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観客席からのアンコールの声に応え、役者総出の盛大な歌とダンスが終了すると、舞台には再び緞帳が下ろされ観客席の各所で一斉に明かりが灯された。今夜はそれでラストだったようだ。

肩の上に乗せていたユーリをセリアに向かって放り投げたグラはすっくと立ち上がって、傍らの席につき余韻を噛み締めている妹を見下ろして促した。


「さて、それでは帰るぞエスト」

「まあ、もう帰宅ですの? せっかくの機会ですから、皆様にご挨拶を……」


因みに、またしてもユーリがグラの肩の上に何故乗っていたのかと言うと、隣の席についた兄上様の肩の上にエストお嬢様が当然のように運んだからだ。決して、分を弁えずにまたもやユーリが後先考えない行動に出た訳ではない。

それにしてもこの若君様は、妹のお茶目に全く怒りを示す様子が無い。本当に大物だ。


どうやら一刻も早く家路につきたいらしきグラは、残念がるエストの手を取り再度促す。


「先ほどから、何か嫌な予感がしてならないんだ。

レディ・コンスタンサと顔を合わせた瞬間から、今すぐここから離れるべきではないか、と私の中でしきりに警戒心が……」

「おほほほ。その警戒を促す危険の元凶とは、あたくしの事だなんて仰らないわよね、グラシアノ」


グラの台詞を遮り、突如としてボックス席のドアが開いて女性の笑い声が響き渡った。

パヴォド伯爵家兄妹は反射的にドアの方を振り返り、ユーリもセリアの腕の中で同じようにそちらに視線をやるも、薄暗い室内からでは廊下からの明かりで逆光になってしまい、女性の顔がよく分からない。

ひとまず、両開きのドアをバーンと押し開けたのは揃いの礼服を纏った男性2人で、グラの台詞を遮った女性はその真ん中で優雅に扇子を翻している。美しく結い上げた髪は白銀なのか、シャンデリアに照らされキラキラと輝く。彼女のドレスの裾の向こうの廊下で、呆れた表情を扇で半分隠しつつ、こちらの様子をおっとりと眺めている紫色のドレスを纏った若いレディの姿が見えた。


「……やはり、観劇にいらしていたのですね。レディ・コンスタンサが1人でホワイエに佇んでいらっしゃるなど、ましてやご本人がお好きでもない演目に足を運んでおられて。おかしいとは思ったのです」

「あらイヤだわ。あたくしは姪とお出掛けをするのが好きなのですもの。

先日はコンスの趣味に合わせて、たまたま今宵はあたくしの好みを通させてもらったまでよ」

「ご機嫌麗しゅう、シンティア様。

このような場でお会い出来るだなんて、望外の喜びでございます」


男性陣にドアを押さえさせたまま、優雅にこちらへと一歩足を踏み出した女性の顔が、ようやく窺えた。年の頃は……50代ほどだろうか。しかしメリハリのある声や滑らかな歩き方など、とても若々しい。

襟にレースをあしらった黄金色のドレスが非常に似合っている。

客席から回り込んで彼女の傍らにて優雅に会釈をするエストを見やり、シンティアと呼ばれた貴婦人は扇子を扇ぎながら目許を僅かに緩ませた。


「ご機嫌よう、エステファニア。あなたの兄は本当に仕事人間でね。彼がそばに侍っている日々は、あたくしどんなに窮屈な毎日を過ごしている事か。

あなたに分かるかしら? 本当につまらないったら」

「まあ。それは大変申し訳ありません。兄と父母に代わってわたくしから謝罪致します」

「お言葉ですが、へ……」

「おっと、隊長殿。今夜は皆で『休暇中』なのだからね。滅多な事は口にしないでくれたまえ」


シンティアとエストのやり取りに不満げに口を挟みかけたグラの台詞を、聞き覚えのある声が遮った。

ドアを押さえていた男性の片方、クルクルと栗色の髪がカールしている人物が、どうやらギュゼル氏のようである。年の頃は……20代後半ほどだろうか。


「ギュゼル殿、あなたもあなただ。何故、へ……シンティア様をお諫めもせず、呑気に観劇に付き合っている」

「隊長殿こそ、何を言っているのやら。麗しのマダムとレディのお供を命じられる栄誉を、何故むざむざ投げ打たねばならないと言うんだい?

