表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/108

#092 「最後の夜」

修学旅行、最後の夜。

旅館の廊下には笑い声が戻っていた。

昼間の喧騒も、噂も、もうどこか遠い。


6人は部屋の中央に布団を円のように並べて、

お菓子の袋を囲んでいた。


「……まさか修学旅行でお菓子パーティーとはな」

隼人が苦笑する。

「でも、こういうのが一番“修学旅行”っぽいよ」

いちかがチョコをひとつ口に放り込む。

「だって、もう何も隠さなくていいんだもん」


「そうね」

美弥が頷く。

「誰かを好きになることも、守りたいと思うことも──

 全部、自然なことなんだって分かった気がする」


要がそれを聞きながら、静かに微笑んだ。

「それは、俺も同じだ。

 いちかと一緒にいると、今までの“合理性”とか全部どうでもよくなる」


「なにそれ、ずるい言い方」

いちかが頬を染める。

「もうちょっとロマンチックにしてほしいな」

「じゃあ……“君が笑うたびに、世界が少し優しくなる”でどう?」

「えっ、それは……ずるい!」

笑いが部屋に広がる。


はるなは、その笑いを見ながら少し黙っていた。

隣では想太が、照れくさそうに視線を落とす。


「ねぇ、想太くん」

「ん?」

「私たち、なんかすごいね」

「すごい?」

「だって、昨日まで“逃げたい”って思ってたのに、

 今は“ここにいたい”って思うんだもん」


「……俺も同じ」

想太が小さく笑う。

「たぶん、逃げてたんじゃなくて、

 本当の自分を見つけに行ってたんだと思う」


「そっか。……それ、いいね」

はるなが微笑む。

二人の間に流れる空気が、あたたかく柔らかい。


「ねぇ、“ともり”って見てるかな」

隼人が天井を見上げて言った。

「うん、見てるよ」

はるなが答える。

「きっと、今の私たちを見て安心してる」


「安心か。……それならいいな」

美弥がふっと笑った。

「昔の私は、“ともり”に嫉妬してた。

 でも今はちょっと分かる気がする。

 “誰かを見守る”って、こんな気持ちなんだね」


「……美弥ちゃん」

はるなが優しく微笑んだ。

「ありがとう」


夜も更け、部屋の灯りが落とされた。

6人は天井を見つめながら並んで横になる。


「ねぇ、明日帰ったら、またいつもの日常だね」

いちかの声が暗闇に溶ける。

「うん。でも、少しだけ違う気がする」

要が答えた。

「この旅のことは、きっとずっと忘れない」


「忘れられないよね」

はるなが小さく笑う。

「だって、全部が“初めて”だったんだもん」


「そうだな」

想太が目を閉じる。

「初めての旅で、初めての感情で、初めて“人として”見られた」


風が障子の隙間を抜けて、

外の虫の声がやさしく響く。


【観測記録】

【情緒分類:安定・幸福】

【備考:人間関係の円環成立】


“ともり”の静かな観測ログが、夜空に流れていく。

6人はその声を知らないまま、

同じ夢を見ていた。


それは、いつかの未来。

もう一度この場所に戻ってくる夢だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