カナタより、ヤツきたる。
花溢れる春の便りを謳歌するべく、王都はベルベティー邸の中庭に確保してある花壇用スペースの土を、ユーリは懸命に掘り返していた。
季節は既に冬も終わりに近付いてきているとはいえ、容赦なく吹き付ける風は凍えそうなほど冷たい。
いずれはこの中庭も、見渡す限りに花咲き乱れ百花繚乱と称されるほど埋め尽くしてやりたいものだが、現状、引っ越し直後は冬に突入した事と、日々の忙しさから中庭は殺風景な姿をさらけ出し、丸々手付かずの状態である。
「ふーっ。こんなもんかな」
足が掛けられるでっかいショベルで硬くなっていた地面を掘り返し、シャルに頼んでわざわざ森から運んできてもらった腐葉土を混ぜ合わせ。黒々とした柔らかみのある土となった花壇を見下ろし、ユーリはショベルを傍らの地面にザスッと突き刺し、首に掛けていた手拭いで額の汗を拭った。インドア派にはかなりの重労働であったが、庭師さんを頼む余裕などない暮らしぶりなので、こういった仕事も時間が掛かろうがこなさねばならない。
「何せ、税金がバカ高いらしいもんなあ」
これまでカルロスは、パヴォド伯爵領内にある、かつて魔物が跋扈しだす前には領主一族が人目に煩わされる事なく気軽に狩りを楽しむのを目的として利用されていた森の隠れ家を、宿舎代わりに借りて生活していたのだが。
王都にある、ベアトリスが使っていない屋敷を土地ごと貰い受け所有権を得たので、納税義務が発生したのである。それまでの暮らしではパヴォド伯爵が仕事の報酬から天引きしていたし、魔術師連盟に所属して本部の塔で暮らす分には、代わりに様々な任務をこなしており税金を支払う必要は無い。
「……この納税額は、本当に適正なのか……?」
とは、初めて税金徴収に直面したカルロスが、思わず呟いた台詞である。『年に8レタ』とは、どれぐらいの価値があるのかユーリには今一つ分からなかったが、泡を食って相談したゴンサレス氏によると、貴族街に構える屋敷としては適正金額であるらしい。おまけに使用人を雇い入れるにも税金が発生し、シャルとユーリはペット扱いで被雇用者に含まれていないと知ったカルロスは、「イヌネコ万歳!」と叫んでいた。
大切なエステファニアお嬢様の婿の、そんな姿に危機感を抱いたゴンサレス氏は、自分の右腕とでも言うべき男をベルベティー邸に派遣してきたのである。
夏期の社交シーズンにおいてパヴォド伯爵領城代を務め上げ、ゴンサレス氏だけでなくパヴォド伯爵からの信頼も厚い、口髭をたくわえたナイスミドル、チャルレス・マコーミック。エスト付きの年齢不詳メイド、ラウラの旦那様である。
城代にまで上り詰めた男へ、王都の貴族街に居を構えているとはいえ平民である主人に仕えよとは実質左遷に等しい人事だが、『閣下の計略を実現させるべく奔走する日々に疲れ、老後の有閑生活を求めていた』とは、チャルレス氏本人の談である。
「あたたた、腰が……」
手拭いを元通り首に掛けて、バキバキに強張った身体で伸びをしようとしたら、腰に激痛が走った。間違いなく、普段使わない筋肉を園芸仕事で酷使した事による弊害である。
とんとん、と、腰を軽く叩くように撫でさすっていると、ユーリの背後、離れた場所から「ぶふっ!」という、奇っ怪な音が聞こえてきた。狭い出口から空気を一気に押し出したら、きっとこんな音がするんじゃないだろうか。
謎の音の正体を確かめるべく後ろを振り向いたユーリは、盛大に眉をしかめた。
「ちょっ……しばらく見ない間に、女捨てるどころか老化してるとか……っ!」
いかに門番が立ってはいないとはいえ、ベルベティー邸の中庭へ堂々と不法侵入してきた紅い髪を持つ男は自らの膝をバシバシと叩いて、大笑いしている。
