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兄妹シリーズ  作者: モンブラン
1stシーズン〜兄妹と愉快な仲間たち編〜
16/250

ファンタジー特別編・クエストは終わらない

サークルの企画で「もし、兄妹シリーズのキャラクターたちをファンタジー世界に放り込んだら?」という想定で書いてみました。つまり、完全に番外編ですね。

 全くもって困ったことに、僕は現状を理解できておらず、確か一男子高校生として幼馴染や妹やその友達と平凡な毎日を過ごしていたような気がするのだが、やはり気のせいだろう。なあ、僕の隣に立つ、よく見慣れた少女よ、これは何だ?


「は? 何言ってんのさ。わたしたちは、王様に呼び出されて、このどでかい宮殿にいるんでしょ」

「…………。そういえば、そうだったな。そういうことになってたな」


 鎧、というよりかはプロテクターのようなものを身に纏った戦士調の少女にして、僕の妹、ユウに、僕は曖昧に応えた。

 確かに、僕たちの周りを見渡せば、ここはいかにもな場所ではある。某有名RPGに出てくる城を想像していただければ、多分そのイメージ通りの光景だろう――紙幅が限られているので、説明が雑になってしまうこともあるけれど、そこはご愛嬌ということで。

 さて、僕たちの目の前の、五段ほどの石段より更に上にある玉座は空席となっている。

 玉座の主たる国王はまだこの部屋に居ない。徐々に現況への違和感が薄れていくのが怖いのだけれど、そう思うことすらなくなったぐらいの時間が経過した後に、王様の到来を知らせる従者の声が上がった。

 王様は堂々とした歩みで玉座に向かい、ゆっくりと腰を下ろした――活字では表現しがたい、威厳のある立ち居振る舞いは、流石は一国の王と言ったところだろうか。

 しかし、国王クラスの人物に会うことなどそうそうない、というか、今回初めてお会いするので、ついついその所作に目が行ってしまうな。だが、あまりジロジロと見ていると失礼にあたり、不敬罪で王宮殿から監獄、果ては打ち首になるかもしれない。


「ユウ、相手は王様なんだからな。失礼のないように、するんだぞ」

「へいへい。でもさ、兄さん。王様の恰幅の良さはお召しになってる衣服もあるんだろうけど、その下のお腹が……」

「しっ! 聞こえたら、どうするんだ! 兄妹そろって城の外で首が晒されるぞ…………確かに、僕も思ったけれども!」


 こんな会話を小声でしていたけれど、幸い王様の耳には届かなかった。

 さてさて、これから聞く王様の話だが、王様の話なのだ、まさかそれをカットして場面転換、後にダイジェストで語ることにはなるまい。この国の誰からも敬称で呼ばれる人物だ。少なくとも、小声で邪な会話をしているような僕たちを招集するくらいの、寛容な方なのだ。きっと、そのお話にも拝聴する価値があるに違いない。僕たちはそんな期待を込めて、王様を見上げる。

 満を持して、たっぷりと蓄えた髭の間から、王様が口を開いた。





 王様があまりにもくどい話し方をするので、やっぱりダイジェストでお送りする。

 ようするに、王様は僕たち兄妹に三つのオーブを取ってきて欲しいらしいのだ。

 王様曰く、赤・青・黄の三色のオーブを揃えて、王宮殿の近くの神殿に供えると、破邪の光を放ち、魔物を退けることができるのだとか。オーブは三ヶ所に散り散りとなっており、赤は炎の山、青は水の洞窟、黄は光の丘にそれぞれあるらしい。そこまでの道は険しく、王様の兵は国を空けることが出来ないため、腕利きの戦士であるユウと、…………一応、ある称号で名を馳せている僕がその任を負うこととなったのである。

 という訳で、まず僕たちは炎の山に向かった。

 炎の山は、国を出て西にあり、この大陸で最も危険な活火山で、火山弾が不定期に上空から降ってくる。

 辺りは火山灰が雪のように積もっているため、足が取られやすく、また、マスクを着けながらでないと先に進むことはできない。赤のオーブは炎の山の山頂にあるらしく、こんな危険地帯に僕たちを行かせた王様を早くも恨めしく思った。

