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兄妹シリーズ  作者: モンブラン
4thシーズン〜修学旅行編〜
105/250

✳︎眠れない夜

咲良ちゃん視点です。これから彼女の視点の時は✳︎を付けてみようかと思います。


✳︎


 晴輝を追って、私も洋介おじさんの記憶を覗きに行った。昔から優しくしてくれたおじさんは、あの男子高校生から地続きに大人になったのだと納得できてしまうくらい。けれど、本題はそこじゃない、ククルのことだ。

 記憶を見た晴輝はククルに事実を告げた。

 晴輝は優しい嘘ではなく厳しい真実を伝えたのだ。

 どちらを選んでも意外には思わなかった。優しさも正しさも両方大切にしている彼だから。

 でも、それでも、ククルの悲しそうな顔を見ていると胸が痛くなる。これで良かったのかと問いたくなる。

 その後も、私はククルや双子たちの相手をしていた。晴輝はしきりに何かを考え込むようで、本当は子どもが苦手な鈴花は私に丸投げだった。

 やがて、朝日が差してきた。洋介おじさんの記憶の通り、森の木々の間に一本の光の通路が現れた。ここを通れば元の場所に戻れる。

 双子ちゃんたちはウトウトし始めている。当たり前か。どれほどの時間が経過したかわからないけれど、ほぼ徹夜しているようなものだから。


「咲良、戻れるなら早く戻ろう。私もそろそろ眠い」


 欠伸をしながらそう言う鈴花。優しさがわかりづらく、ドライで臆病な子だ、相変わらず。

 ここから出たいのは私もそう。ククルを一人で残して行ってしまうのは心が痛むけれど。

 一緒にお話をしていた時は楽しそうだったククルの表情はすっかり沈んでいる。

 でも、私たちはきちんと別れを告げなければならない。

 私はククルの前に来て、目線を合わせてはっきりと伝えた。


「ククル、私たちそろそろ行くわ。さようなら。ありがとね」


 なし崩し的でも特別な体験をさせてもらった。不思議な少女との触れ合いはとても楽しかった。

 だからこそ、きちんとお礼を伝えてお別れをするべきだ。そうしたいと心から思う。


「ばいばい、サクラ」


 ククルは小声で小さく手を振ってくれた。ふと、視線を感じてそちらの方を見ると、晴輝が私のことをボーッと見つめていた。


「……やっぱりそうだよな」

「晴輝?」


 私が声をかけると、晴輝はビクッと跳ねて驚いたようだった。


「ああ、ごめん。何でもないんだ」


 そう言うと、晴輝もククルのところに来て、


「ククル、僕たちも君にお別れを言わなきゃいけない。でも、ありがとう。君に会えて良かった」


 ククルの頭を撫でると彼女は嬉しそうにしていた。妹が居るだけあって年下の女の子の扱いが上手だなと、この場にそぐわないことを想像してしまうくらい。

 私と晴輝と鈴花、そしておねむになっている双子たちは光の道に向かう。中に入ると周囲の全てが真っ白になって前後がわからなくなるけれど、それでも、前を目指して歩き続けると、一瞬目の前の光量が増した。眩しくて目元を手で覆う。光が収まって再び前を向くと、私たちは元いた丘の上に戻って来ていた。





 空は真っ暗だ。こちらはまだ夜なのだろうか。電波が通るようになったスマホで現在時刻を確認すると、私たちが丘に来てからほとんど時間が経っていない。ククルの居た場所と現実とでは時が経つ早さが違うのか。


「あ、お前らどこに行ってたんだよ⁉︎」


 声をかけてきたのは井坂くんだ。……ごめんなさい、あなたのことをすっかり忘れていました。


「まあ、ちょっとな」


 晴輝がぎこちなく答える。


「一緒にこっちの方へ走ってったのにいつの間にかお前らだけ居なくなって、かと思ったら揃って俺の前に現れたんだよ」


 井坂くんは不満げに答える。

 そういうことになっていたのか。

 でも、そもそもどうして井坂くんだけあの場所に入ることができなかったのだろう。私たちと同じ歳の彼だけ入ることができなかったというのは、あの場所は子どもなら誰でも入れるという訳ではないのか。

 井坂くんは本当は子どもじゃないから、なんて、まさかね……。


「何だか揃って徹夜したような疲れ方してるぜ。まさか、俺のいないところで何か面白そうなことに巻き込まれたんじゃねーだろうな?」

「後でちゃんと話すよ。とりあえず今は比嘉さんのところに戻ろう。恵璃ちゃんと悠璃ちゃんがだいぶ眠そうだから」

 

