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三章 明かされる真相1

カトリーヌとアンジェリーナは睨みあった。冷たい沈黙が二人におりる。アンジェリーナはやはり妹が裏切っていたのかと落胆した。「姉様。セドニアの皇太子様が夜這いをかけてきた事にわたしが絡んでいたと気づくとは。さすがね、将来の女王候補なだけはあるわ」

ふっとカトリーヌは挑戦的に笑った。アンジェリーナはふうと息をついて妹を見る。

「…何で、わたしを狙うのかわからないわ。カトリーヌ、何が目的なの?」


「何でかですって。そんなの決まっているじゃない。姉様は王にふさわしくないからよ!」

カトリーヌが顔を赤らめて叫んだ。アンジェリーナは成る程という冷めた気持ちと何でという怒り、悲しみなどの感情がせめぎあうのを感じた。

「わたしが王にふさわしくないね。けど、次期国王には王太子のカイルがいるじゃないの。カトレア様が警戒するのが今一つぴんとこないわ」

「姉様にはわからないわ。わたしがどんな思いをしていたかなんて。幼い頃からスルティア皇国の皇帝陛下方に保護されていたあなたには」

「カトリーヌ」

アンジェリーナが名を呼ぶとカトリーヌはさらに睨みをきつくさせた。目には涙が浮かんでさえいる。

「姉様がスルティア皇国に留学してしまった後でわたしは前王妃の娘だからってカトレア様から疎んじられたわ。しかも、王族を幽閉する塔に閉じ込められて。そして、言われたわ。王妃様の生んだカイルを推すか姉様を推すかを。だけど、カイルを選ばなかったらわたしの命はないとね。仕方なく姉様ではなくカイルを推す方を選んだわ。それでも、一ヶ月は出してもらえなかった。わたし、何度も姉様や母様に助けてと祈ったし父様に出してほしいと訴えたわ。けど、カトレア様は父様に絶対にわたしを出さないようにと言ったの」

カトリーヌはそこまでを言い切ると涙を流した。アンジェリーナは初めて明かされる妹の過去に驚きと悲しみを禁じ得ない。同時にまた怒りが沸き起こる。カトレアがそこまで母を嫌っていたとは。カトリーヌを邪魔者扱いして何になるのか。

「…カトリーヌ。そんな事があったのね。ごめんなさい、私さえこの国にいたらそんな目にはあわせなかったのに」

「…今さら言ったって遅いわ。姉様にはわからないわよ」

カトリーヌは吐き捨てるように言った。アンジェリーナは沈痛な表情を隠しきれずに瞼を閉じる。

「カトリーヌ。では、カトレア様と手を組んでいた事は認めるのね?」

「ええ。そうよ、カトレア様とは利害が一致しただけの関係だったけど」

カトリーヌは皮肉げな笑みを浮かべた。

アンジェリーナは胸がちくちくと痛いと思った。カトリーヌの目は憎しみに満ちている。実の妹なのに何故と言わざるを得ない。

「カトリーヌはもう決めたのね。では、まだ聞きたい事があるの。父様にも毒を盛ったわね?」

それを尋ねた途端、カトリーヌの顔から表情が抜け落ちた。まさかと思っていたがリョウの情報は正しかったようだ。

「…姉様。そこまで調べていたのね。王妃様は確かに父様の命も狙っていたわ。自分が完璧に権力を握るために」

「そうだったの。では、カトレア様が黒幕と言ったところね」


「黒幕か。そういう言い方もあるわね。ボーガンの事件も姉様に毒を盛ったのもカトレア様が絡んでいるわ。父様をも狙ったのには呆れたけど」

カトリーヌはふうとため息をついた。アンジェリーナも頭が痛みそうになるのを堪えながら茂みなどに控えていた騎士たちに目配せをする。素早く彼らが出てきて腰に提げていた剣を鞘から抜いた。ちゃきっと音がしてたちまち、カトリーヌを取り囲んだ。

「姉様は用意周到ね。最初からわたしやカトレア様を疑っていたの。まあ、仕方ないか。これも自業自得だわ」

カトリーヌはそう言いながら悲しげに笑った。アンジェリーナは実の妹でもあり胸中は複雑だった。スルティア皇国に自分が行っていなければと思う。

だが、全てはもう遅い。歯車は既に回っていて巻き戻す事はできなかった。

「…この者を捕らえなさい。牢獄へ連れて行くように」

「わかりました。姫様。皆の者、カトリーヌ王女を捕らえよ!」

一斉に騎士たちはカトリーヌを捕らえにかかる。荒縄で腕を後ろ手に縛られてカトリーヌは連れて行かれた。

アンジェリーナはそれを黙って見届ける。ゴロゴロと空が唸り閃光が弾けた。雷鳴が(とどろ)いて辺りが薄暗くなる。

鈍色の雲が空一面を覆い、ポツポツと冷たい雫がアンジェリーナの頬に当たる。雨が降ってきたのだと少し経ってから気づく。

すぐに影のリョウが駆け寄ってきた。

「姫様。そんな所におられては風邪をひきます。中へ入りましょう!」

「…リョウ」

「さあ、早く。話はその後です」

アンジェリーナはリョウに伴われて城に戻ったのだった。




あれから、カトリーヌは牢獄に入れられて尋問にかけられた。王族ではあるので拷問にはかけられなかったが。カトリーヌは最初、黙秘していた。が、アルバート皇太子が自国に帰る時が近づいたと知ると少しずつ自白を始める。それによるとアンジェリーナだけではなく父王ことヴィルヘルムでさえも命をカトレアは狙っていた。自分が完全に権力を握るために。

それを知った父王は深く失望して怒りもした。ただちにカトレアも捕らえられ牢獄に入れられた。カトレアは離宮へ幽閉の身となる。カトリーヌも王女の身分を剥奪、国外追放と処せられた。

後にカトレアも謎の死を遂げる。が、アンジェリーナは真相を知っていた。実家の侯爵家から送り込まれた侍女の手により毒を盛られて暗殺されたのだ。国王を暗殺しようとしたので斬首は免れなかった。が、侯爵家はそんな事で自分たちにまで塁が及ぶのは避けたかったのだろう。

そう、アンジェリーナは結論づけた。これにより、国王及び第一王女暗殺未遂事件は幕を閉じたのだった。

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