 それはさておき、僕とユウだけの兄妹パーティに新たな仲間が加わった。


「私の名前は僧侶のサクラ。回復魔法が得意よ。あなたたちの冒険に協力したいの、私を仲間に入れてもらえない?」


 サクラは法衣を身にまとった美しい少女だ。美少女好きのユウは迷うことなくサクラを仲間に入れた。もちろん、僕も大歓迎だ。

 こうして、僧侶・サクラを加えた僕たち三人は、炎の山を進んで行くことになったのである。

 炎の山の外はマグマが流れている部分があり、危険なので、僕たちは山頂まで繋がっている洞窟の中を通ることにした。洞窟の中も高熱の蒸気と火山ガスが噴き出していたのだが、サクラの保護魔法のおかげで通り抜けることが可能になった。道中に現れたモンスター――溶岩魔人、まこうもり、炎を吐く小竜は、僕とユウの剣で撃退し、奥へ奥へと進んで行く。

 だいぶ進んだかと思った時に、僕たちは洞窟の出口が見えてきた。外に出た先はマップで確認した通り、山頂だった。

 山頂は噴煙と蒸気が立ち込めていて、視界が悪い。しかし、よく見てみると、噴煙と蒸気に切れ目があり、そこに道が開けていた。その先には石でできた祠のようなものがあり、中から赤く強い光が見える。あれが恐らく赤のオーブだろう。

 僕たちは切れ目の道を前に進み、僕は祠の中から赤のオーブを手に取った。


「よし、これで一つ目のオーブをゲットだな」


 そう言って、さっさとこの危険な山からお暇させていただこうと思った、その時。

 ゴゴゴゴゴ、と地響きが起こり始めた。地面が揺れて、立っているのが困難になってきた。地面が熱を持っていて膝をつく訳にはいかないので、何とか脚に力を入れてその場で踏ん張る。地響きの音と揺れは次第に大きくなっていく。


「兄さん、まさかこれ噴火じゃないよね?」「いや、多分噴火じゃない。これは……」「⁉ 何かが来るわ!」


 そう言った途端、僕たちが通ってきた道の地面を、何か大きな気配が突き破って来た。それが現れたと同時に、地割れが僕たちの所まで近づいて来た。慌てて祠の所まで逃げ戻るが、元来た道ではないから地割れがここまで来たらおしまいだ。

 最悪の展開を考えた僕たちだったが、地割れは祠の周囲三メートルほどでおさまった。

 助かった…………とは、まだ思えない。

 地割れによって、爆風のように広がった噴煙。それを吹き払う大きな影が現れたのだ。グオォォォォオと、地を這うような唸り声。微かに熱を帯びて、爬虫類のような匂いのする吐息。暗い赤色の鱗に覆われた全身。洞窟の魔物よりも遥かに大きい翼。大きくかつ鋭い手足の爪――――竜だ。竜が僕たちに向ける視線は、どこから見ても威嚇しているとしか思えない。