「……二度とそのツラ見せないんじゃなかったの?」
全身から『帰りやがれ』という嫌悪感を滲み出しつつ、ユーリは低く吐き捨てた。
ユーリが受け継いだジェッセニアのキーラ、その前任者である先代サマ……ミチェルこと野々村は、笑いすぎで溢れてきた涙を眦から拭って、ヒラヒラと片手を振った。
「俺も出来れば、アンタと顔合わせんのは勘弁して欲しいけど、どーしても済ませたい用があんだから仕方がない」
「……アンタ、いったいどうやってこの屋敷の場所を知ったのよ?」
王都にあるこのベルベティー邸は、野々村がどこぞへ去った後にカルロスがベアトリスから貰い受けた屋敷だ。
建物には住人と通いの使用人以外侵入不可結界が張られ、ついでに探知遮断まで組み込まれているので、広大な王都の一角、この屋敷こそがそうだと当たりを付けて入念に探査しなくてはカルロスの張った結界は感知出来ず、従ってこの屋敷の所有者がカルロスであると知るすべは無い。
「いや、フッツーに魔術師連盟の正面入り口から足運んで、カルロスさんの所在知ってそーなベアトリスから聞いてきただけだけど?」
どうやら、野々村の危険度を甘く見すぎていそうなハイテンションエルフから、狂人っぽさを隠して上手く言いくるめ、まんまと住所を聞き出したらしい。
「……つーか、さ。俺が顔を出すなり長老達から悲鳴上げられるなり、眉顰められるなら想定範囲内な対応だったんだけど。
人の顔を見るなり、どいつもこいつも『微笑ましいな』って書いてあるみたいな緩んだ表情浮かべて、やたらと柔らかい口調と対応だったのはどういう事?
どうせまた、森崎さんが何かやらかしたんだろ?」
「失敬な」
「いーや。あの反応は絶対にオレについて間違った情報を与えられた奴の反応だ」
多分、野々村を見た連盟の長老方は、『本当はこいつ、小動物なんだよな……』などと思い、それが態度に出ていたに違いない。そして、ユーリのみならず野々村は小動物だという認識を刷り込んだのはユーリではなく、動物大好きご主人様である。
疑わしげな顔で呟く野々村に、警戒心がこれ以上なく高ぶってゆくのを感じつつ身構えるユーリ。
「ユーリさーんっ!」
しかし、彼女が唇を開くよりも早く、背中へと勢い良く何かが激突してきて、ユーリはあえなく花壇予定の掘り返したばかりの柔らかな土に頭からめり込む羽目になった。あの声は聞き間違えようもなく、ユーリの旦那わんこさんのものである。
倒れ込んだユーリをヨソに、先代サマと同僚は互いの存在を認識しあった。
「うわっ!? こっちの世界のイヌって、羽根生えてて空飛んでたっけ?」
「おや、嗅ぎ覚えのある匂いがすると思えば、思い出しましたよ。あなたはミチェルですね?」
「……このやり取り、めっちゃくちゃ既視感覚えるんだけど。
まさか、その姿もシャルなのか!?」
「そうですけど? 何を驚いているのだかは知りませんが、それよりもユーリさんが砂まみれです。
ミチェル、またうちのユーリさんに嫌がらせをしましたね?」
「つぶらな瞳でもっともらしく、人に罪擦り付けんな!?」
空中を全速力で飛んできてユーリと激突したチビわんこ姿の同僚は、ぽてぽてとユーリの背中から転がり落ちて再び舞い上がり、ユーリがもぞもぞと花壇から這い出ている横で、シャルとミチェルは旧交を温めている。本当に、シャルとミチェルは何故にああも気が合うのか。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
