表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄妹シリーズ  作者: モンブラン
Finalシーズン〜Part.2 少年Iの物語〜
175/250

『我儘な親心』

ちょっと間が開いてしまったのに、今回はちょっと短めで申し訳ないです。内容は無駄に重いですが。

『高校生活というものはさほど面白くない。

 ライトノベル的なイベントは勿論あり得ないにしても、勉強が難しくなったことと、試験と課題に追われて、思ったよりも課外活動に身を入れづらいのだ。物語の登場人物たちは一体いつ勉強しているのかね。

 友人も全く居ないではないが、クラスの陽キャ的雰囲気には辟易とさせられて、一定の距離を置いている。

 そんなことだから、自然と執筆が捗るというもの。

 俺の書くキャラたちも高校二年になった。……正直、彼らを長く書き続けようという意思はなかったのだが、色々なアプローチを試すうちにすっかり手に馴染んでしまった。

 色々なアプローチ……いやもう本当に色々やったな。

 名探偵、ヒットマン、忍者、異世界人、エスパー、エトセトラエトセトラ。

 同じクラスにミステリ、SF、ファンタジーなど様々なジャンルの担当を一挙に集めたら、結果何でも書けるようになってしまった。

 俺はこの一連の小説たちを『日常シリーズ』と名付け、存外忙しい自分の高校生活の合間に書き進めていったのだった。

 その過程で気まぐれを起こして、この俺自身を小説に登場させるようになった……一応断りを入れておくが、あくまで脇役としてである。メインは張らなくて良い。大変そうだしな。良い物語の脇役というのも中々美味しいポジションだ。

 その程度の旨みを味わうため、作中に“井坂文弥”という人物を登場させるに至ったのである。』









「…………」


 小休憩とばかりに三人とも顔を上げたが、誰も何も言わない。最初のうちは、冷酷にダメ出しを入れたり、要は茶化したりする余裕があったけれど、見知った名前が多く出てくると流石にコメントに困る。

 特に僕と七海は直接親の名前が出てきているからな。

 香純ちゃんはと言うと……。


「何か大きな見落としをしている……違和感……理由……動機……結果……」


 小声で呟きながら何かを深く考え込んでいるようだった。日記の内容とはまた別のことのように思えるけれど。


「香純ちゃん、あの、」

「すみません。少々思考を整理したいので、私のことはしばらく放置しておいてくれませんか。日記は2人で読み進めていてくれて構いませんから」

「あ、ああ」


 硬質な声色でそう言われてしまうと、僕としてはただ頷くしかない。香純ちゃんのここまで緊張した様子は初めて見る。


「香純おねーさんは文字通り何か考えがあるのでしょう。私たちは日記を読み進めましょうか」

「そうだな」


 僕と七海は再びページを覗き込む。









『日記であって日記でない、正確には雑記帳に近いように思えるコレに、たまには日記らしくないことも書くことにする。

 俺は小さな頃から誰かのお葬式に行くことが多かった。周りの親戚が高齢だったせいもあり、その分彼らのお迎えの来る日もそう遠くなかったという訳だ。

 より親しい人にはお通夜やそれ以前の状態で、遺体と対面することもあった。涼しい部屋に横たわり、白い装束に身を包んだ彼らは、何なら生きている時よりも美しい顔立ちで、安らかに眠っているようだった。後で教えてもらったのだが、これは葬儀屋さんの手によるものらしい。化粧を施したり、俺みたいな素人にはわからないような仕事をしてくれたのだろう。

 病気で苦しみ抜いた顔よりも、安らかな表情で居てくれた方が、送る側も送られる側も気持ちが楽になるーー少なくとも送る側のエゴではないと思いたいが。

 このように生きていた頃の面影がある内はまだマシだが、火葬の後で遺骨を骨壷に入れる作業は、幼い時分の俺には結構堪えた。

 自分に語りかけたり、優しくしてくれたりした記憶のある人が、カラッカラの骨になってしまうのだから。それは水分の抜け切って乾いた枝や、砂浜に遺されて久しい貝殻にも似ている。流石にそこに故人の面影を見出すことはできない。生きていた人が斯様に無機質な“モノ”に変わってしまうことが怖かった。

 死にたくないし、死んで欲しくもない。幼心にそう思ったのを覚えている。というか、今でもそうだ。人間いずれは死ぬにしても、死ぬまでにやりたいことはやれるだけ叶えておきたい。そう自覚してからは、我ながら少々強欲になったような気がする。

 ここで、自分の書くものに関わることも触れておこうか。

 俺は自分の書くキャラに「死ね」とか「殺す」とかいった内容の言葉を絶対に使わせない。例え冗談であっても絶対にだ。むしろ、冗談でそういうことを言うキャラを書かないと言っても良い。

 言葉には言霊がある。ただの単語や文章以上のものがある。それは人を動かし、物を動かし、出来事を起こさせ、後でどう取り繕っても消えることはない。故に、軽々しく命の尊厳を蔑めるような言葉を、自分の小説で使う気になんかなれないのだ。

 他の人の作品についてどうこう言うつもりはなくて、あくまで自己完結したポリシーではあるが、ブレない軸として確固たる存在感が自分の中である。

 もう一つ。……これはポリシーというよりも手癖であるのかもしれないが、重要なキャラが大事な人を亡くしていることが多い。キャラにまでそんな十字架を背負わせることはないんだろうな、本当は。でも、喪失感を知りながらも前に進める人間はとても魅力的だと思う。

 かくあるべしとまでは言わない。でも、そうあって欲しいと願うくらいは許して欲しい。

 作者としての親心。端的に言って我儘である。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] じっくりと読ませていただきました。。。 とても切なくて、悲しみがこちらまで伝わってくると同時に、揺らがない力強さと前向きさを感じる作品でした。 そしてこうした小説を綴られるモンブランさんは…
2021/04/07 21:20 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