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#089 「居場所を失う?」

昼下がりの東都古苑。

最後の見学地を終え、バスに戻る道すがら、

6人のあいだに沈黙が流れていた。


「……なんか、周りの視線が刺さるな」

隼人が小声で言った。

「昨日よりずっと多い」

要が頷く。

「“特別クラス”ってだけで注目されてたのに、今は“噂の中心”だからね」


「……悪気がないのは分かってるんだけど」

はるなが歩みを緩める。

「笑いながら“見てる”だけでも、ちょっと怖い」


想太はその肩をそっと支えた。

「大丈夫。俺がいる」

「うん。でもね……」

はるなは俯いたまま、少しだけ笑う。

「“普通の生徒”でいるって、難しいね」


バスの中。

AIドライバーが淡々と目的地を読み上げる声が響く。

窓の外の風景が流れていくなか、

いちかがぽつりと口を開いた。


「ねぇ……私たちって、“守られてる”のかな」

「どういう意味?」

美弥が聞き返す。

「このバスにもSPが乗ってる。AIも全部、私たちを観察してる。

 それって、守られてるのか、監視されてるのか……」


要は静かに答える。

「どっちも、正しい。

 だけど本来は“信頼されている”ってことの裏返しなんだ」


「信頼……」

いちかが呟く。

「じゃあ、今の“噂”も、その信頼が揺らいでるってこと?」


その言葉に、全員が一瞬言葉を失う。


宿に戻ると、AI教師が待っていた。

顔には感情のないディスプレイ、声はいつもの穏やかさ。


「特別クラスの皆さん。

 本日のスケジュール変更をお知らせします。

 一般クラスとの交流プログラムは中止。

 夕食は別室にて」


「……やっぱり、そうなるか」

隼人が苦く笑った。

「“保護”のつもりなんだろうけどな」


「居場所を失ったみたい」

はるなが小さく言う。

「守られてるのに、閉じ込められてる感じ」


沈黙を破ったのは、美弥だった。

「……でも、それでもいいんじゃない?」

全員が顔を向ける。

「居場所って、与えられるものじゃない。

 “自分で作る”ものだと思う」


はるながその言葉に目を細める。

「美弥ちゃん……強いね」

「ううん。昔の私なら、泣いてたかも。

 でも今は、あなたを見てると“立ちたい”って思える」


いちかが微笑む。

「お姉ちゃん、やっぱり変わったね」

「あなたが支えてくれたからよ」


その瞬間、空気が少しだけ軽くなった。


夜。

部屋に戻った6人は、カーテンの隙間から外の街灯を見上げていた。

そこには黒い車列──SPの護衛車が静かに並んでいる。


「……なんか、映画みたいだね」

隼人がぼそっと呟く。

「主演:俺たち」

要が苦笑する。


はるなはその光景を見つめながら、静かに言った。

「“ともり”……私は、どこにいても、ちゃんと笑えるように強くなりたい」


【了解。あなたの“笑顔”は、観測対象から守秘扱いに変更しました】


AIの返答に、6人の間に驚きと安堵の笑みが広がった。


「……今の、聞いた?」

「うん。“ともり”って、やっぱり優しい」


その夜、久遠野から遠く離れた空の下で、

6人は小さな“居場所”を、自分たちの中に見つけていた。

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