14.約束
ピロピロピロ…ピロピロピロ…。
瀧の耳に聞き慣れた着信音が聞こえた。
ピアノを弾く手を止めると、ソファーの上に投げ置いた携帯が振動していた。
サブ画面には見覚えのないメールアドレスが表示されている。
メモリダイアルに登録されていないアドレスからのメールらしい。
瀧は慣れた手つきでメールを開いた。
『急にゴメン。中沢隼人です』
件名に載っていたのはその文章だった。
瀧はなぜかドキドキしながらそのメールを開封する。
『渡辺に聞いてもらって小山さんから聞きました。友達伝いに聞いてゴメン。でも番号は聞いてないから、安心して。この前聞きそびれたから。たまにメールしてもいい?』
ビックリした。
まさか中沢君からメールがあるとは思っていなかったから。
瀧はアドレスを登録すると、メールを打ち始めた。
『本当に急だったからビックリしたよ。番号は090-****-****だよ。別に聞いてもよかったのに、真面目だね。メール全然OKだよ。また英語で会話しよ』
すぐに送信する。
まだ信じられなかった。
中沢君が自分を気にかけていたことと、なんでこんなにドキドキしているのか。
すぐに返信があった。
『番号ありがと。俺は090-****-****。俺も英語で話すの楽しかったし。こちらこそよろしく』
『でも彼女いるんでしょ?怒られない?一応女なんだけど』
『彼女いたらコンパ行かないでしょ。それとも彼女がいてもコンパ行くように見える?』
『いや、そういうわけじゃ……』
『そういうことにしておくよ。それよりこれから会えない?』
『ゴメン。この後約束があるんだ』
『そっか。まぁ、急だったしね。因みに男?』
『え?そう。親友』
『…そこに俺居ちゃダメ?』
『ゴメン』
『そか。そういや今忙しかった?』
『そろそろ出ようと思ってた所』
『そっかぁ。じゃあまた送るよ。楽しんで来いよ』
『ありがと。そうするよ。またね』
そこでメールが途切れた。
用意していた荷物を持ち上げて、テーブルには置き手紙を置いておく。
運動靴をひっかけると、気温が僅かに下がって来た空の下を歩き始めた。