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04.夜の自主練


「何してたんだ?」

「遊んでた」

ストリートコートの中心に座りながら、険しい目付きで見上げられていた。

座り込んでいる人の腕の中にはバスケットボール。

そう、神林慎埜だ。

何故かはわからないが、かなり怒っているらしい。

「俺が汗水たらして部活に勤しんでるときに遊んでた?」

「別にそんなの無関係だし。部活に入ってないんだから自由でしょ?」

「……」

怒りは納まってないが、私の言葉に反論できないらしい。

まぁ、事実なので当たり前だが……。

「そっちこそ何?こんな所に呼び出して」

慎埜は答えずに、突如ボールがすごい勢いで飛んできた。

しかし瀧はそれを軽々とキャッチすると投げた相手を睨み付ける。

と、相手はすでに立ち上がって背を向けゴールへと向かって歩いている。

「おい」

ボールを片手で抱えるように持ちながら、後ろ姿に声をかける。

その声に反応したように振り向くと、こう言った。

「付き合え」

間髪いれず、持っていたボールを投げ付ける。

「スカートだから無理」

「俺の鞄にジャージ入ってる」

「汗まみれを着ろと?」

「まみれてねぇよ。着てねぇから」

「自分勝手な事してるのわかってる?時間考えろよ」

「おばさん達なら心配するな。お前借りるって電話したらOKくれたから」

どうやら逃げ道はないらしい。

「わったよ」

その言葉とともに慎埜の鞄に入っているジャージを無言で取り出す。

ブラウスはそのままに上下をパッパッと着終えてコートの中に入っていく。

幸か不幸か靴はローファーではなく動きやすい。

「何やんの?」

慎埜の強引なやり方のせいで、多少不機嫌ではある声が自棄に大きく夜闇に響く。

慎埜からメールを受け取ってから1時間弱はたっている。

面倒でも一人で出来る練習はもう終わっているだろう。

「1−1でDFの練習」

「わかってる?私もう現役じゃないよ?」

何を言っているんだろう、こいつは。

もう本格的にバスケをやらなくなって1年半は過ぎてる。

前みたいに動けないのは確かだ。

「瀧なら関係ないさ」

私の考えを知ってか知らずか、きっぱりと慎埜は言い切った。

「説得力ゼロ」

「昔取った杵――だろ?勘さえ戻せば平気だって。それにバスケやりに行ってるだろ?」

確かに頻繁に中学に顔を出しているが……、いつの間に知られたのか。

言いたくないから言わなかったのに。

「な?」

もう断れないぞって顔に書いてある。

もう避けることは出来なかった。

観念しているとボールが今度はいくらかゆっくりと向かってくる。

私は気を引き締めた。

このボールを掴んだ瞬間から、1−1が始まる。

私のいる位置はほぼセンターラインの手前――ヤバッ!!

私は走り込んでよりゴールに近いところでボールを掴む。

場所はスリーポイントラインの1メートル手前。

慎埜の方はというと、打つ体制になればシュートコースを防げ、相手に簡単には抜かれない、いい位置にいる。

――上手くなってる――

すぐにそう思った。

中学ではやや近過ぎて、上手いやつなら抜くことが出来たが、今の位置なら滅多なことがなければ抜くことは難しいだろう。

お互い相手のやり方や癖を知り過ぎている。

――やりにくいな――

素直にそう思った。

そしてそのDFからどうやればゴールが取れるのか考えを巡らせている。

さっきまでの気持ちは何処に行ったのか、私はこの瞬間を楽しんでいた。

始めに仕掛けたのは私。

ボールを突き出して一気に抜きにかかる―!

が、慎埜にあっさりと道を塞がれ逃げるように後に下がる。

次の瞬間、私は飛んでいた。

十八番でもある3P。

あっさり慎埜の手を逃れる。

次の瞬間二人同時に駆け出していた。

私は外したボールを取りに。

慎埜は私の手から離れたボールを奪いに。

ゴール下で前を慎埜に取られ、不利な体制になる。

神妙にボールの軌跡を予想し、右へ走った。

慎埜はまださっきと同じ場所にいる。

リングに当たったボールは大きく跳ね、私の手の中に納まる。

すぐにシュート体制を調えジャンプシュート。

――慎埜の体が近づいてコースを塞ぐ――と見せ掛けて抜き去ってレイアップが決まる。

かと思いきや、後ろから伸びた手が、ボールだけを弾いた。

ギリギリだがファールではない。

弾かれたボールはちゃっかりと慎埜の手の中にあった。

「俺の一勝♪」

慎埜の息は多少荒いが、あれだけ動いたことを考えるとやはりそこまで切れてはいない。

それは瀧も同じだった。

ニヤニヤと指の上でボールを回す慎埜の顔を思いっきり睨み付けながら、もう一度始めるベく瀧はセンターに戻った。

その後2時間弱、コート内には張り詰めた緊張が漂っていた。


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