 晴輝も「歩けるか?」と声をかけると「「んー」」と何とか返事がくる。私たちは揃って弛緩した苦笑を浮かべて、ゆっくり歩いて行った。

 丘の上まで戻ると、双子たちの祖母・比嘉きみ江さんが待っていた。


「おかえり。どうやらその様子だとあの子に会えたようだねぇ」


 優しそうに微笑んでいるけれど、微笑みを返すにはちょっと含みがある。


「比嘉さん、私たちをここまで連れてきた理由、聞かせてくれますよね?」

「もちろん。帰りがけにちゃあんと話すよ」





「ククルはこの島の精霊のようなもの。あの場所は景色も良いけど、ククルの森にも繋がっているのさ」


 私たちは再びワンボックスカーに乗って、来た道を戻っている。先程言ったように、比嘉さんはククルのことについて話してくれた。

 この人が知らないはずがないのだ。


「あの子は私が子どもの頃から少女のまま。あの場所へは誰でも入れる訳じゃない。特に大人は絶対に入ることができないのさ。私は前から民泊を受け入れていて、その度に丘の上まで子どもらを連れて行くけど、ククルに会えたのはあなたたちが……そうだね、二十年近くぶりだよ」


 最後にククルに会ったのは、もしかしたら私たちの両親たちだったのかもしれない。

 子どもなら誰でもあの場所に入れる訳ではない、というのは少し意外だった。


「多分、ククルが気に入る何かがあるんだろうね。私ももうあの子には会えないからちゃんと確かめようはないけど」

「あの、比嘉さん。実は僕と咲良の両親も同じ高校の卒業生で、修学旅行も同じ沖縄に来てるんです。ひょっとしてですけどご存知ありませんか?」


 そう訊いたのは晴輝だ。


「あれ、そうなのかい。ええと、君らの苗字は寺井と葉山でしょう。………………ああっ、思い出した! 洋介くんと茉衣子ちゃん、光一くんと姫香ちゃんだろう。覚えてるよ。驚いた、晴輝くんと咲良ちゃんはあの子たちのお子さんだったのか。へーぇ」


 両親たちがあの場所に来ていたということは……と私も少し思っていたけれど、まさか本当に両親たちも比嘉さんのお世話になっていたとは。すごい偶然だ。


「そうか、あの子たちの……。道理でククルに会えるはずだ。ウチの子らから聞いてたけど、ククルがやけに洋介くんたちに会いたがってたらしいから」

「…………」

「私はどうにもククルが惨めでねぇ。こっちの勝手なエゴかもしれないが、あの場所で一人で生きるしかないあの子を一人にしたくない。おかしなことに巻き込んじゃった悪かったねぇ。さ、もう着くよ」

 

 比嘉さんの家が近づき、車は減速していった。





 着いた後は順番にシャワーを浴びて就寝することになった。


「悪いねぇ、このあたりはあんまり水を使えないから湯船を張ることができないんだ。シャワーだけで勘弁ね」


 そうだったんだ。周りを海に囲まれているから設備的な問題なのかな。

 ともあれ、シャワーを浴びた私たちはみんなパジャマに着替えた。


「消灯時間は設けてないから、好きな時間に寝て良いよ。それじゃあおやすみ」

 

 そう言って比嘉さんは奥の寝室に行ってしまった。自由度があまりに高すぎるけれど大丈夫なの、本当に。

 学生としては夜更かしOKと聞いて普通ははしゃぐところだろう。実際に井坂くんが遊びたそうにうずうずしている。

 でも、私たちはとてもそんな気にはなれなかった。ククルの居たところでほぼ徹夜で過ごしてしまった後だから目蓋が重くてしょうがない。井坂くんには悪いけど、私たちはすぐに寝ることにした。男子と女子で分かれて部屋に戻る。

 鈴花と布団を敷いて寝る準備を整えた。敷き終えたところで、鈴花から何やら不躾な視線を感じた。


「なに?」

「いや、パジャマって生地が薄いから。改めてアンタのおっぱいすごいな、と」

「やめてくれる?」


 私は腕で抱くようにして胸元を隠す。


「鈴花、あなたそういうこと普段言わないでしょ」

「普段は言わないよ。でも、こういうセクハラネタがしばらくなかったから、アクセス数減ったらどうしよう。ブクマ減ったらどうしよう。完結前に打ち切りになったらどうしよう。そう思うと怖くて怖くて」

「あなたの積極的な臆病さが一番怖いから!」


 こんなことを言い合っていても眠いことには変わりない。私たちはすぐに布団の中に入った。


「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 部屋の電気を消すと、すぐに隣の布団から寝息が聞こえてきた。私も眠ろう。そう思った時、どこかからスマホの着信音が聞こえてきた。音が少し遠いから男子の部屋だろうか。


「僕だ。どうしたの、香純ちゃん」


 抑えた声だけど電話に応対したのは晴輝だ。部屋を出て通話のために外に出る音が聞こえる。

 夜に香純ちゃんから電話がかかってくるなんて。一体どんな用事なの。

 気になってしょうがない。ついさっきまでは目を閉じればすぐに眠れそうなくらいだったのに、一気に目が冴えてしまった。

 耳を欹ててじっと待っているけれど、電話に出て行った晴輝は中々戻って来なかった。

 何の話をしているの……こんな時間に話をするほどの仲なの……?

 今夜はなかなか眠れそうになかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議な体験ながらも具体的に想像しやすく、感動的でした! そして桜良ちゃん視点に切り替わったことでまた新鮮さがありました♪ 記号を用いているところも、読み手に分かりやすく親切でとても良かっ…
2020/07/20 18:57 退会済み
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