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20.溝

「……瀧…平気?」

「…わりと…」

翌日、瀧と慎埜の変化は時間を置くことなく、瞬く間に広がった。

これはどちらも気にする人が多く、殆どの人にはチャンスがあるというよい話題として伝わっていった。

数少ない渦中の人を除いては…。

里奈はその数少ない一人である。

登校後すぐにその話題を聞き付け、そのまま瀧の元へと足を運んだのである。

里奈の予想通り、そこには失恋に落ち込みながらも平然と振る舞う瀧の姿があった。

前にいるのが諸悪の根源である慎埜なのだから、もちろんその場で話す事等出来ず、適当に用件を作り出して瀧を屋上まで引っ張って来たのである。

「…詳しくは聞かないよ…」

「……サンキュ」

周囲の視線や好奇心の対象という立場から開放された瀧は、無理をしているのが祟っているのか、まるで廃人のようである。

あまりお目にかかりたい光景ではない。

「…昨日…気持ち全部言った」

蚊の鳴くような声でそういった瀧はやはり辛そうだった。

が、瀧はそのままで続ける。

「…慎埜…神林は私と先輩の橋渡しをしてたんだって」

その目は里奈に向けられている訳ではなく、独り言のようにもとることが出来る。

「…完璧失恋…」

「…だからか。他人行儀にしてるの」

「…だって…、気持ちに区切り付けたいし」

「…だから苗字呼び…?」

「……うん」

「…そ。でもそれなら神林君の態度はおかしいよ」

「……」

何を言ってるんだろう、里奈は。

何も可笑しくなんてなかったのに。

「瀧が気付かなくてもしょうがないよ。顔見てないじゃん。ま、見づらいっていうのが殆どだろうけど。神林君の顔ひどいよ?なんか焦ってる+迷ってる+後悔してるって感じのひどい顔してる。特に瀧に話し掛けてるときとか…」

知らなかった。

確かにまともに表情を伺ってはいないから。

――恐くて……――。

諦めようと思っても、そんなに簡単に諦められる気持ちではないから、あからさまに避けなければまた望んでしまう。

感情が勝手に大きくなってしまうから。

「……でも、きっとそれは違うよ。神林は私の気持ちなんて考えてないもん」

昨夜の態度を思い出す。

神林は私自身の気持ちなんて無視同然だった。

「瀧……そう思うのは勝手だけど、それだと何もかわらないよ。実際に様子が可笑しいのは確かなんだから」

里奈の非難の視線を感じながらも、瀧の心が動く事はなかった。

里奈のいうことの意味はわかっても、それを受け入れるだけの心の余裕は――ない。

「ま、瀧に任せるけどね。後悔しないようにね」

「――里奈、正直に言って。私は馬鹿な事をしたの…?」

「……その答えを出すのは、私じゃなくて瀧だから」

「付き合ってはいないっていって、いつも通りに振る舞えばよかったの…?ねぇ、里奈……」

「…そうは思わないよ。…もう限界だったんだと思うから。こうなったのは…瀧の為にはよかったんだと思う」

里奈ははっきりと言った。

その様子に少しだけ力を貰い、瀧は淡く微笑んだ。

今日初めての心からの笑み。

その笑みに、里奈は精一杯の笑顔を返した。

『どうか瀧が早く前のように笑えますように』

と、願いを込めて。


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