理解しがたいね」

「……」


ドア脇からずいっと進み出、グラの顔を覗き込みながら、ギュゼル氏は首を左右に振って嘆いている。

ギュゼル氏の返答に、むしろ理解しがたいのはこちらの方だと言わんばかりに眉根を寄せるグラ。


「おほほほ。遊び心のある殿方は嫌いではなくってよ、ギース」

「恐れ入ります、マダム」


淑やかな笑い声を響かせ、レディ……いや、マダム・シンティア? は、パチンと扇子を閉じた。


「今宵、わざわざあたくし自らこちらのボックスへ足を運んだのは、グラシアノ、あなたの渋面を眺める為ではないわ。

エステファニア、あなたの感想を聞くためよ」


マダムはエストへ向かってビシッと扇子を突き付けた。唐突な問いに、やや当惑した表情を浮かべるエスト。


「あたくしはね。

いかに脚色が加えられていようと、実在の人物や出来事が語られる物語には、なにがしかの歴史の真実も含まれていると思っているわ。

あなたは『フレイセ』から、何を感じたのかしら、エステファニア?」

「わたくしは……」


しばし逡巡したように言葉を切り、エストは考えを纏めたらしい。


「女王ロベルティナは、フレイセ姫と一般人である人間を添わせる事によって、大胆な前例を作り上げたのではないか、と。

では何故そのような事実が必要であったのか、種としての先細りの瀬戸際にあったが故の決断であろうと思われます」


演劇の脚本内容は、あくまでもフレイセ姫が主人公のラブコメであったのだが、エストはそんな事を考えながら劇を観ていたらしい。

マダム・シンティアはエストの着眼点に何を感じたのか、扇子を僅かに下げた。


「そう、やはりあなたは面白い子ね、エステファニア。

グラシアノの渋面も鬱陶しいし、帰るわよ、ギース、フィラ、コンス」

「はっ」


本当にエストの感想をただ聞きにきただけだったのか、マダムは優雅にドレスの裾を翻し、ころころと鈴が鳴るような笑い声を響かせながら滑るような足取りでボックスから退出していく。


「ご機嫌よう、シンティア様」

「次に会うのは宴の時ね。楽しみにしていてよ」


マダムの背中に向かって別れの挨拶を告げるエストを振り返らぬまま、マダム・シンティアは眩く照らし出されるホールへと足を進めてゆく。そんな妹とマダムのやり取りに、どっと疲れたという本音に変えて、深々と溜め息を吐き出すグラ。

そして、マダムがボックスから出て行くまでずーっとドアを押さえた姿勢のまま、体勢を崩す事なく沈黙を保っていたフィラと呼ばれた青年は、グラと目が合うと無言のまま目礼し、静かに彼女の後を追った。


「またお会いしましょう、エスト、グラシアノ」

「ええ、近いうちにお邪魔致しますわコンス」

「はははは、今夜も実に楽しい夜だったね隊長殿。

麗しのレディ方に囲まれたこの空間からは去りがたいが、このガスパール・アルトラム・ギュゼル、マダムのお供をするという崇高な使命が!」

「ご託は良いからさっさと行きたまえ」


ギース、と呼ばれている方が恐らくギュゼル氏で、彼はマダムの帰宅号令にきびきびとした返事を返し、後方にて静観していたレディ・コンスタンサの手を取りエスコートしていく。

……推定婚約者のグラの目の前で、よくやる。そして彼女もまた、そうされる事に慣れている様子である。グラはコンスが他の男の手を取る事について、何を感じているのやら特に表情が変わらない。


