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四章3

アンジェリーナとアンドレイはスルテイア皇国の宰相と騎士五人、弟皇子のアンソニーに出迎えられた。馬車を降りて少し歩いた奥まった所に彼らがいたのだ。

「…アンドレイ殿下。それと横におられるのはルクセンの姫君ですな。よくお帰りくださいました。陛下と后妃陛下がお待ちです」

「ああ、ただ今戻った。宰相、それにアンソニー。出迎えありがとう」

「はい。兄上、ルクセンでの件は本当にお疲れ様でした。それと、アンジェリーナ姫。お久しぶりです」

黄金の淡い髪に薄い緑色の瞳の物凄い美青年がにこりと笑顔で挨拶してきた。アンジェリーナもにこりと笑いながら青年に答える。

「ええ。こちらこそお久しぶりです。アンソニー殿下」

「…姫、俺の事は殿下と呼ばなくても良いですよ。普通にソニーと呼んでください」

「でしたら、私の事もアンジェとお呼びください。今後はソニー様と呼ばせていただきます」

アンジェリーナが丁寧に言うとアンソニーは笑みを深めた。

「そうですか。だったら、アンジェ。またよろしくな」

「…ええ。こちらこそよろしく。ソニー」

アンジェリーナが頷くとアンソニーは手を差し出した。意図がわからずに彼を見るといきなり、自分の手を握ってきた。

「あの。ソニー?」

意味がわからずに首を傾げるとアンソニーは良い笑顔で言った。

「一応、君とは婚約すると聞いたからね。これは挨拶だよ」

「はあ。挨拶ですか」

アンジェリーナが引き気味になっているとアンドレイが割り込んできた。アンソニーが密かに舌打ちした事は彼女は気がついていない。

「…あのな。アンソニー、初対面に近い女性相手に何やってるんだよ。アンジェリーナと婚約する事になったからって調子に乗んな!!」

「な。兄上だってアンジェリーナ姫と仲良く馬車に乗って帰ってきたじゃないか。ずるいにも程がある!」

「ずるいだと。俺には愛しのオリビアがいるんだ。アンジェリーナは年下だし手はさすがに出してねえよ!」

「…ふうん。じゃあ、何で一緒の馬車に乗ってたんだよ。侍従と同じのに乗れば良いじゃないか。オリビア様に教えてあげようかな。兄上が俺のアンジェと仲良く一緒の馬車に乗ってたって」

「アンソニー。だから、誤解してるって。俺と一緒にいた方が安全だったから一緒の馬車に乗っただけだ!断じて手は出してない!!」

二人はいつの間にかアンジェリーナとオリビア嬢の事で口喧嘩を始めだした。宰相と騎士五人は呆れた目で二人の皇子を見ている。

「…姫様。よろしければ、皇帝陛下方に先にお会いになりますか。あのお二方の喧嘩はしばらく続きそうですし」

宰相が提案をしてくれたのでアンジェリーナは頷いた。

「わかりました。お会いしますので案内をよろしくお願いします」

「かしこまりました。殿下方には後でおいでいただきますので。姫様は先に陛下との謁見をお済ませください」

頷いてアンジェリーナは案内役の騎士に付いて謁見の間へと向かった。




「…よく帰ってきた。アンジェリーナ姫」


威厳たっぷりに声をかけてきたのはスルティア皇国皇帝のアイザックだ。アンジェリーナにとっては恩人で尊敬する人物である。また、アンドレイやアンソニーの実父でもあった。年齢はヴィルヘルム王よりも大分年長の四十八歳だがあまり見えない。

若々しくアンドレイとよく似た栗毛色の癖っ毛を短く切り揃えてアンソニーよりも濃いめの緑色の瞳が印象的な人物だ。アイザック皇帝は緑色の瞳を細めてアンジェリーナに笑いかけていた。

「こちらこそ只今、戻りました。お久しぶりです、アイザック陛下」

「良い。姫、こちらには知った者しかおらぬ。宰相や騎士たちはそなたの事を小さい頃から存じておる。それにしても大変であったな」

「はい。アルバート様や妹たちにとっては酷な結果となりました。ですが、父は国のためには必要だったと言っていました。苦渋の決断ではあったはずではあります」

「…そうだな。アンジェ姫、隣には我が妻のエレノーもおる。挨拶をしておくと良い」

アンジェリーナがアイザック皇帝の隣にしつらえられた一回り小さい玉座に背が高くすらりとした金の髪の女性が座っていた。一切、喋っていなかったので気づかなかった。

「…姫。お久しぶりですね」

高らかな鈴が鳴るような声でエレノー后妃が笑いながら話しかけてきた。アンジェリーナは跪いていた姿勢から立ち上がって改めて淑女の礼をする。

「こちらこそきちんとしたご挨拶もせずに申し訳ありません。陛下、后妃陛下。改めて、ルクセンのアンジェリーナです。ご機嫌麗しくおめでとうございます」

「ふふ。ご丁寧な挨拶をありがとう。でも、以前みたいにおば様と呼んでくれても良いのですよ?」

エレノー后妃はにこやかに笑いながらアンジェリーナの挨拶に答える。

「はい。では、呼ばせていただきます。お久しぶりです、おじ様におば様」

「ええ。お久しぶりだわ、アンジェ。あなた、それにしてもアンドレイとソニーが遅いですわね。どうしたのでしょう?」

「ふう。あの二人だったらまた喧嘩でもしておるのだろう。アンジェリーナ、すまぬな。アンドレイはルクセンではしっかり働いたか?」

「ええ。目覚ましい働きをしてくださいました。セドニアのアルバート様と剣で戦ったりもしていましたよ。といっても私が斬られそうになったところを助けてくださったのですけど」

アンジェリーナが苦笑しながら言うとアイザック皇帝は豪快に笑った。

「はは。そうか、我が息子はそんなに働いたか。まあよかろう、セドニアの皇帝には後で手紙でも書こう」

「そうなさいませ、あなた。では、アンジェリーナ。もう良いですよ。あなたの居室はそのままにしてあるから。ゆっくりお休みになって」

「うむ。エレノーの言う通りだ。アンジェリーナ、自室にて寛ぐとよい」

「わかりました。では失礼します」

アンジェリーナはまた一礼すると謁見の間を後にした。




スルティアの王宮にある自室にてアンジェリーナはジェマや他の侍女たちに手伝われながら部屋着に着替えた。ゆったりとしたワンピースにカーディガンを羽織った格好で寝室に入る。仮眠をとるためだ。アンソニーとは是非とも親交を深めたいところだが。

今は休憩をしたかった。アンジェリーナはベッドに潜るとふうとため息をつく。

(ああ、疲れた。さすがに馬車での旅は大変だわ)

そう、アンジェリーナは最初は船でスルティアに戻るつもりだった。が、今は冬に近い季節であるのと海が荒れていた為に出航できなかった。また、ルクセンの家臣たちにも反対された。

次期国王が内定したアンジェリーナには船旅は危険だと。どこからそんな理由がでてきたのかわからないが。

仕方なく家臣たちの言う通りに馬車でスルティア皇国へ旅をする事にしたのだった。

そこまでを思い出しアンジェリーナはうとうとしだした。深い眠りに引き込まれたのだった。

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