 これはまずいな。僕とユウは剣を、サクラは錫杖を構える。

 竜は一歩、僕たちの方に脚を踏み出すと、おもむろに口を開いた。


「我はオーブを守りし赤き竜。愚かなる侵入者よ、オーブを祠に戻し、山を下りろ。さすれば、命は助けよう」


 この赤き竜は、道中現れた魔物とは異質な存在らしい。アンタのせいで退路を断たれてしまった、なんて言い分は通らないんだろうな……。


「赤き竜よ、僕たちは国から魔物を退けるために、このオーブが必要なんだ。このまま持ち帰らせてはくれないか?」


 僕がそう言うと、赤き竜は目尻を細めた。こちらに向ける視線が鋭くなる。


「ならぬ。どうしてもというのなら、我を倒してから行くが良い‼」


 竜は振りかぶってから、僕たちの方に大きな腕を振り下ろした。辛くも避けた僕たちだが、竜の掌圧と鋭い爪で砕かれた地面の有様を見て、血の気が引いた。

 しかし、活火山の山頂という不安定な場所で防戦一方であるのはまずい。竜が振り下ろした腕を戻す隙を突いて、僕とユウは竜に斬りかかったのだが、


「兄さん、こいつ……!」

「ああ!」


 竜の鱗が硬く、刃が通らない。どうやら、ユウの方も僕と同じらしい。

 竜は一度首を後ろにもたげた後、こちらに向けて、口から炎を吐き出した。ユウは左手の構えていた盾で炎を防ぐ。しかし、サクラは盾を持っていないので、僕がサクラの前に回り込んで、盾を構える。炎の勢いは盾を押し返すことで何とかなるのだが、熱は殺しきれておらず、盾を持つ手が火傷したようにヒリヒリと痛む。


「つっ……!」


 あがった声の主を振り返ると、どうやら、僕が防ぎきれなかった炎がサクラの方に飛び火してしまったようだ。彼女の法衣の一部が焼け焦げている。


「サクラ! 大丈夫か⁉」

「ええ、何とか……」


 サクラは患部を治癒魔法で回復させている。この様子なら今のところは大丈夫だろう。だが、魔法を使える回数は限られている。長期戦、消耗戦となれば、明らかにこちらの分が悪い。万事休すか、と思い、ふと妹の方を見ると、


「わたしの天使に何してんだぁぁぁあ‼」


 ユウは激怒した。

 怒りのままに竜に向かって飛びかかり、竜の腹を上から斬りおろした。……そうか、腹なら身を守る鱗が薄いのか。キレた妹の機転は竜をも倒せるらしい。

 何だか気の抜けた結末ではあるが、助かった。


「ユウ、よくやったな」


 珍しく僕が妹を褒めると、ユウは、フフンと胸を張り、この章を締めくくるように、


「愛の勝利ね!」


 キメ顔でそう言ったのだった。





 テンポ良く、次のオーブ集めに移ろう。

 次なる目的は、青のオーブ。青のオーブのある場所は、先述の通り、水の洞窟だ。

 水の洞窟は、国を出て北にある、広い湖の真ん中に浮かぶ小島に位置する。ここにおける冒険譚を語る前に、また、途中で新たに仲間に入った娘を紹介しよう。

「おはようございますよー、雲居香純、いえ、この世界観に合わせて、カスミです。魔法使いをやっております。ところで、同じ女性でも、魔法使いか魔女かと呼ばれ方が異なるのですが、この似て非なる違いについてお話ししましょうか、ハルキ先輩」

「いや、遠慮しとくよ。一論文が書けそうなくらい長くなりそうだから」

「ですかー」


 このように、カスミちゃん――本人からそう呼ぶように言われた――は可愛らしい容姿ながらも、大変癖の強い少女である。ローブ姿がよく似合う。

 ところで、ここに来て初めて僕の名前が呼ばれたな。

 今さらとは思いながらも、特に名乗る機会もなかったからなんだが。


「もっと、自信を持って良いんじゃあないですか。堂々と名乗りを上げるべきですよ。僕はハルキ、この世界を救う勇者だっ! って」

「ついに言っちゃった!」


 今まで、それとなく誤魔化していたのに!

 仰々しい勇者の衣装を、ユウから笑われる描写を意図的にカットしといたのに!


「隠し事なんて、つれないマネは止してくださいよ。私とハルキ先輩の仲じゃないですか」

「どんな仲だよ」「どんな仲なの⁉」


 僕と、それにサクラからもツッコミが入る。しかし、カスミちゃんはサクラに不敵な笑みを向けて、


「サクラ先輩、この世界観においては、あなたに幼馴染という属性はありません。私にも分があるというものです」

「……えーと、まあ仲良くやりましょう。同じパーティで冒険するんだから」

「ですね。お易しい方だなあ」

「お易しい?」

「お優しい、と言いたかったのです。変換ミスです、ごめんなさーい」

「……何となく悪意を感じるミスだけど、まあ、良いわ。よろしくね」


 不思議と、ギスギスしているカスミちゃんとサクラだが、何とかなるだろう。ユウに関しては……、


「♪〜〜♪〜〜」


 カスミちゃんと腕を組んで、機嫌よく歩いているくらいだから、問題なさそうだ。今にもオクラホマミキサーを踊りだしそうなノリの良さである。

 さて、そんな僕たち一行が行く水の洞窟は、水を冠するだけあって、大変湿気が強い。暗い洞窟内を照らそうにも、ランタンの火が、上からたまに垂れる水滴で消えてしまう。

 そういう時に僕とユウの戦士系は役に立たないので、魔法を使えるサクラとカスミちゃんが頼りになる。サクラが灯りの魔法を唱えてくれたおかげで、洞窟が照らされる。そして、


