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07.屋上で

「疲れた〜」

そういってもう肌寒くなってきた空の下で、スカートなのも気にせずに、大の字にねっころがった。

冷たくなった風が頬を撫でると、身震いがするが、今日は風のない鮮やかな晴天だった。

「見つけたぞ!宮崎!!」

「――っ!!」

焦って声のしたほうを見ると、見知った顔が一つ、からかうように笑っていた。

人物を確認するとまたねっころがるが、さすがに脚は閉じた。

「慎埜。何の用?」

「別に何も?」

そう受け答えると、慎埜は当たり前のように私の横に座り込む。

「カッコ良かったよ。瀧」

「そりゃどうも」

からかい口調の言葉に対して気のない返事を返す。

「来たよ。さっき」

「…そう」

それが何なのかは言われなくてもわかる。

勧誘だ。

「居場所聞かれたけど、知らないって言っといたから」

「…サンキュ」

疲れが一気に押し寄せてきたような気がする。

目をつぶっている間に眠気に襲われる。

話続ける慎埜の言葉にを聞くともなく聞いていた。

軽い沈黙のあとに慎埜はいう。

「好きなのに何でやらないんだ?バスケ」

「……」

多分だれよりも私の傍にいた慎埜でさえも、この一年半近く言ったことはなかった。

部活に入らないその理由。

「…ま、いいたくないんなら別に…、無理にとは言わな――」

「疲れちゃった」

もう隠しておくのも疲れてしまった。

今なら日よけのように顔を隠してしまっていて、目を見て喋らなくて済むから、スルスルと言葉がでてきた。

「期待されるのも、それに応えるのも…」

「……」

慎埜は絶句しているのか何も言わない。

私は続ける。

「やってるのは楽しかったけど、ガンバレって言われる度に体が重くなる気がした」

うっすらと目を開けると、指の隙間から漏れる光りが見えた。

「バスケは好きだけど、それに縛り付けられてる気がして……疲れちゃった」

慎埜はまだ何も言わない。

そしてその顔を見るのも恐かった。

「それが主な理由――」

「――…っか。ま、やるやらないは本人の自由だしな。で?他の理由は?」

意外に明るいいつも通りの口調だった。

先を促されたので、自然に言葉が飛び出してくる。

「やりたいことが、ね。あるんだ。そっちの方が部活よりやりたいから……だからかな」

「で?」

ここで軽く受け流してくれないのが、言いたくなかった理由でもある。

「言わなきゃダメ?」

一応聞いてはみる。

軽く表情を覗いてみると、「当たり前だろ?」とでも言いたげににっこりと笑った彼の顔があった。

もう絶対ごまかせないと感じ、大きな息を吐き出した。

「―バスケは好きだけど、それで食べる訳じゃないし、自分に色々投資してみようかと思って」

「何かやった?」

「まぁ一応いくつか資格とったかな」

「何の?」

「フラワーアレンジメントに、パソコン検定に書写検定。あと…――」

「んなのやってたんだ」

「後は学生らしく遊びたくて」

「……」

「……幻滅?」

「いや……らしい――かな」

少し考え込むように俯いているので、瀧から慎埜の顔は見えない。

サラサラとした漆黒の髪が首にかかっている。

「……」

胸が苦しくなるのを感じた。

いつからか生まれた想い。

相手に告げる事なく、日々大きくなっていく。

当たり前に隣にいられる今の関係が気持ち良くて、踏み出すことの出来ない想い。

朝起きる度、家を出る度に親友でいる事を決意する。

今を壊すことのないように――。

例え女と意識されてなくても――。

不意に目を反らさずにはいられなくなった。

目頭が熱くなる。

彼越しに見える青空が自棄に目にしみた。

その顔を隠すように、私はもう一度腕で顔を覆った。

そのままどちらも話す事なく、予鈴がなった。

「先行ってて」

そういうと不思議そうだったが彼は先に教室に向かった。

彼の後ろ姿を見ながら私は思った。

あとどれくらいあの隣にいられるだろう。

あとどれくらいあいつの隣で笑ってられるだろう。

あとどれくらい、私は隠しておけるだろうか。

ふと振り返れば、絶え間無く広がる空がそこにあった。

絶え間無く流れる雲のように――。


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