01.いつもどおりの笑顔
もう書き終わってるものなので、早めに完結まで掲載していきます。
空を見上げると雲一つない青天が広がっている。
私は空を見上げて、今日も頑張ろうと心に決めた――。
「おはよ。今日も早いな。朝練があるわけでもないのに」
教室に入ってすぐに、いつも通りの顔で私の顔を見上げて笑いかけてくる人――クラスメイトの神林慎埜だ。
私とは中学からの腐れ縁。
もともと男女変わりなく仲がよかったが、その中でも面白いぐらい気が合ったので、まだその腐れ縁は続いている。
今回の席替えではこいつの後ろの席になっている。
「なんでいるんだ?朝練は?」
自分の席に着きながら後ろを振り返っているその顔を非難するように睨む。
「サボリ」
悪びれもしないこいつは馬鹿なのか大物なのか。
「なんかあった?部活馬鹿のくせに」
自他共に認めるように、慎埜はバスケ馬鹿。
何言ってたって部活だけは絶対に休むことなかったのに。
「別に〜。なんとなくだよ。今日は気が乗らないだけ」
「嘘だね。私に嘘付けると思ってんの?言ってみ?聞いてやるから」
「……ったく。可愛くね〜」
「別に思ってほしくないし」
断言した私をチラッと見ると、観念したように笑みを消した。
私の方を向くのをやめて、私に背を向ける。
時計の音がかなり大音量に聞こえるぐらいの沈黙の後、唐突に独白のように呟いた。
「……んだよな…」
「聞こえない」
「……上手い…んだよ……。今年の一年……」
それだけで慎埜が言いたいことが手に取るようにわかる。
慎埜はバスケの事すごい好きだし上手い。
中には慎埜のことを『天才』なんて言ってる奴もいるぐらいだ。
でも私は慎埜が天才だと思ったことはない。
中学からの付き合いだけど色んな話を聞いてるから。
そして見てるから――。
彼が影ですっごい努力をしてることを私は知ってる。
ただでさえ県大出場は当たり前で、部員数もめちゃくちゃ多いこの学校のバスケ部で、慎埜は1年の時からレギュラーを勝ち取っている。
だからこそ天才なんて言われるんだけど、私は知ってる。
ただでさえ朝練で早いのに、もっと早く起きてランニングしていたり、吐く奴も少なくない練習のあと、一人で黙々と自主練習していること。
私も中学はバスケやってたから付き合わされることもあったし。
高校に入ってからしつこい勧誘を断って帰宅部にしたけど。
「……そっか」
「あぁ…」
その背中を見て『馬鹿だなぁ』とか思いながら、『当たり前か』とか失礼なことを考えても見たりする。
気持ちはどうするかなんて、もうわかってるくせに、悩んだりしてる。
「じゃぁ……、やめる?」
一応促してみる。自分の気持ちにわからせる為に。
「……やめねぇ」
期待通りの返事にもう一度馬鹿とかいいながら、言葉を紡ぐ。
「んじゃガンバレよ。協力はしてやるからさ」
「…そうだな」
「そうだよ。慎埜からバスケとったら何も残らないだろ?」
「…それって実は酷くない?」
「なぁ〜んだ、バレたか」
はははと笑って見ると、つられたように慎埜も笑う。
「よし!朝練行ってくるわ!」
「怒られるのぐらいは覚悟してな」
「だな…!じゃ」
嬉々として体育館に向かうあいつの背中に、「単純馬鹿」と呟いて、私はいつものように勉強を始めた。