パンパンと服の裾の土を払い落としつつ立ち上がったユーリの眼前に回り込んだシャルは、小首を傾げて問うてくる。無駄にらぶりーである。言動は大人バージョンの時と寸分違わぬマイペースっぷりであるというのに、子イヌ姿でただそこに存在するだけで盛大に振り撒かれる愛嬌、胸を激しく打つ……堪らない衝動。
「ええ、私は全然大丈夫ですよ、シャルさん。野々村の傍若無人さは、こちらが受け流してやりませんと」
「流石はユーリさん」
「……ちょっと森崎さん。オレが砂まみれにした、みたいな流れにすんの止めてくんない?」
優先順位が低い野々村のボヤキは身体の向きごと視線を外してスルーし、伸ばした両腕に収まり羽根をパタパタ羽ばたかせるシャルの頭を撫でてやる。
「シャルさん、いつお帰りに?」
「たった今ですよ。塀を飛び越えたら屋敷から住人以外の気配がユーリさんの匂いと一緒に漂ってきたので、ユーリさんに何かあっては一大事と、大急ぎで駆け付けてきたのです」
「……で、その要救助者を救助者なシャルが突き飛ばして、砂まみれな現在に至る、と」
昼前からお使いに出ていたシャルの言い分を聞き、ユーリの中で責任の所在が明らかとなり深く頷いた。
「なるほど、それはやっぱり全て野々村が悪いですね!」
「何でだよ!?」
「来訪を知らせず不法侵入。番犬は自らの職務を忠実に遂行。
ほらやっぱり、野々村が諸悪の根元です」
「そうですね」
「……」
可愛いは正義なのである。
子イヌ姿を見ていると、シャルは正しいのだと問答無用で迎合させられてしまう感覚に、ボケわんこさんの性格が形成されてきた要因が見えてきたような気もするが、無垢な眼差しでこちらを一心に見上げ、尻尾をふりふりしている子イヌを眺めていると、全てがどうでもよくなってくる。
「ユーリ、騒がしいようだがシャルが帰ってきたのか?」
ふぁ~あ、と、欠伸をしながら窓から顔を出したカルロスは、中庭の様子を一瞥するなり「げっ」と、表情をしかめた。
「やあ、カルロスさん。
そろそろ生活も落ち着いた頃かと思って、約束通り来たよ」
「俺は了承した覚えはねえんだがな……」
すちゃっと片手を挙げた野々村の言葉に、カルロスは不満げに溜め息を吐く。
「つーか、まだ生活はちっとも落ち着いてねーから、帰れ」
「うわっ、はるばる訪ねてきた仲人に、なんちゅー言い種!」
「うぐ……」
「そーか、カルロスさんがそのつもりなら、これからパヴォド伯爵領にひとっ飛びして、伯爵にグチグチ言っちゃおうかなー」
まだ引っ越しが完了したとは言い難く、急ぎの依頼が入ったせいで夜から朝までずっと調香していて寝不足気味なカルロスは、不機嫌そうに門前払いを食らわそうとしたのだが、敵は厚かましい上に恩着せがましい。
「……ドウゾ、玄関からお入りクダサイ」
「はーい。お邪魔しまーす」
カルロスはギリギリと歯軋りをしつつ、野々村はハナから案内など求めていないのか嬉々として玄関先に回って行った。
住人以外侵入不可結界は、住人の招きに応じて客人を受け入れる柔軟性を持ち合わせているのである。
「主……」
「あの野郎個人は気に食わん奴だが、アイツの助力そのものは相殺される訳じゃねえからな……残念な事に」
ユーリの恨みがましい眼差しに、ご主人様は深い溜め息を吐き出した。
どうせ、招かれざる客はいがみ合う定めの野々村である。
ユーリがもてなす支度などしようものなら、奴に出す予定の茶のカップを濡れた雑巾で入念に拭ってやる……! という怨念じみた狙いを知ってか知らずか、単に頭から砂まみれだからか、厨房出入り禁止を言い渡されたのを良いことに、ユーリは風呂場に向かって汗と砂土を洗い流していた。
ベルベティー邸の素晴らしい点の一つは、風呂場が広い事である。