「しかし、昨今のオンラインRPGブームには目も当てられませんね。一ジャンルとしてありだとは思いますけど、古き良き一人用のRPGまでその波に当てられるのはいただけません」


 雑談しつつ、更によそ見をしながらも、魔物に的確に電撃魔法を当てるカスミちゃん――この洞窟の魔物の弱点を確実に突いていることもあるが、一発一発の威力が高い。


「こういうジャンルのゲームは本来一人でゲームの世界観に没頭できるのが良いのであって、プレイする周囲のギャラリーはともかくとして、ゲームの世界の中にまで出てこられては興ざめです。……エイトまでは面白かったのになぁ」

「この世界観で言ったら絶対まずいような愚痴だし、魔物を愚痴の片手間で倒さないでくれる⁉」


 カスミちゃんが魔物を倒すわ、話を振ってくるわで、雑談が捗る捗る、まるで、この小説がセリフ多めの日常系小説であるかのようだ。


「兄さんももうちょっと戦闘に貢献してよね。いつの間にか、先頭が魔法少女カスミちゃんになっちゃってるじゃん」

「しょうがないだろう、さっきから僕の目の前に現れる魔物が全部カスミちゃんに倒されてんだから」

「勇者(笑)」

「やかましいわ」

「みんなあまり広がらないで! 照らす範囲を広げないといけないから!」


 こんな感じで、人数が増えた分ごちゃついているものの、あっという間に水の洞窟最深部にたどり着いた。 

 炎の山山頂を思わせる一本道があり、その傍は小さな湖のように水が溜まっている。一本道の先には、これまた炎の山の時と同様の祠が立っていて、中には青のオーブがある。だが、


「なあ、これオーブを手に取った瞬間に、また何か出てくるパターンなんじゃないのか?」

「あ、兄さんもそう思った?」

「でも、オーブを目的にここまで来た以上、取らない訳にはいかないでしょう?」

「ですね。まあ、何が現れようが、私がみなさんをお守りしますよ。ささっ、ハルキ先輩、オーブをお取りください」


 そうだな。この後起こるであろう戦闘をカスミちゃん一人に任せきりにする気はさらさらないから、覚悟を持って、オーブを取り出そう。

 僕は青く輝くオーブを手に取った。

 ……途端に、ゴゴゴゴゴと地響き、ではなく洞窟の壁と天井が揺れ始めた。パラパラと石粒が降ってくるのを見て、僕は悟った。


「みんな、急げ! ここから出よう! 崩れるぞ!」


 そう声をかけて、僕は来た方へ駆け出す。僕よりも来た方の近くにいた三人は僕よりも先行して走っている。

 大きな瓦礫はないから、まだ本崩れじゃない。ユウは軽めの鎧のおかげか逃げ足が速く、カスミちゃんもローブを捲り上げて走っている――若干、目のやり場に困るが、そんなことを言ってる場合ではない。

 サクラも大丈夫だ、そう思った時、右上の方から大きな岩が転がり落ちてくるのが見えた。サクラの走るペースと岩の転がるペースを考えると、ちょうどサクラに岩がぶつかってしまう。声をかけるか? でも、そこで立ち止まられたら余計に危ない。岩の方を処理するか? いや、破片が危ないし、それ以前に僕は近距離の攻撃しかできない。なら、サクラを岩から避けさせる方法は……走ろう! 逃げ足を奮いたたせ、僕は走るスピードを速めた。身体が軽い。サクラに近づいていく。グッと力を入れて、サクラの身体を担ぎ上げる。勢いを殺すことなく走る。走る。後ろで大きな物が落ちる衝撃があった。走る。明かりが見えてきた。その明かり目がけて、さらに走り切る。

