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夕闇食堂  作者: 夢屋夢迷
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第1話

この物語は「夕闇食堂」の復活版のようなものです。

以前、様々な事情で連載を中断し退会してしまいましたが、この度再連載を開始しようと思い、投稿いたしました。

初めてご覧になった方、または夕闇食堂を知っている方々、何卒よろしくお願いいたします。

母の葬式から二日後の夜。数人の男の人達に囲まれて、妹が怯えて泣いているのを初めて見た。

 薬を飲んで寝る準備をしようとした時、玄関の方から騒がしい音が聞こえて見ると、知らない男達を連れて妹が転がり込んできた。

 無理やり居間に連れて行かれ、妹は姉の市子の横で質問された。市子には聞き慣れない言葉ばかりが聞こえ、何が起きているのか状況を受け入れるのに時間がかかった。そして、なんとなく気づいた時には遅かった。目の間にいる四人程の男達は普通の人間ではない。彼らの口から「シャッキン」や「ウリ」などの言葉が出てきた時、テレビなどで聞いたりしたヤクザを思い出した。自分には関係のない世界の人々、そうだと信じていた。


「嫌よ・・・絶対、行かない・・・!売られるのは嫌・・・!」


 妹の優恵(ゆえ)が体を震わせながら呟いた。市子はただその場に座っているしかなかった。

 目の前に座っている四人の男のうちの一人、スキンヘッドの男は小さな溜息を漏らした。


「お前とその彼氏がバッくれるのが悪い。そもそも、逃げようと促したのはお前だって言うじゃねぇか。アイツは自分から口を割ってくれたよ」


「う、嘘よ!そんなの知らない!」


「だが逃げようとした話は事実だ。どう責任取る?」


「そ、それは・・・」


 優恵が市子を見た。市子はその視線が恐ろしいものに感じ、すぐに妹の顔を見る事ができなかった。


「姉ちゃん。妹がこんな目に合っているんだから、味方になってくれるよね?一緒なら怖くないよ、ね?」


 市子の右腕に自分の腕を絡め、うっすらと涙を浮かべた目で優恵は言った。

 妹の優恵は大人しい市子とは違い、良く言えば行動派、悪く言えば後先のことを考えない性格だった。やりたい事はすぐやり、飽きやすい。我が儘が通らないと不機嫌になるのは生まれつきで、市子も両親も困った所があった。しかし、いつも明るく前向きな所が市子にとっては羨ましかった。

 表情を作る事ができない障害を持った市子にとって、まるで光と影のようなものだったが、姉妹仲は悪くなかったはずだ。

 しかし、この時ばかりは市子は優恵の願いを聞く事が怖かった。すぐには頷けず、目の前の人達を見た。


「お前の姉か?それにしちゃ似てねぇな」


 スキンヘッドの後ろにいた男が言った。四人の視線が市子に投げられ、怖くなる。喉から声が出せず、動く事さえも怖い。


「ねぇ、姉ちゃん?いつも私の我が儘聞いてくれたじゃん。一緒に行こうよ、ねぇ?」


 市子は揺さぶられるままになっていた。どうしたらいいかわからない。だがこのままでは何も解決しない。

 妹を見捨てるか、一緒に怖い思いをするか。そのどちらを選択しても、市子は後悔する事になる。

 助けて、お母さん。いないはずの母に縋りたくなり、心の中で呟いた。助けてくれる手はもうない事を、誰よりも知っているはずなのにだ。

 母の事を呼んだ時、市子の脳裏に母親が言い聞かせるように教えた言葉が蘇った。優恵にも市子にも同じ事を言っていた、優しくも厳しい言葉。


『道を踏み外しちゃいけない。悪い道だと知っておきながら、その道を歩くなんて事やっちゃいけないよ。そして、それに巻き込まれる事もダメよ』


 市子は優恵を見た。優恵は、今あるこの状況になる事を知っていたのだろうか。そもそも、彼らに関わる事さえも危険だという事を考えていたのだろうか。そして今、その悪い道に市子も引き込まれようとしている。

