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五章2

アンソニーとルクセン王国に戻ったアンジェリーナは数少ない護衛を連れてひっそりとした中で出迎えを受けた。父王の代わりに宰相と騎士たちが出てきていた。

宰相は苦笑しながらアンジェリーナに声をかける。

「姫様。よくお戻りになりました。陛下もお待ちかねです」

「あら、宰相様。いえ、フィンデル公爵。お出迎えをありがとう。でもどうしてあなたがこちらに?」

「陛下も出迎えをしたいと仰せになりましたが。それは我らが引き留めまして。ですので私が名代として参りました」

「そう。じゃあ、フィンデル公爵にエスコートをお願いしましょうか。父様の元まで案内を」

アンジェリーナがにこやかに笑いながら言うと宰相もとい、フィンデル公爵は目を少し細めて笑みから値踏みする表情になった。そうして、アンジェリーナの元に歩み出た。

「わかりました。姫、案内をいたします」

公爵は丁寧に一礼すると騎士たちにも目配せをする。彼らも見てとると黙って散らばっていく。アンジェリーナはそれを言葉もなしで眺めていた。公爵に促されて王城に入ったのだった。



空も空気も澄んだ夏に近い季節の中でアンジェリーナはアンソニーと無言で廊下を歩いていた。先頭にはフィンデル公爵がいる。三人で王城の謁見の間に急ぐ。

「…それにしても姫様。スルティアには何用で行かれていたのですか?」

「そうね。一つは皇帝陛下や后妃陛下に今までお世話になったお礼を言いに行くためよ。二つ目はあちらの学園に行って大学部には入学しないと説明に行くためだったかしら。書類の手続きもしたけどね」

「佐用ですか。姫様はスルティアの皇帝方の元で保護されていましたからな。我が国にいられては敵対していた輩にどう利用されていたかわかりませんから」

公爵は訳知り顔で頷いた。アンジェリーナもそれは否定しない。実母のシェラも早死にしたのはアンジェリーナが歴代稀に見る黄金の瞳と髪、魔力を持って生まれてきたからに他ならない。そのせいでシェラは国内のみならずセドニアや他国に娘のアンジェリーナ共々拐われかけ、命までも狙われた。父のヴィルヘルムはシェラを王城に住まわせ守ろうとしたが。結局、王妃の座を狙う貴族令嬢たちに嫉妬と蔑みの目に晒される事になった。シェラを邪魔者として扱い、娘のアンジェリーナは自身の私利私欲のために利用しようとした貴族や他国の王族たち。その輩たちの手から逃れさせるために父王はシェラの死後にアンジェリーナだけでもと国外に避難させた。

世界でも指折りの魔術師と名高いスルティア皇帝夫妻の元にだ。彼らはヴィルヘルム王と若い時からの幼なじみだった。だから、頼む事ができた。

そうして、アンジェリーナはスルティア皇国に六歳で留学と称して住む事になる。いずれはスルティア皇帝の息子の誰かに嫁ぐ事も見越した上で。

そこまでを考えていたら隣を歩くアンソニーと目が合った。大丈夫かと目線で問われたが頷いておく。アンソニーは少し困ったように笑ったが何も聞かずに歩いた。それに続くアンジェリーナだった。


最後にアンソニーと婚約するためにもスルティアに行ったのだと告げれば、何故かフィンデル公爵に怒られた。

「…姫様。何でそんな大事な事を先に教えてくださらないのですか。そうでなかったらアンソニー殿下を問い詰める所でしたよ!」

「え。そうかしら。でも、どうしてソニーを問い詰める必要があるの?」

「姫様はわかっていられませんね。私はいいとしても。婚約は姫様の一生を左右しますし国にもただならぬ影響を及ぼします。しかも次の王になられるのであれば、なおさらです」

公爵にそこまで言われてアンジェリーナは確かにその通りだと思った。フィンデル公爵は一つ咳払いするとまた歩き始めた。アンソニーは何とも言えない表情でいる。アンジェリーナは彼の手を握るとまた、一緒に付いて行ったのだった。




「…おお。アンジェリーナではないか。久しぶりだな」

少し老け込んだ感じの父王が謁見の間にて三人を出迎えた。フィンデル公爵が赤絨毯の脇に立つとアンジェリーナとアンソニーは跪いて頭を下げた。

「はい。父様、只今戻りました」

「うむ。よくぞ無事で戻ってきてくれた。それはそうと、そなたの側にいるのはどなたかな?」

父王が問いかけてきたのでアンジェリーナはアンソニーに目配せをする。彼が前に立つと深々と頭を下げた。

「初めましてと言うべきでしょうか。陛下、わたしはスルティア皇国皇帝の息子で第二皇子のアンソニー・ド・スルティアと申します」

「…何と。スルティアの第二皇子殿だったか。では、何用でこちらへいらしたのかな?」

「はい。その、こちらのアンジェリーナ姫とスルティアにて婚約をしまして。その報告とわたしが彼女の王配になるためもあってルクセンに参りました」

アンソニーが言いきると父王はぽかんと口を開けてしまう。そうして彼を見つめた。

「婚約?!」

フィンデル公爵も呆気にとられた。アンジェリーナは仕方ないと思いながら説明した。

「あの。アンドレイ様やスルティア皇帝陛下などにも報告して許可は取ってあります。セドニアのアルバート様では王配には向きませんでしたし。私も第二皇子殿下が良いと思いました。だから、婚約をしていただいたんです」

そう言うと父王はそうかとだけ答えた。

「…アンジェ。まあ、お前の言いたい事はわかった。では、アンソニー殿。娘と婚約したのだったらルクセン王家の一員になる。その覚悟はおありか?」

「もちろんあります。でなかったら、彼女とルクセンまでは来ません」

「ふむ。その言葉を聞けたのだったら良いかな。では、アンジェ。わしからも言いたい事がある」

父王はアンジェリーナを見やる。

「わしはもう、お前に王位を譲りたいと思っている。譲位してゆっくりとしたい。後はアンジェリーナとアンソニー殿に託す」

「父様…」

「案ずるな。執務の引き継ぎはもう始めるつもりでいる。明日から忙しくなるぞ」

父王はにやりと笑いながら言った。

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