冬の奇跡
それはそれは寒い雪の降る日の事でした。
男の子が公園で1人遊んでいました。
男の子が雪兎を作りました。
突然、雪兎が女の子にかわりました。
男の子は凄く驚いたけど女の子と楽しく遊びました。
その日の出来事は自分にとってとても幸せな思い出になりました。
「貴女を見極めに来たわ!」
本庄佐保は玄関を出て固まった。
真っ白な毛糸の帽子に真っ白なコートに真っ白な手袋と編み上げのブーツを履いた女の子が玄関先に仁王立ちしてるのだ。
可愛らしい顔立ちをしており前髪は短めに切り揃えてありフワフワの長い髪をした小柄な女の子が何故このような状況でいるのか混乱してはいけないと言われても無理である。
ただ佐保は最初は固まってしまったが可愛いのに不思議な事を言う子だなぁと思い見つめてしまっている。
彼女はのんびりとした性格なので難しい事はあまり気にしない性格だった。
「お名前は何て言うのかしら?」
にっこりと笑って聞いてくる佐保はに女の子の方が口を開けて呆けた顔をしている。
あたしが宣戦布告したのに全く動じてない…出来るこの人出来るわ!と女の子は叫びたかったがグッと堪えて名前を言った。
「白よ。」
「白ちゃんね?私は佐保、宜しくね。」
白がやや悪態をついて名乗ったにも関わらず佐保はにこにこしながら握手を求めた。
白は毒気を抜かれつつも答える。
「宜しくはしないわよ。」
ぷいっと顔を背ける白は腹が立ちそうだが幼い子の天の邪鬼行動に見えるので可愛らしかった。
「私、学校行かなきゃ。白ちゃん、ばいばい!」
佐保はそう言い玄関から離れて行く。
あまりのマイペースっぷりに白は口をぽかんと開け見送ってしまった。
佐保が帰宅すれば白は玄関にいた。
「もしかして、ずっと玄関にいたの?風邪引いちゃうよ。」
「風邪引くわけないじゃない!冬の精霊が風邪引いたら笑い話よ!」
白の発言にきょとんとしてしまう佐保。
すでに熱が出てるのかと思い白の額に手を当てれば白に物凄い勢いで怒られた。
「冬の精霊だって言ってるでしょ!信じないさいよー!」
騒いでる白に寒いからと佐保は自室に案内する。
ココアを入れてから部屋に戻れば白は部屋の中をうろうろとしていた。
「なかなか綺麗にしてあるじゃない…掃除は出来るようね。」
白は何やらメモ帳を取り出してチェックをしていたようだ。
「白ちゃん、ココアどうぞ。」
佐保が白にコップを渡せば「気まできいて…くっ…非の打ち所がないの?」等とぶつぶつ呟いていた。
その様子を佐保はのんびりとココアを飲みながら見ていた。
「聖は昔から人を見る目があるのよね。」
「ひじり?」
「貴女の彼氏の榛葉聖よ!」
「あら!白ちゃんってば、ひー君と知り合いなら初めから言ってよ。」
佐保の回答に白はずっこけそうになるが今までの佐保を見ていてこれくらいじゃ驚かないぞと意気込んでいた。
白はぽつぽつと自分と聖の出会いを話始めた。
ー聖とはね、聖が幼い時に会ったの。
1人で一生懸命に雪兎作ってそれに話しかけてた。
その頃、私は生まれたばかりで色々な事に興味がありすぎて聖の前に姿を現して一緒に遊んだのよ。
後で物凄く怒られたわ。
そうそう人前に姿を簡単に現しちゃいけないってね。
聖と遊ぶ事が出来たのはその年限りだったけど、毎年冬になれば聖を見守っていたの。
10年くらい見守っていたら聖の側に貴女がいて、とても仲良さそうにしてるじゃない。
凄く羨ましくなって複雑な気持ちになって今年は冬の力が強いから貴女の前に現れて貴女が聖に相応しいか見極めようと思ったの!
