を取り戻さないと、これまでの半年間がなかったことにされた上、消えた七海の存在が失われたままだと。一応は元の世界を取り戻す決断をしながらも、“彼”はギリギリまで迷っていた。

「…………これは別に悪いことではありません。むしろ普通の反応でしょう。こんな二択はかんたんに選べる訳がない。

「しかし、私のよく知る彼は選べてしまうのです。彼は迷わないし、迷えない。選んだ決断は決して翻さず、後で一人でその代償を背負い込んでしまうような、そんな人なのです。

「ククルの時もそうでした。彼は寺井洋介さんたちとは違って、優しい嘘をつかずに真実を迷わず選んだ。二度と会えない事実に変わりはないのだから、せめて折り合いをつけるために七海の力を借りて、きちんと彼らがお別れをすることを選んだ。

「お義父様たちの後悔を拭うことができた。

「ククルもお義父様たちを待つことをやめて、きちんと納得のいく別れをすることができた。

「あの件で傷ついたのは彼だけなんです。ククルに真実を押し付けてしまったのではないかと悩み後悔し、苦しんでいたのは彼だけだったんです。

「そんな彼と“彼”は似ているようで異なる、別の人物なのではないかと。そう考え始めた時、私は一連の出来事が繋がるように感じたのです。

「井坂文弥の日記に書かれていましたね。リセット、青春を取り戻したい、そして物語の流れを変えたい、と。“彼”の望みを叶えるため、世界を変えたと同時に“彼”は彼になった。

「七海も先程やっと気付いたようですが、私が本当にただの雑談で“信頼できない語り手”について話したと思うんですか? 自身の都合によって、読者を騙す語り手のことを。あれはフェアプレーを促すための、私からのヒントだったのですよ。

「それに気付きましたか? この部屋に来てから一度も、私があなたのことを『晴輝先輩』と読んでいないことに。これもまたフェアプレーの一環ですかね。

「ここで一つの真実をはっきりと伝えましょう。





 香純ちゃんはここまで一挙に語り続けた後、深呼吸をしてから、その鋭い視線と共に、僕に向けて真実を突きつけた。





「井坂文弥はあなたです、晴輝先輩!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] かなりびっくりすぎる展開でした!!!(゜o゜;; こんなにヒントを与えられていたのに、全然気づかなくてモンブランさんの自然すぎる伏線と展開の大きさにとても驚いていますΣ(・□・;) 読者を…
2021/05/12 20:00 退会済み
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