そうして、賑やかな謎の一団が立ち去ると、ユーリをしっかりと抱きしめたまま硬直していたセリアが、安堵の溜め息を吐き出し肩から力を抜いた。


「シンティア様もお好きだなんて、やはりこの劇はお母様のお勧めなだけあって、話題性の高い作品なのですわね。ねえ、お兄様?」


彼らが立ち去ったドアから視線を兄に転じ、エストは動じた様子もなくにこやかにグラに同意を求める。

グラはしばし沈黙し、言葉少なに「ああ」と頷き話を逸らした。


「さあエスト、帰ろう」


本能が警告を発した危険信号に従い即時避難が間に合わなかったグラは、出発前の珍しく無駄に高かったテンションは今や見る影もなくすっかりダダ下がりしていた。


ぐらぐら様、お疲れ気味ですね~。この方も本当に日々の気苦労が多そうです。

……でもあれ。私もいつの間にかぐらぐら様のストレス要因に含まれていますか、もしかして!?


ふと思い当たった現実に驚愕しているユーリを元通り鞄の中にしまい込み、セリアはパタンと鞄の口を閉じた。



ゆらゆらと、揺りかごのようなゆったりとしたリズムで暗闇の中運ばれながら、ユーリは出発の時と同じように鞄の外の世界に耳を澄ませる。

ざわめく人々と短い別れの挨拶を交わして、パヴォド伯爵家の兄妹は帰宅するべくホール前のロータリーにやって来たようだ。


「お疲れ様でした、若様。

この後はお屋敷でよろしいでしょうか?」

「ああ」


閉幕の時間を見計らい、ロータリー前へ丁度良いタイミングで馬車を横付けしたらしき御者のホセは、相変わらず淡々とした口調で簡単な事後の確認を取っている。軽快に鞄が揺れて、セリアが馬車に乗り込んだようだ。


「あら? なんだか不思議な香りがしますわね」

「本当ですねお嬢様。わたしも初めて嗅ぐ香りです」


エストとセリアはそんな会話を交わし、メイドさんは膝の上に乗せた鞄の口を開け、ユーリを抱き上げてくれた。

確かに、微かにだが何だか甘い香りが漂っている。馬車内を見回しながらユーリも鼻をクンクンと動かすが、たいして広くもない箱型の馬車内で、匂いの元らしき物は見当たらない。


「どうした?」


グラが馬車に乗り込み出入り口のドアが閉められると、行きには無かった匂いが僅かにだが強くはっきりとしだした。しかし、それでもなんの匂いなのかはユーリにも見当がつかない。


「まあセリア。あなたの後ろにドライフラワーの花束が掛かっているわ。綺麗ね」

「ホセさんの気遣いでしょうか。意外とロマンチックな方だったんですね」


エストの指摘に振り返ったセリアは、乾燥した花束を眺めてふわりと微笑む。

ユーリはセリアの腕の中で、これまでの調香師修行の成果と照らし合わせようと懸命に記憶を辿るのだが、やはり思い当たる香料が浮かばない。ドライフラワーが香りの元だとしても、精油か何かを振りかけなければこんなにハッキリとは香らないと思われるのだが……


わ、私、主からあんなに毎日毎日、鼻がおかしくなるほど『高級な香料を嗅ぎ込んで叩き込め』られた筈ですのに……咄嗟に匂いを嗅ぎ分け思い出せないだなんて。やはり調香師の道は長く険しいです、主……


馬車の窓ガラス越しに、ユーリは夜空の星々を見上げて独り言ちた。漆黒の舞台に光の粒は数え切れないほど輝き、その幾つかがユーリのご主人様の笑顔を描き出した。お空のカルロス様は、今夜もやっぱり歯を煌めかせながら親指を立てている。