白の話を佐保は静かに聞いていた。
「ひー君に会わないの?」
「良いの…ちゃんと会って話したら未練が残っちゃうわ。」
「でも、せっかく私の前に現れてくれたなら会わないと!ひー君連れてくる!」
佐保はコートを着て携帯を持って飛び出す。
またも残された白は呆然としてしまうのと反面佐保が聖を連れてくるのを心待にしてしまう。
家を飛び出した佐保は聖に電話をかける。
何回か呼び出したら聖が電話に出た。
「あ、ひー君。今、時間大丈夫?実はひー君に会って欲しい子がいて…」
トラックのクラクションが鳴り渡る。
携帯の電話に夢中になっていて佐保が飛び出してしまった。
佐保の目の前が真っ暗になる。
真っ暗な中で白が叫んでいた。
「馬鹿っ!貴女ってなんてどうしようもないお馬鹿なの!ちゃんと周りを注意しなさいよ!」
ごめん、その通りだねと佐保は言いたかったが体が上手く動かない。
なんでだろうと疑問に思っていると白が答えてくれた。
「貴女は事故に遭って危険な状態なのよ。」
だから体が上手く動かないんだとのんびり佐保は考えていたら白に更に怒られる。
「私が言ってる事、ちゃんと理解してる?聖が泣いてるの。小さい時も滅多な事で泣かなかったのに…貴女が凄く大事なのね…。」
白は少ししょんぼりとしながら話、何かを強く決心した目で佐保を見た。
「だから、だから私は貴女を助ける事に決めたの。聖と幸せになって。さぁ行きなさい!」
白が佐保に触れると体が軽くなりどんどん浮上していく。
動かなかった佐保の体が動くようになった。
佐保がどんどん浮上しているのに白は下にいる。
「白ちゃん?白ちゃんも一緒にいきましょう!」
「私は一緒にはいけないわ。ほら、早く聖を笑わせてあげて!」
白のその言葉を切っ掛けに佐保の浮上は加速していく。
白ちゃんと佐保が叫んでも白には全く届かないようだ。
「佐保、聖と幸せにね。」
最後に聞こえた白の言葉だ。
佐保が目を覚ますと聖が目の前にいた。
「佐保?気づいたのか?」
目覚めた佐保に泣きながら笑いかける聖に抱き締められ、医者を呼んでくるとその場を離れていった。
佐保がお医者さんから聞いた話だと事故に遭い病院に運ばれたが奇跡的に大きな怪我はなく意識の回復待ちだったそうだ。
それを聞きながら佐保は白が助けてくれたんだと思う。
経過は順調で佐保は直ぐに退院出来た。
退院して暫く経ったある日、佐保は聖と一緒にいた。
何故、自分が助かったのかと白の事を覚えているか聞いた。
「なんで、佐保が白の事知ってるんだ?俺、話したっけ?」
「ううん。事故の前に白ちゃん本人から聞いたんだよ。」
聖は笑いながら白の話を佐保にする。
ー最初はただただ凄く驚いた。
作ってた雪兎がいきなり人になれば誰だって驚くよな?
まぁ、その日は1人で遊んでて寂しかったからさ一緒に遊ぶのが出来て凄く楽しかったなぁ。
でもさ、その話してもだれも信じてくれなくて悔しくなって雪が降る日にはがむしゃらに雪兎作ったもんだよ。
楽しそうに話す聖を見て佐保は微笑む。
「白ちゃん、ずーっとひー君の事見守ってたんだって。私に会いに来たのもひー君に相応しいか見極めるって言ってたもの。」
「マジか?白、佐保に驚いただろうなぁ。」
「よくわかんないけど、度々驚かれた。よくわかったね。」
「まぁね、佐保の彼氏ですから。」
聖の台詞に佐保は顔が赤くなる。
そして2人はハニカミながら笑った。
「幸せになろうね、ひー君!」
佐保は力強く言う。
白が凄く聖を大好きで、その聖と幸せになれってと佐保を助けたのだ。
幸せになれないはずがない、そう思いながら。
月日は流れても雪が降るたびに佐保と聖は雪兎を作る。
いつか白が戻ってきて動き出すんじゃないかって。
2人で幸せに暮らしてるよともうすぐ2人から3人になってますます幸せだと白に伝えられないのを雪兎に伝える。
いつか、また会えるのを信じて。