17.メールらしいメール
「バカだな〜」
もう何度口にしたかわからない言葉を何度も呟いていた。
シンプルで女っぽくない部屋にある、これまたシンプルなパイプベッドの上に瀧はいた。
考えるのは昨日の夜の事ばかり。
迂闊なことをしてしまったとかなり後悔していた。
もちろんバスケは昨日も全敗。
っていうか散々だった。
30分も経たないうちに慎埜の方から切り上げを提案されるぐらいボロボロだったのだ。
「あれじゃあ男っぽくないじゃん…」
親友を演じることが出来なかった。
何でもないといいながら、なんでもない風に振る舞うことが出来なかった。
「バカだよなぁ〜」
時計を見ると既に10時を回っている。
普段ならまずチャットをしている頃だろう。
今日は何もかもいつもと違っていた。
朝起きれば泣いていたらしく顔は醜いし、昨日の事は少なくとも慎埜との間のしこりになるだろう。
もしかしたら避けられることだってあるかもしれない。
今までに慎埜の前でああやって泣いたり、泣いたことがばれたことは一度としてないのだから。
だから瀧は慎埜の親友を名乗れるし、慎埜も瀧を親友として見てくれるのだ。
ズンズンと際限なく積もっていく重いものを、瀧は感じていた。
グゥギュルルル……。
緊張も悩みも馬鹿らしく感じてしまうほど、はっきりとその音は響いた。
瀧は顔をベッドに埋めながら大きな溜息をつく。
「こんな時でもお腹は空くのか……」
ノロノロと起きだし階下に下りて適当に遅すぎる昼食にしようと立ち上がると、無造作に投げ出された携帯が目に留まった。
何気なく拾い上げると不在着信と新着メールが来ていた。
不在着信は中沢君で、昨日の夜。
メールを開けた途端、瀧は自分の目を疑った。
送信主は――神林慎埜――だった。
『昨日はわりぃ。なんか隠されたのがムカついて。でも別に瀧が俺に全部話さなきゃならないことはないんだよな。俺嫌な態度とった。悪かった』
それは慎埜には珍しいメールらしいメール。
文らしい文。
目の奥でやっと納まった熱がまた高くなるのを感じた。
『わかった。こっちこそゴメン。その気になったら話すから』
そう返信を打つと意を決して送信ボタンを押した。
最後の文はほとんど嘘に近い。
多分話すことはないだろう。
もし話すことがあるとすれば、その時は自分の気持ちを伝えなければいけないから。
あの時に何があったのか言わなければならないから。
それは多分、無理だから。
返信はすぐに返って来た。
『んじゃ待ってる』
とだけ。
いつも通りの感じで。
しこりに残ることはなかった。
そのことを瀧は喜んだが、まず守ることの出来ない約束をしてしまったことに、心を痛めることになった。