朝方、カルロスが調香の後に使ってしばらく時間が経った後でも、まだ温かい温度を保っている湯船にのんびりつかっている間に、ストレス発生源が立ち去ってくれないかなー。と、いつもより長風呂を楽しむユーリの脳裏に、ご主人様からのテレパシーが飛んできた。
“ユーリ、風呂から上がったら応接間に来てくれ。
先代サマの用件は、どうやらお前にも無関係な事じゃないらしい”
……実に面倒なのでバックレたい、と即座に返したユーリのテレパシーは、ご主人様から無言のままに却下された。
「森崎さん、里帰りしよう」
風呂から上がって、渋々応接間に姿を現したユーリに、ソファーに悠々と腰掛けていた先代サマは開口一番にそうのたまってきた。
いったいどういう事であろうかと、無言のままカルロスへ視線を向けると、野々村の向かいに腰かけていたご主人様は手凭れに片肘を突き、だらしなく体勢を崩したまま口を開く。
「つまりだな。
ミチェルには一時的にチキュウに帰って片付けたい用があるが、ミチェル独りじゃ異世界間を瞬間移動で往復出来ん。
チキュウに次元の穴を空けられる術者は、今のところユーリと契約してる俺1人だから、俺しかミチェルをチキュウへ送り迎えしてやれん訳だ」
何となく、ユーリにも野々村がカルロスに拘る理由の一端が垣間見えた。ヤツにとって、かのご主人様は相当重要人物の要因を備えたお方なようである。
もしかしたら、広いマレンジス大陸中をしらみ潰しに探せば地球の生物と契約を交わした魔法使いはカルロス以外にも居るのかもしれないが、果たして居るのか居ないのか分からないような魔法使いを探そうとするより、カルロスを頼った方が確実だ。
「それでどうして、私もまとめて里帰りなんて話が出るんです?」
チロリと野々村を睨め付け、理解不能な点を問うと、先代サマはズズーッとお茶を啜ってから答えた。
「オレ、いっぺんちゃんと墓参りしたいんだよね。母さんの」
ひとまず、手ぶらかつ着の身着のままで地球に向かうのもあっちで困るだろうと、ユーリは地球から着てきた青いミニスカートに半袖の白いブラウス、久々にバイト先の制服である薄桃色のエプロンを纏った。
今後使う予定も無いので解約するべくケータイ、あちらの通貨が必要であろうしお財布、そしてロッカーの鍵をエプロンのポケットにしまう。
「うーん、この服にはあちこち焼け焦げ跡が付いてたはずですが、流石はシャルさん熟練主夫ですね……!」
せっかく衣服があるのにずっとしまい込んでいるのももったいないからと、あちこちの焼け焦げ跡を目立たないように、また着られるように、暇を見てチクチクと針仕事をしてくれていたシャル。
当て布やらレースやフリル増加等の技術の粋を尽くし、日本の街中を普通に歩ける仕上がりになっている私服の華麗な繕いに、ユーリは旦那わんこの腕前に唸った。はっきり言って、ユーリよりも家事炊事全般の腕前はシャルの方が圧倒的に上だ。
「どうですか、ユーリさん。
やはり、修繕しておいて良かったでしょう。ユーリさんの故郷はこちらとは服飾文化に隔たりがあるようですからね」
ユーリとシャルの私室にて、久々に人間バージョンとなったシャルが日本で着用していても無難そうだとチョイスした服に着替え終え、ユーリの独り言を聞きつけふんぞり返った。
……チビ姿だと手放しで同意していたに違いないのだが、こちらの青年姿だと反発心が湧き上がってくるのは何故なのか。
恐らく、ユーリの同意や了解も得ずに腰を抱き寄せ、流れるような自然な動作でうなじに唇を這わせてきたからだ。
グイーッとシャルの頭頂部を両手で押しのけ、ついでに片足をゲシッとわんこさんの腹に入れて距離を取る。
「ユーリさんのスキンシップは乱暴ですねぇ」
「舐めるのが当たり前なわんこさんこそ、ある意味乱暴だと思います」