何故あの方は、元気ハツラツにご健勝でご存命だと言うのに、夜空に浮かぶのがこの上なくお似合いなのだろう。


きっと、中身の残念さに反比例するように無駄に美形だからだ。そう結論付けたユーリが見つめる先の幻のご主人様が浮かぶ夜空を、黒い影がサッと遮り星空を覆い尽くした。

思わず「みゃっ!?」と不満を零すも、馬車は行きとは違って林を回り込む道をひた走っているのか、窓の向こうは人影も無く鬱蒼とした暗がりが広がるばかり。

そう言えば、館から劇場までの道のりはゆっくり走らせてもごく短い乗車時間だったハズなのに、既に往路に費やした倍以上の時間が過ぎている。


ぐらぐら様、わざわざ帰りはこんなところを寄り道するように指示したんでしょうか?


不審に思い、車内を振り返ってみるも、グラやエスト、セリアは馬車が一向に館に到着しない事を全く咎めたりする訳でも疑問に思った様子もなく、馬車の動きにふらりふらりと小さく身体を揺らしつつ、静かに着席したままだ。

グラの膝の上に飛び乗り、見上げてみた貴公子様は……よほど今夜のお出掛けでお疲れになられたのか、言葉も無くぼんやりとユーリを見返してくるのみ。


ユーリは馬車の揺れに、座席から振り落とされないよう気をつけながら、隣に腰掛けているエストの膝の上に移動する。

「みぃみぃ」と鳴きながらエストの腕にすり寄るが……常ならばユーリを撫でてくれるハズであるというのに。彼女もまた、兄と同様どこか意識がはっきりとしないように、反応が薄い。


ことここに至って、ようやくユーリはこれは何らかの異変が起こっているのではないかと思い至った。

慌てて反対側の座席に座るセリアの様子を窺うも、お嬢様の前ではいつも無駄に張り切りきびきびとしたメイドとして勤めている彼女でさえ、膝の上に口を開けた鞄を乗せたまま、半分夢でも見ているかのように薄ぼんやりと座っているだけ。

キチンと鞄の口を閉じて座席の下に置くなりしていそうなものなのに、セリアはそれを膝に乗せたままにして、今にも倒して中身を車内にぶちまけてしまいそうだ。


ユーリは大慌てでエストの手をぺちぺちと肉球で叩き、意識をはっきりとさせようと盛んに鳴き声を上げて呼び掛けた。

同時に、カルロスに向けて懸命に念じる。


主! 主! 聞こえますか、主!?


“ああ、どうしたユーリ。もう劇は終わったのか”


ひたすらエストの手を叩いていると、彼女の瞼がゆっくりとだが、夢から覚めた時のように連続して数回瞬いた。

それと同時に、カルロスから脳内にテレパシーが繋がってくる。

主人はユーリの焦りを含んだ感情に緊急事態だと感じ取ったのか、しもべの意識に同調し、周囲の状況を探りだしたようだ。


主、なんだか皆さんの様子が変なんです。

なんだか、催眠術にでもかかったみたいにぼけーっとして、起きてるのに半分眠ってる、みたいな状態で。


“……この匂いはまさか、誘眠香じゃねーか!?

なんでそんなとこにそんな匂いが湧き出てくんだ!?”


は? ゆーみんこー?

お香ですか?


流石は本職であるカルロス、即座に車内に漂う匂いを判別し、


“ユーリ、今すぐ馬車の窓を開けろ! その匂いは魔物が獲物を狩る時に発する匂いで、しばらく嗅いだ人間は意識が朦朧として、正常な判断力を低下させる効果がある!”


即座にしもべに指示を出した。それに頷いたユーリは、次に訪れるだろう変化に備えて体勢を整えた。


「……ユーリちゃん……?」


だが、必死に呼び掛け続けていたのが効を奏したのか、エストの手が小さく動いてユーリのネコミミを撫でる。

エストの前でのユーリの姿を変化させる事をカルロスは躊躇ってしまったのか、エストがぼんやりとした表情のままユーリを撫でている間も、黒い子ネコ姿のままだ。


主!


