11.RESTAURANT
「里奈…私そんなにお金持ってないよ?」
目の前のシャンデリアのぶら下がる天上を見上げながら隣に座る里奈に囁きかける。
リムジンに乗せられて付いたのは、一生入ることなんてないだろうと思っていたレストランだ。
内装も白を基調にしていて落ち着きがあり、食卓と言っていいものかどうか悩むぐらいの広いテーブルには銀の燭台。
惜し気もなく使われた銀や白銀の装飾。
しかも地上150階のワンフロアにあり、夜のネオンが宝石のように煌めくのが見渡せるというそんな所。
高くない訳はない。
生活に困る事等ないが、そんな優雅な暮らしはしていない。
はっきり言って場違いな場所。
呆然と里奈に助けを求めると、事もなげに返事が返って来た。
「心配ないって。全部向こうの奢りだそうだから」
――奢り…?――
「向こうから誘って来た時に、そう言ったんだって」
「……」
言葉が出ないとはこう言うことだろう。
相手が全部奢ると言うのなら、どんなに頼まれても――来なかったのに…。
それじゃあ帰るのは難しいんだから。
里奈達がその辺を気にしているかどうかは別だが…。
「そういえば皆高校2年だよね?」
こちらに現実感がないのを知っていて、それを楽しむかのように、ウェーブのかかった色素の淡い栗色の髪の美男子――確か龍ヶ崎君だっただろう――が言った。
「……」
言葉は出てこず、首を縦に振る原子的なボディランゲージによって意思を伝える。
「じゃあ同い年なわけだ」
「……そうなんですか?」
怖ず怖ずと言う感じで聞いてみる。
ちゃっかり敬語になっていることには気付かない振りをした。
「聞いてない?」
「はい」
「…敬語やめない?」
「………無理かも…」
ちょっと重い沈黙。
しかし次の瞬間それを掻き消す。
5人が顔を見合わせていたかと思うと、突然弾けたように笑い出した。
この場には相応しくないような笑い方、さっきまでとは全然ちがう笑い方だ。
もちろんこっちの方が馴染みのある雰囲気だったが…。
「だから普通の所がいいって……」
笑いながら言うので後半部分は言葉になってない。
急激な変化に女グループは全くついて行けず、ただただ成り行きを見守るしかない。
彼等の爆笑は5分ほど続いたが、その時間で適応して立ち直った人はいなかった。
それでも停止した頭を働かせることには何とか成功し、まだ暴走しそうな頭をどうにか落ち着かせてみる。
「…どういう……?」
まだ笑いの余波が残っているらしい渡辺君はつっかえつっかえ言った。
「ゴメ…ッ。いつもは普通に飲み屋とかいくんだ。今日は織乃の友達って事だからここ予約したんだけど、あんまり気にしないで。ここ龍ヶ崎の親父の直営でさ、食べに来いって言ったのは龍ケ崎の親父の方なんだ」
「なんか新作が色々出来たから、味見も兼ねて食べてもらいたいんだって。だから嫌いなものとかあるかもだけど、一口は食べてみてよ。コックが泣くからさ」
渡辺君の言葉を引き継ぐように、龍ヶ崎君が後に続いた。
「…直営って…」
一言思わずもらしたが、どうやら聞こえてはいないようだ。
「…って事で、敬語。やめてくれないかな?」
どこが『って事』だか今いちわからなかったし、余計次元の違う人だと思ったが、断れる感じでもないので一瞬の逡巡ののちに首を縦に振った。
「そういえば何高だっけ?」
端に座っている哀川君が惚けたように瀧に目配せする。
周りを見るとまだ立ち直ってはないらしい。
必然的に自分が答えなければならない。
「紅明台高校」
「えっ?あの進学校の!?」
「見えない?」
「いや…その…」
そこで口ごもる武藤君を隣にいる中沢君がつついている。
それを見て私は何かが切れたように緊張感が消えていった。
「別にいいよ。よく言われるし」
「そうなの?」
素直に肯定してから聞き返した武藤君を、今度は哀川君がどつく。
「進学校だからそんなに厳しくないんだよね。勉強は出来るわけだし」
「そういうもんなんだ〜」
「じゃどれくらい?成績」
またまた素直に流す武藤君の横で、からかうように笑いながら中沢君は瀧の顔を見た。
正面から見つめられ、さっきとは違う緊張に言葉がでなくなる。
「聞いてもからかいネタにはならないよ〜。瀧の成績は〜」
そんな瀧の横で春絵が笑いながらいった。
その横で佳奈実がもっともだというように頷いている。
「どれくらいなの?」
まだその会話は終わらないらしく、中沢君はまた瀧に向き直った。
「え?え〜と…――」
今度は緊張だけでなくその答える内容も手伝って、余計に先に進めなくなる。
それを助けたのは里奈だった。
「自分じゃ言いにくいんでしょ。なんたって首席だもん」
「――マジ?」
予想通りの答えに半分諦めて返す。
「一応」
「好きな教科は?」
「嫌いな教科ってないんだけど…、一番好きなのは英語――かな」
「隼人と一緒じゃん」
そう言われた瞬間目を向けると、ちょうど目があった。
突然からかうようにウインクされる。
「Can you speak English?」
いきなりの挨拶にビックリしたが、中沢君の意図がわかったので笑いながら答えた。
「It is natural.」
お互いにかなり流暢な英語が流れる。
「By what did it come here today?」
「Well…since it was asked that I want you to come.」
「Did it come in order to arrange the number?」
「All right.」
「Does it repent, if it is it? Is it boring?」
「That is not right, either. By what did you come?」
「It is invited. Since it heard that a delicious thing was eaten.」
「Did it come so far for true ? food?」
「It will become such a thing.」
「It is interesting.」
「Is it interesting?」
「That is right. It is strange.」
「Really? Although he is seldom conscious.」
「2人で盛り上がってる所悪いんだけど、日本語で話せよ」
呆れるようにいった渡辺君の言葉の後に中沢君は一言言った。
「Only for me, it is that English can be spoken in this.」
「They are also us.」
そう返すと二人で笑いあう。
さっきまで感じていた緊張が嘘のように無くなっていた。
そのあとも何度かは英語の会話を楽しんだのは言うまでもない。