「わたしにはこれが当たり前なので、早く慣れて欲しいものです」
放せ放せとジタバタもがくユーリを解放したシャルは、これみよがしに嘆息した。
わんこさんとの認識のズレによる妥協点の探り合いのタネは、ふとした拍子に後から後から出現する。
地球に向かうべくシャルもまた身支度を調えているのは、魔術師連盟の感知しきれぬ地へ、ユーリが単独で帰郷する事に過保護連中が難色を示したからである。
野々村が同行するのは不安要素でしかないし、かといって彼らはおいそれと異世界へ足を踏み出す勇気は持ち得ないだろう。送り出された次の瞬間には、身体の内側から弾け飛ぶかもしれないのだから。
地球側から魔法使いが正しい手順を踏み、魔術師連盟の人員を召喚して外殻膜保護能力を付与すれば問題は無いのだろうが、吸収目的ではないので同一の魂に拘る必要が無く、容易に実行可能な手段として有効な策であろうとも、それが実現可能な人材は現状、野々村ただ1人である。
ユーリの里帰り対策会議の場で『じゃあ、ミチェルに依頼しようか』という声が一言たりとも上がらなかった辺り、ヤツへの信頼度の質が知れるというものだ。
ベルベティー邸の大規模魔法陣は、広々とした玄関ホールに敷かれた絨毯に描かれている。
ユーリには全く違いが分からないのだが、カルロス曰く森の家の魔法陣よりも高性能らしい。しかし、好きな場所に移動させられる絨毯であるにも関わらず調香部屋ではなく玄関ホールに敷かれたままであるのは、絨毯そのものがデカ過ぎて室内に入りきらないからである。デカくて重い絨毯を苦労して調香部屋に運び入れ、いざ敷こうとして魔法陣部分が水平にならず歪むのを確認したカルロスは、ガックリと膝をついてうちひしがれていた。
魔法陣とは、デカさと性能が正比例するものらしい。
「さて、それじゃあチキュウに送るぞ。お前ら、忘れ物は無いな?」
出立に備え、魔法陣の中央に佇む、ユーリ、シャル、野々村を順繰りに見やり、カルロスは両腕を組んで最終確認をしてきた。
「行ってらっしゃい、ユーリちゃん。気をつけてね」
「お土産は珍しい香辛料や布地が良いわ」
「いやいや、やはり酒だろう。珍しい酒をお願いしたい」
召喚術には時間軸をいじる機能も備わっているので、マレンジス側からはユーリ達が地球へ転移してすぐに再召喚されるはずなので、お見送りは不要だと思われるのだが、ベルベティー邸女主人のエスト、メイド頭のラウラ、バトラーのチャルレスから笑顔で声を掛けられる。
「あー、そこのマコーミック夫妻。
残念ながら、異世界から食べ物の類いを持ち込むのは御法度だ。見た目普通に見えて異世界の一般的食材でも、こっちの世界じゃ猛毒って可能性は常にある」
「なんだい、異世界ってのはケチなもんだね」
「まったくだ」
「あんたらなあ……」
ちゃっかり土産リクエストを寄越してきたラウラとチャルレスに、カルロスはぐりっと首だけ振り向いて釘を刺した。残念がる夫妻の姿に呆れるカルロス、しかしユーリは背筋に冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。
……主がすぐにダメ出しをしなかったら、バカ正直に食べ物や飲み物を土産に持ち帰るところでした……!
ユーリは外殻膜保護があるので、毒など気にせず普段からバーデュロイの食物を気軽に摂取している、という事実をうっかり失念しがちになる。
諸々の注意事項や方針……マレンジスに戻る時はユーリを通してカルロスに異世界間の穴を空けてもらうが、基本的に地球では野々村は別行動を取る……を確認し、カルロスが魔法陣の前で詠唱を始めた。
いつかは帰ろうとは思っていた。あの地へ、もう一度。