ユーリが再度促したその時、馬車は暗い雑木林のただ中で、ゆっくりと停車した。その動きに合わせて、セリアの膝の上で危ういバランスを保っていた鞄が、座席の下に転げ落ちる。

鞄の中身がバラバラと零れ出た挙げ句、重たそうなメイクボックスの角がエストの臑に当たり、彼女は小さく「痛っ」と呟いて周囲を不思議そうに見回した。

ユーリがセリアの鞄の中に隠れていた時にも、なんだかお酒の匂いがしたような気がしたが、もしかすると栓がキチンと締まっていないのだろうか? 誘眠香の不思議な甘さに混じって、キツいアルコールの匂いが鼻をつく。


「みぃみぃ」と鳴き声をあげるユーリを抱き上げたエストは、訝しげな表情で腰を浮かせ……馬車の外からブヒヒン、と、馬の鳴き声が小さく届いたと思うとドアが大きく開かれた。

エストの腕の中で、ユーリは咄嗟にそちらを振り向く。


「あれ、お嬢様。どうして起きていらっしゃる……ああ」


ドアを開き、無表情のまま車内を見回したのは御者を務めていたホセ青年だった。

彼は面倒そうに独り言を漏らし、エストの胸元の辺り……ユーリと目が合うと、納得したように首肯する。


“嘘だろう?

どうしてホセが……”


「ホセ、これは何のつもり?

こんなところへわたくし達を連れ出して、お前の目的はいったい……あっ、何をするの!」


呆然と、信じられないとばかりに心情を吐露するカルロスとは、対照的なエストの強い語調での詰問を無視し、ホセは無造作に手を伸ばすとユーリの胴を鷲掴みにし、令嬢の腕の中から、毛を逆立て警戒心も露わに睨み付けているユーリを強引に奪い取った。


なっ、何を!?


“ユーリ!”


「にゃがにゃが!」と暴れるユーリの胴を、片手で万力の如き握力でしっかりと掴んで離さぬまま、ホセはもう一方の手を腰にやり……スラッと何かを引き抜いた。カンテラの灯りに照らされて、それは闇夜で不気味に光を反射する。


「まったく……あんたらクォンは、どこまでも計画の遂行を邪魔してくれるな。

……いや、この場合は魔法使いカルロスが、か?」


“逃げろユーリ!”


「ユーリちゃんを離しなさい!」


カルロスとエストの叫び声がユーリの胸に木霊する中、ホセは捕らえた黒ネコの必死のもがきなど意にも介さず、手にした細身の刃物を突き立てた。

氷のような冷たさを感じたのはほんの一瞬。次の瞬間には、灼熱の炎のような激痛がユーリの身に襲いかかり、喉からは苦痛の悲鳴が漏れ出ていた。

そして用は済んだとばかりに、ユーリの身は車内へと無造作に放り出される。


「あんな小さな子に何てことを!」

「安心して下さいよ、お嬢様。ちょっと大人しくしてもらうのに、痺れ薬を塗ったダガーで掠めただけです。

あの程度じゃ死にはしません。クォンってやつは厄介ですね。その気になればどこへだって偵察もさせられる。かといって発見しても下手に殺す訳にもいかない」

「何をするのホセ、その手を離しなさい!

お兄様、お兄様! カルロス!」


“エスト、エスト!

くそっ、ユーリ! 動けないのか!?”


ユーリが痛みに意識をおいやられて床の上に転がっている間に、ホセは今度はエストの腕を掴んで強引に馬車から引きずり出そうとしているらしい。

主人の必死の呼び掛けに応え、ユーリは懸命に起き上がろうと四肢に力を込める。しかし、痛みが激しくて視界が真っ白に染まる。


“動けはするんだな?”


カルロスのその確認に『是』の意を返したところで……激しい動悸と激痛に、またしても意識が遠ざかった。



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