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18.露見

色々あった休日ですっかり疲れてしまっていた瀧は、朝から眠気がピークに近かった。

なんとか昼まで我慢して、やっと寝れると思った昼休み。

「こんー!!」

ドン――と表現するような抱擁――否、体当たりをされると、腕を回され後ろから抱きしめられる形になる。

「りぃな〜。やめてよ〜。眠いんだからさ〜」

机に突っ伏してウトウトしていた所を邪魔され、抗議するような声を上げる。

「珍しいね〜!瀧が学校で眠そうなの」

「まぁね。色々あったの」

里奈からの強引過ぎる抱擁を逃れて、瀧はまた机に突っ伏した。

「…彼氏が出来た――とか?」

が、その動きが完了するまえに止まる。

前に座って同じように机に突っ伏していた慎埜の肩がピクッと反応したのは、多分見間違えだろう。

「………何のこと?」

「またまたぁ〜。隠さなくていいってば♪」

机に向かい合っていた顔を里奈に向けると、そこにはニヤニヤと微笑んでいる里奈の顔があった。

「…本当に何の事だかわからないんですけど……」

「一昨日バスケコートのある公園で――」

ガタンッ――!!

急に立ち上がった瀧にビックリして里奈の話しが中断される。

「瀧…?」

「ちょっと来て、里奈!!」

不思議そうに瀧を見上げる里奈を無理矢理引っ張って、瀧は屋上を目指した。

「ちょっと、ちょっと!どうしたのさ!?」

里奈が慌てるのもわからなくはない。

なぜなら今自分はとても余裕のない顔をしているから。

「里奈!その事誰かに言った!?」

「えっ?まだ言ってないけど…」

「よかった〜〜〜」

一気に脱力。

瀧はその場にへたりこんだ。

それを里奈が心配そうにしゃがんで覗き込む。

そんな里奈に瀧は言った。

「――それ、誤解だから」

「えっ?何が?」

「公園で――見たんでしょ?」

「あ、うん。そう」

「だからそれ。誤解。彼氏じゃないし」

「違うの?あれで?ちゃんと説明してくれるよね?」

問い詰めるような里奈の視線を感じながら、瀧はコクンと頷いた。

どこから話せばいいのかと考えながら、同じように座った里奈を見ていた。

「どういうこと?」

「まず始めに里奈が見たのは私の中学の一つ上の先輩」

「で?ただの先輩じゃないでしょ?」

さすがにそういう所はしっかりと突いてくる。

伊達に県トップの進学校に通っている訳ではないらしい、などと失礼な事を考えながら、ゆっくりと話始めた。

「……中学の時に告られて……」

「じゃあ元カレ?」

「違うよ。その時――断ったから」

「なんで!?かっこよかったし、なんか問題がある人なの?」

「全然。いい人だよ。優しいし、気さくだし、誠実だし」

「じゃあ…――?」

「……好きな奴が――いた――から……」

顔が赤くなっているのを自覚する。

今まで誰にも話したことがなかった本当の気持ち。

「――。初耳…――」

「…誰にも言った事ないし」

「――告ったの?相手には…」

「ううん。そう見られてないの知ってたし」

「――神林君か…――」

「っ!!誰にもいわないでよ!!」

「言わないよ。そんな事。で?どう繋がるの?一昨日の事と」

「一昨日は…、慎埜にバスケ付き合えって言われて公園に行ったんだよ。早く行って練習でもしようかと思ったら……、先輩が――いたんだ」

なぜいたのかわからなそうな里奈を見て、瀧は笑って付け足す。

「先輩もバスケ好きだから。んでその時に…また告られた――。断ったけどね。先輩は知ってたんだ。私の気持ち。あいつが私のこと女として見ていないことも、全部先輩は知ってた」

「…それで…?」

「私は先輩に応えることはできないのに、先輩がすごく優しいから…泣いちゃったんだ」

そう言葉に出すと、やっと止まった涙が出てきそうになる。

「それが私が見た場面なわけだ」

「そう」

「ふ〜ん。で?その先輩は諦めるって?」

「諦めて貰いたかったんだけど…まだ待つって言ってた」

脳裏に去り際の先輩の姿が鮮明に蘇る。

出来れば諦めてもらいたかった。

好きなのに振り向いてもらえない切なさは、十分過ぎるほど知っていたから。

「――愛されてるんだね〜。普通言わないよ?そんな事」

「……わかってる」

言われなくても知っていた。

だからこそその後会った慎埜を苗字で呼んだのだろう。

「そっかぁ〜。そういえば中沢君は?」

「え?なんでそこで中沢君が出てくるの?」

瀧は急に出てきた名前に、なんの繋がりも見出だせなかった。

「……。瀧……、ちょっと鈍過ぎだって」

「?だから何が?」

馬鹿にするというより、呆れかえっているようにいう里奈の言葉の意味が、瀧にはまだわからなかった。

「……。本当に気付いてないの?」

「?だから何の事?」

三度聞き返したその言葉に、里奈は盛大な溜息で返した。

「中沢君の事だよ。瀧に気があるじゃん?」

「……」

聞き慣れない単語に息をすることすら忘れる。

「まさか…そんなはずないって!」

「…その自信はどこから来るんだよ」

「だってさ―――」

「自覚しなよ。瀧はモテるんだよ?こないだの恰好すっごいよかったし、あれで気にならない奴はいないって!」

「でもさ――」

「でももなにもない。渡辺君も行ってたよ?女といてあんなに楽しそうな中沢君は初めて見るって」

「……」

もう何も言えなかった。

里奈は嘘はいわない。

こと恋愛については特にだ。

「はっきりしちゃいなよ。じゃないと色んな人傷つけることになるよ?ねぇ瀧…!」

わかっていなかったのだと思った。

今まで目に見えて傷つけたのは先輩だけだったから。

私は何人を知らない間に傷つけて来たんだろう。

涙が、溢れた。

後から後から限りなく、いつまでも、いつまでも。

里奈には先に教室に帰ってもらって、瀧は初めて授業をサボった。

長いことずっと一人で泣いていた。

時間の感覚すらすでになかった。


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