12.社交辞令?
「ありがとう」
家まで送ってくれた相手を見て言った。
出された食事は試作のものだと言っていたがとても美味しく、また場にに反して和気藹々としていた。
食後のデザートを食べるとかなり遅い時間になっていて、次の日が土曜日でよかったと思った。
皆で電車の時刻を話していると、当たり前のように、渡辺君達が「家まで送る」と申し出た。
何度か断ったけどどうにも断り切れず、彼等を迎えに来た高級車に一人ずつ乗り込んだ。
「別に、俺は何もしてないし」
「そっかぁ。佐竹さんありがとうございます」
その言葉を素直に受け取り、運転席に座る運転手の佐竹さんに頭を下げる。
佐竹さんの方は苦笑してから「どういたしまして」と言いながらかぶっていた帽子を浮かせて見せた。
「忘れ物とかない?」
「特にないよ。もともと持ち物これだけだし」
中沢君に目を戻すと、持っていた小さい鞄を胸の辺りまで上げて見せた。
普段いつも一緒にいる慎埜達と遊ぶときはまず持たない女物のバックだ。
スカートにはよく似合ったので、引っ張り出してきたのだ。
「そっか。じゃ、気をつけて」
「家の目の前で気をつけるも何もなくない?」
「そういやぁ、そうだな」
二人で目を合わすとクスクスと笑った。
話していて気付いたのだが、中沢君は振る舞いこそ違うが、慎埜によく似ていた。
話しやすいことも、とっつき易い事も、砕けた言葉遣いも。
「じゃ、今日は楽しかったよ」
「私も」
「また今度」
「そだね。また今度。バイバイ」
「あぁ、またな」
玄関をくぐってから後ろを振り返ると、中沢君が車に乗り込む所が見えた。
去っていく車を見送ると、靴を脱いで玄関に上がった。
「――また今度って言ってたけど、連絡とれないじゃん。携帯番号も聞いてないし。社交辞令だったのかな?やっぱり」
この時あまり深く考えはしなかった。
「ただいま」
「おかえりなさい。随分遅かったのね。お風呂早く入っちゃって。最後だから後片付けしてから出て来てよ?おやすみ」
今しがたリビングから出てきた母は、それだけいうとそのまま寝室へと入っていった。
いつものようにそれを見届けると、私も着替えを取りに自分の部屋へと足を運んだ。