16.親友という名の枷
何も考えられなかった。
コートの端に申し訳程度に設置されていたベンチに座り込むと、時間も何もかも忘れて、ただ一つの疑問だけが頭にコダマのように響き続けた。
――なんで神林慎埜を好きになったんだろう――
「瀧?どうした?」
急に降ってきた人の声に、瀧は目だけを上げた。
次の瞬間一気に顔をあげる。
まじまじと目の前の人物を確認する。
「――…神林……?」
「ほかに誰だっていうんだ?それより――どうした?」
怪訝な顔をしながら慎埜は瀧の顔を覗き込んだ
「えっ……?…何が?」
我ながらマヌケな事をしていると思った。
「絶対練習してると思ってたのに、ジャージですらないし」
さすが――というべきだろう。
喜べるかは別としても。
「あ…ぁ、なんかぼうっとしてたみたい…。わり…ぃ」
「瀧。そんなんで騙せると思うか?親友の俺を」
――親友――
瀧は自分の中に見えない重りが沈むのを感じた。
「別に嘘なんて――」
「――神林――って呼んだよな?慎埜じゃなくて」
「……」
瀧は全く自覚していなかった。
ただ無意識に呼んだ名前だった。
「それに……目、赤くない?」
「……」
顔を洗うことすら忘れていた。
自分の馬鹿さ加減に顔が熱くなる。
それにしてもどうして今日に限ってこんなに目敏いのだろう。
さっき気付いたが、もう暗くなっているから目の色なんてわからないはずなのに。
「瀧?」
「……なんでも…ない――から」
「俺には言えないこと?」
「…何でもないんだってば」
「…わかった。それならバスケやろうぜ」
そういうと慎埜はバスケコートに向かって歩いていく。
瀧は目を擦るとその後に続いた。