 洞窟の入り口前まで戻ってくることができた。ユウは腕で汗を拭って、カスミちゃんは膝に手を当てて呼吸を整えている。僕もどっと疲労感が襲ってきた。身体がカッカと燃えるように熱い。


「ハ、ハルキ…………、もう降ろして。大丈夫だから……」


 そう言うサクラの頬は何故か紅潮している。僕はサクラの言うままに、彼女をそっと降ろす。


「助けてくれてありがとう。あなたが助けてくれなかったら、あの岩の、下敷きに……」

「ああ、間に合って良かった」

「それにしても、ハルキってあんなに足が速かったの?」

「いや、サクラを助けたい一念で無我夢中に走ってたからな。よく覚えてなくて」

「……本当に、ありがとね」


 ……なんだろう、お礼を言われて、というよりも助けられて良かったのだが、妙にいたたまれない、いや、照れくさいのか? 落ち着かない。

 すると、低い声音で誰かが何かをブツブツ言っているような……。


「……その忌み名をもって、呪いを与えん。煉獄の炎で地を覆え。凍てつく吹雪で空を満たせ。闇より深き闇で心を怨念で晴らせ……」

「なんで、こっちに向かって呪詛唱えてんの⁉」


 カスミちゃんだった。顔の陰を濃くして、僕とサクラに杖を向けている。


「はっはー、誤解ですよ。仲間に向かって呪いをかける訳がないでしょう」

「いいや、言ってたよ! 呪いを与えんって言ってたよ!」

「違いますって。あれは回復呪文ですよ」

「あんな物騒な回復呪文の詠唱があるか⁉」


 怨念で闇は晴れねーよ! 闇が増すわ!


「いえ、詠唱の最後は、『痛いの痛いの飛んでけー』で締めくくります」

「お母さん⁉」


 と、ともあれ、青のオーブを手に入れることができた。残るオーブはあとひとつ。変な疲労感があるものの、ここまでの冒険は順調だ。ただ……、


「気になることがある、とでも言いたげな顔ですね」

「兄さん、女の子に構って欲しい時は、ちゃんとそう言うんだよ」

「ちげーよ! …………ああ、気になることがあってな」


 僕は自分の中でまとめてから、話し始める。


「そもそも、オーブを取りに行くのは、オーブの力で魔物から国を護るためだ。だが、炎の山や水の洞窟、それに光の丘、オーブが元々あった場所はどうなるんだ? 本当にそこからオーブを持ち出しても良いのだろうか……そんなことを考えていてな」

「良いんじゃない? どこも人っ子ひとりいない場所なんだし。どころか、オーブ単体じゃ逆に魔物を引き寄せちゃってるっぽいよ」


 ユウはそう言った。確かに、僕たちはオーブを取りに行くまでの道には多くの魔物がいた。


「でも、それぞれのオーブにセキュリティがあったにも関わらず、魔物がオーブに接触した形跡はなかったよね? どうして魔物はオーブに手を出さなかったんだろう?」


 それも気になるな。魔物を引き寄せても、魔物は触れられない。矛盾しているようだが、何か一貫した理屈がありそうな気もする。


「どうやら、このクエストは一筋縄ではいかないようですね。しかし、この場で考えても埒があきません。とりあえず、黄のオーブのある光の丘に行ってみてはいかがでしょうか?」


 カスミちゃんの言葉に、僕は頷く。


「ああ、そうしよう。今は行動あるのみ、だな」





「よお、やっと来たか。待ちくたびれたぜ」


 光の丘。国を出て東にある草原地帯にある、炎の山よりも遥かに低くなだらかな山の高まりだ。陽の光を浴びて、草がツヤツヤと輝いている。丘の頂上には大きな樹が一本立っていて、その下に例によって祠があるのだが……。


「黄のオーブは祠にはなく、この俺が持ってるって訳だ。どうだ、驚いたか?」


 ひょろっと背の高い変な男が立っていた。見たことのない格好で「いや、ただの高校の制服なんだけどな。俺もファンタジーな格好したかったぜ」って、地の文に割り込んでくるなよ。