 縋りつく優恵の腕を振り払う事はできなかったが、市子は優恵に言った。


「どうして・・・?お母さんが、あれほど言ったのに」


「えっ」


「道を踏み外しちゃいけないって。私、優恵を助けられないわ・・・」


 スキンヘッドの男の表情が動いた事に、市子は気づかなかった。


「な、何を言っているの?妹がこんな目に合っているのよ!?見捨てる気!?」


「助けてあげたいけど、怖いの。ごめんね・・・ごめんなさい」


「ふ、ふざけないでよ!自分だけ助かるつもり!?馬鹿じゃないの!」


「おい」


 スキンヘッドの男の声に、優恵がびくりと体を震わせて止まった。男は市子の方を見ていた。鋭い目つきに、市子も微かに震えた。

 彼はじっと市子を見ていたが、ぽつりと「似てる」と口にした。何の事か理解できないでいると、彼は市子に尋ねた。


「母親の名前は?」


 市子は唐突な質問に戸惑った。横にいる優恵が頬を涙で濡らしながら男の方を見た。


「なんでそんな事・・・」


「お前に聞いてねぇんだよ。姉の方に聞いてるんだ、黙ってろ」


 睨みつけられ、優恵は言葉を失った。

 市子はおそるおそる、素直に答えた。


「紺野、幸恵」


「旧姓は?」


 市子は忘れかけた名前を思い出した。霧がかかった記憶の中で、気になって尋ねた母の元の名。母は呆れながらも教えてくれた。優恵はその場にいなかったから知らない姓。


「龍ヶ崎、幸恵」


 その名前を聞いた瞬間、四人の表情が驚きの顔になった。市子と優恵は戸惑うしかない。もっとも、男達には市子の顔が変わっていないようにしか見えていないのだろうが。

 三人の男がひそひそと何かを話し、スキンヘッドの男は溜息を漏らした。

 一人の男が部屋から出て何処かに言った。手には携帯のようなものを持っていた。何処かに電話しに行くのだろう。

 突然の彼らの動きに警戒していると、目の前の男は言った。


「あの人の、実の娘か。どうりで似ていると思った」


「?」


「予定変更だ。姉のお前は、妹と一緒には行けない。お前はお前で、ある場所へ行く」


「わ、私はどうなるの?」


 優恵が尋ねると、男は冷たい目で優恵を見た。


「お前は責任を取ってもらう。姉とはここでお別れだ」


「そ、そんな・・・・!い、嫌よ!姉ちゃんだけどうして!?」


「別の車に乗せておけ。姉の方は俺が連れて行く」


 スキンヘッドの男は立ち上がり、市子の腕を掴んで立たせた。なおもしがみつく優恵に、市子は手を伸ばしかけた。しかし、その腕は残っていた男の手に邪魔された。

 痛いくらいに掴まれ、引っ張られる。転ばないように歩きながら、市子は男に尋ねた。


「どうして・・・?お母さんと私と、あなた達に何か関係があるの?私はどこに連れて行かれるの?」


 男は玄関を開けて外に出ると、黒い車の前で止まってから市子に振り向いた。その顔は、先程よりも人間らしい目をしていた。


「ああ、関係がある。お前はこれから、お前の兄達の所に行くんだ」


 一瞬、頭が真っ白になった。自分は血の繋がらない妹をなしにしたら一人っ子のはずだ。兄がいるなんて話は聞いた事がない。

 男に声をかけようとした時、車のドアが開けられて中に無理やり押されるような感じで乗せられた。運転席に男が座ると、彼はバックミラー越しに市子を見た。

 そして、一言だけ口にした。


「母親に似ているが、人形のような顔をしているな」


 それは、市子が一番嫌いな言葉だった。

  

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