24.強行手段
「瀧!今日空いてるだろ?」
HR直後、部活に行けるように鞄を背負ったまま、走り出す直前のような感じで、慎埜は瀧を振りかえった。
「…だったら?」
「付き合え、部活。わりぃ」
「――っ!おいっ!」
それだけ言い残すと机の上に置いてあった瀧の鞄を引っつかむと、早々と立ち去っていく。
つまり自分で取りに来いと言うことだろう。目を付けられまくっているバスケ部顧問の所まで。
そう命じられているのだろう。
――強行手段に出てきたか――
帰る約束をしていた友達に謝ると、重い足取りで瀧は体育館へと向かった。
「やっと来たか」
「鞄を返して貰いに来ました」
『鞄』とやけに強調していい、目の前の人、バスケ部顧問を睨み付ける。
「わかっているだろう?」
――……――
この教師特有の含みを持たせた言い方が、瀧のカンに障る。
瀧が部に入らなかった理由に、この教師が顧問をしているという点もあった。
「わかりませんね。早く帰りたいもので」
瀧は優等生の類には入るが、決して従順ではない。
特に負けず嫌いはいつものことである。
特に権力やら弱みを翳していうことを無理に通そうという輩が一番嫌いだった。
「入部しろ」
「この学校での部活入部は任意のはずですが?」
「だから入れと言っている」
「任意の意味をご存知ないのですか?」
言葉はいたって丁寧だったが、そこに針やら錐やらが隠れているのは誰の目にも明らかだった。
特に体育館にいるメンバーの中でその成り行きを案じていたのは他でもない、神林慎埜だった。
「何故入らん」
「やりたくないから以外に理由が必要ですか?」
「バスケは好きなんだろう?」
「好きですよ。バスケはね」
『バスケ』をおもいっきり強調する。
「なら――」
「そんな事より鞄を返して貰えません?」
「嫌だね」
即答した。
瀧の表情がぴくりと動いた事に気付いたのは多分慎埜だけだろう。
――ヤバイ…――
慎埜はそう思った。
過去幾度か瀧が切れたのを慎埜は目撃している。
豹変という言葉がよく似合うと言ったのは、慎埜の友達だったか。
「瀧っ!」
かなり危ない雰囲気になって、慎埜が瀧の名前を呼ぶと、軽く睨まれた。
――今回だけだから――
とその瞳は言っていた。
「入部する気はありません」
「認めるつもりはないな。だったらウチのレギュラーを5人抜きしてシュートを決めて見せろ」
もともと本当に認める気はないらしく、そんな難題を言い付ける。
「いいでしょう。その替わりアップはさせて貰いますよ」
それをいともたやすく瀧は受け入れた。
――難しくても、それができればもう勧誘はできない――
瀧の頭の中では着々と作戦が練られていた。
「3度までの挑戦なら許してやるよ」
「そのうち一度でも抜ければいいのでしょう?」
勝負の勝ち負けの仕方をよく確認しておく。
「あぁ」
「慎埜!!聞いてたね!?」
「聞いてた」
「よしっ!神林慎埜をお借りしますね」
ちゃんと証言者を確保すると、慎埜からジャージを借りた。
隅でさっさと着替えると、コートに転がっていたボールを拾い、ドリブルで走り回った。
それから慎埜を使ってパス練でボールの弾み具合やらを調べて、シュートを練習した。
途中探るように慎埜に見られたが、曖昧に返事をしながら、体が温まるのを待った。