「あー、また名乗る必要があるのか。俺はフミヤ。RPGっぽい役職はねーよ。剣も魔法も無理だ」


 名乗られて、余計に訳が分からなくなった感じがする。が、目下のところ気にすべきは、


「そのオーブを渡してくれないか?」

「このオーブか? 何故?」

「何故って、そりゃあ、王様に頼まれて、そのオーブを集めてんの」

「その王は、何故オーブを集めるんだ? オーブを集めてどうするんだ?」

「三色のオーブを揃えて、王宮殿の近くの神殿に供えると、破邪の光が放たれて、魔物を退けることができる。そのために、私たちは炎の山からは赤、水の洞窟からは青のオーブを回収したの」

「なるほどなるほど。んじゃあ、仮にオーブが破邪の光とやらを放つとして、その範囲はどこまでだ? どのくらいのレベルの魔物を追っ払えるんだ?」

「細かいところまでは分かりませんが、少なくとも国内で魔物が人を襲うことはないでしょう?」

「おー、そいつは良いな。なら、国の外でいくら魔物が蔓延ろうが、構わねーって訳だ?」

「………………」

「……ハッ、答えに詰まるなよ」


 フミヤは吐き捨てるようなため息をついた。


「てんで分かっちゃいねーのに、のんきにおつかいしてんじゃねえよ。てめーでやったことが何に繋がるかぐらい、知っておけよな」


 僕たちは黙ることしかできない。得体のしれないやつだが、言っていることは否定できない……正しい。

 苦し紛れに、僕はフミヤに訊いてみる。


「なら、お前は知ってるのか? オーブの力を、そして、王様の真意を」

「いや、知らん」


 バッサリ切り捨てられた。


「いやいやいやいや、色々知ってるような、含みのある言い方してたじゃん!」

「俺は知らねえ。だが、『知ってるやつ』はいる。知ることのできる機会を作れば、俺たちが『知ってるやつ』になれる」

「『知ってるやつ』に、なれる」


 つまり、これらの問いには、自分たちで答えを探すしかない、ということか。


「よくRPGに『クエスト』ってつけられるだろう。だが、勘違いするなよ。その言葉の意味は、『敵を倒すこと』じゃあない――『探求、探索、追求』だ」


 ……。僕たちのするべきことが何かわかってきた気がする。しかしこれは、


「『探求、探索、追求』するには、まだまだ冒険する必要がありそうだな」

「奇しくも、私の言った通りになりましたね。『このクエストは一筋縄ではいかないようだ』と」

「カスミちゃん、キミはこうなることを分かってたんじゃないの?」

「私は何も知りませんよ。これから『クエスト』して、答えをお探しください、ハルキ先輩」


 カスミちゃんは含みのある、それでいて楽しそうな笑みを浮かべた。


「助けになろうと思ったら、私の方が助けられてしまったわ。だから今度は、私があなたの力になる」


 サクラは決意に満ちたまっすぐな瞳を向けて、そう言った。


「わたしは、サクラちゃんやカスミちゃんと一緒に居られるんなら、後のことは割とどうでも良いからさ。ぼちぼち頑張っていこうよ、お兄ちゃん♪」


 ユウは頭の後ろで手を組みながら、いつものように締まりのない顔をしている――いきなり、お兄ちゃん、なんてなつかしい呼び方すんなっ。

 やれやれ。どうやら、僕は、僕たちを長い旅路へと導くあの言葉を言わなければならないらしい。

 良いだろう。声高らかに宣言してやる。


「僕たちの冒険はこれからだっ‼」





「俺も力を貸すぞ、ハルキ。前線で思いっきり暴れてやるよ!」

「いやいや、剣も魔法も使えないなら、お前は馬車で待機な」

「え?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです!!♪ バトルもリアルで迫力がありながらも、要所要所で楽しいギャグが織り込まれていて、しかも最後は予想外の深い展開でとても惹きつけられました。 王様のお話が省略されて…
2020/08/14 19:09 退会済み
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