08.誘い
5限目の授業は英語だった。
だからこそだろう。
屋上に隠れていた事を友達には責められた。
なぜなら私のノートを見ることが出来ないから。
私が教室に入ったのは始業ギリギリだったので、もちろん見せる暇も写す暇もなかった。
その授業では殆どのクラスメイトが減点を食らうかと思いきや、減点されることも指されることもないまま、静かに授業は終わった。
前回の事がよっぽど堪えたらしく、終始顔を上げることはなかった。
6限目の歴史は殆どの生徒が深い眠りについた。
瀧はというと数少ない起きている人間の一人で、その中でもさらに少ない真剣に授業を聞く一人だった。
慎埜はというと、いわずもがな爆睡していた。
静かなまま、最後の授業が終わった。
チャイムの音と共に跳ね起きて帰り支度をする者や、部活の用意をする者と様々だが、誰しも皆、顔の何処かが赤くなっていた。
「瀧!」
「ん?何?」
振り向くと教師陣にうけの悪い、言わば不良に属する他クラスの女子が数人来ていた。
いつもより一人足りないようだが。
不良と言っても、彼女等は法に触れることは絶対に手を出さないという信念を持ったグループで、付き合いも広く、瀧も嫌いではなかった。
その中のリーダーである里奈がズイッと前に身を乗り出す。
「瀧。コンパ行かない?」
「……遠慮しとく……」
「来てよ!ってか来い!人数合わせでもいいから〜!」
「行かないって」
「タキ〜、助けると思って〜!おねがい!」
目の前で拝むように手を合わされる。
そのままの形でさらに続けた。
「織乃が休んでメンバーが揃わないの!!お願い!!」
織乃というのは今この場にいないもう一人の事だとすぐに合点する。
目付きの鋭い黒髪の彼女の姿が脳裏を過ぎる。
拝むというより懇願に近くなってきている。
断るのは無理だなと理解すると、その場の全員の顔を見ながら言う。
「わかった。行くよ。その代わり人数合わせるだけだからね?」
黄色い歓声が教室中に響き渡った。
その後いったん家に帰って私服に着替えることと、スカートで着てほしいと懇願され、全員スカートだというので渋々了解した。
待ち合わせの時間と場所を軽く打ち合わせると、「じゃぁあまた後で」と言って一先ず別れた。
チラッと前を見ると、慎埜はまだ寝ていた。