10.中沢隼人
「…あっ、あのメンバーだよ。相手――」
キョロキョロと辺りを見回していた里奈が、声を潜めて位置方向を目で合図する。
そちらに目を向けて見ると、話の通りにカッコイイ5人組がこちらへ一直線に歩いて来ていた。
「――!?」
その5人組の顔を一通り眺めていた時、ある一人の人の顔を見た瞬間に、ほかの何も目に入らなくなった。
漆黒の首まである少し長めのサラサラの髪。
友達と話している屈託のない笑顔。
それは瀧のよく知る彼に似ていた。
「右にいる人、神林君に似てない?」
「そうだね〜。そう言われると似てるかも…」
里奈達の会話で我に帰る。
しばらくして向こうもこちらに気付いたらしく、軽く手をあげて挨拶する。
「織乃来られないんだって?」
「ん、何か具合悪いんだって」
「んでこの子?ブリクラには写ってなかったよね?」
「そ。宮崎瀧だよ」
紹介されて軽く頭を下げるが、どうしても慎埜に似た人物が気になってしまう。
「知ってるかもしれないけど、一応皆紹介しておくよ?私が小山里奈で、こっちの背の高いのが林佳奈実。その横が北村春絵。その横が牧野雫。平気?」
「リナちゃんに、カナミちゃんに、ハルエちゃんに、シズクちゃんに、タキちゃんでいい?」
「ん。合ってる」
「んじゃこっちも紹介するよ。右から中沢隼人、武藤哲、哀川広樹、龍ヶ崎堅、で俺渡辺」
「海ちゃんだよな〜?」
名前を言わなかった渡辺君の代りに龍ヶ崎君がからかうように言う。
「違う!海だ!」
間髪もいれずそれを訂正する。
どうやら龍ヶ崎君はムードメーカーとか悪戯っ子とかいう類の人らしい。
「どっちだっていいじゃんか」
「よくねぇよ…!」
どうやら渡辺君は周りにからかわれる対象らしい。
本人がそれに気付いているかどうかは謎だ。
そんな事を思いながらも瀧は右端にいる中沢君を意識していた。
振り向いて貰えないあの人に似ている人。
女として意識してほしい反面、ずっとこのままでいたいと思う人――。
「お〜い瀧?行っちゃうよ?」
はたと気付くと声をかけた千夏以外は人込みの先に行ってしまっている。
「どしたの?もう……帰りたい?」
なんであのメンバーの中にいるのか不思議になるくらい、千夏は大人しめの子だった。
「そういう訳じゃないんだ。ゴメン、追いかけよ!」
千夏は心配そうに落ち込み気味になったと思ったら、すぐに人を癒す感じの笑みを浮かべた。
そんな千夏の手を掴むと人込みに飛び込んで、千夏を引っ張って進む。
――見失ったかな――と思い始めた時、急に千夏を引っ張ってるのとは違う腕を掴まれる。
「離して…!」
状況反射で相手の顔も見ないで言う――が、相手に離す気配はなかった。
キッと相手を睨み上げた瞬間、黒いサラサラの髪が目に映る。
刹那瀧は言おうと思って喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
そこには笑いを堪えているらしい中沢君の姿があった。
「後ろにいないからさ。こっち、来て」
苦笑ともなんともつかない顔を浮かべながらそういうと、そのまま瀧の腕を引っ張っていく。
見失ったのはどうやら車に乗り込んだかららしい。
彼の視線の先にはテレビでしか見たことのない、黒塗りのリムジンがとめてあった。
その横には渡辺君が立っていて、中沢君を見つけると軽く手を上げる。
中沢君がそれを返すと颯爽とそのリムジンに乗り込んだ。
「どうぞ」
車の横につくと中沢君はさりげなくドアを開けて私と千夏を先に乗せた。
気障とかわざととかではなく、あくまでも優雅にさりげなくしたその仕草は、いい所のお坊ちゃんという印象を強く与えた。
最後に車に乗り込むと軽い音をたててドアを閉めた。
車の中は広く、あの場にいた全員が軽々と入り込んでいた。
初めての経験に辺りを見回してみたり、呆然と今の状況に頭が付いていっていなかったりする女グループを、男グループは笑いながら見ていた。