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29.慎埜の想い

「ばか」

公園に着いて、公園内唯一の電柱の下にあるベンチに座り込んではや10分。

その間一言も喋らなかった慎埜が、やっと言い出した言葉はそれだった。

「は?」

「ばか」

慎埜はその言葉だけを繰り返した。

「なっ…!」

「ばか」

言い返そうとはするが、あっさりと遮られて何も言えなくなる。

始めは苛立ち気味に、段々苦笑と笑いと諦めとからかいが混じっていく。

そんな珍しい慎埜の様子を、瀧は怪訝な顔のまま見ていた。

「ホント――ばかだよなぁ〜」

すでに言い返そうと言う気は瀧にはなかった。

「瀧さ、俺言ったよな?大事だって。なんでそういう危ないことすんの?」

「しょうがないでしょ?そういう性格なんだから…!」

「ま、そんな瀧が好きだけどね」

「なっ――何言って……」

「ん?別に。言ってる通りだけど?」

瀧は絶句する。

慎埜が何を言っているのか理解できない。

「瀧の性格もよく知ってるつもりだし、行動パターンも把握してると思う」

半ば諦めたかのように慎埜はスラスラとそんな事を言い始める。

「危なっかしい事もわかったし」

そこで慎埜は瀧の顔を正面から見据える。

「俺が守りたいと思った」

顔が一気に赤くなるのがわかる。

言葉を理解するより先に体が反応している。

「瀧が好きだ」

全ての時間が止まってしまったような感覚に囚われる。

今耳に届いた音が頭の中で声として変換されない。

頭の中が真っ白になる。

感覚が全て奪われて、何も考えられない。

そんな瀧を苦笑の混じった顔で見ると、慎埜は繰り返した。

「瀧が好きだよ」

音は変換されることなく、音のまま瀧の心へと染み込んだ。

涙で視界がぶれてくる。

「…っ――だってこの前……!」

「言っただろ?多分好きなんだって。ただあやふやなまま瀧傷付けたくなかったし」

ちょっと拗ねたような顔を浮かべながら、慎埜は瀧から目を反らす。

「ゆっくり考えようかと思ってたら、これだ。いやがおうにも気付かされたんだよ」

「――そ…っ……」

言葉が続かなかった。

何故ならとても優しい目で慎埜は瀧を覗き込むのだから。

「付き合って?」

悪戯っ子の顔で、慎埜は瀧に微笑んだ。

言葉の代わりに涙が溢れて、瀧は言葉を紡ぐのは困難だった。

涙で顔中を濡らしながら、瀧ははっきりと首を縦に振った。

それが答えだった。

考える必要はなかった。

すでに何年も考えて、それでも変わることのなかった答えだったのだから。

涙が後から後から溢れて笑い泣きになっている瀧を、慎埜は優しく抱きしめた。

「捕まえた♪」

心底嬉しそうにそう言った慎埜の顔は、涙でぶれた瀧の目には映らなかった。

それでも少し力を強めて瀧の肩を抱く慎埜の腕の感触は、面白いように瀧を安心させた。

まだ止まることのない涙が止まるのを待ちながら、二人は長い間そうしていた。




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