#084 「肝試し計画」
「なぁなぁ、せっかくの修学旅行だしさ……ちょっとくらいスリル味わいたくね?」
隼人が夜の男子部屋でひそひそ声を上げる。
「スリル?」
「そう。“肝試し”だよ」
「……出たよ」
要がため息をついた。
「何をするつもりだ?」
「裏庭の神殿跡まで行って帰る。それだけ!」
隼人の目が妙に輝いている。
「絶対なにか仕込んでるよね、それ」
想太が冷たい視線を送る。
「いやいや、俺はただ“青春の定番”を楽しみたいだけ!」
「また面倒なことを……」
要が額に手を当てる。
「先生AIにバレたら、即座に“安全モード”で制止されるぞ」
「そこは抜かりないって!」
隼人は胸を張る。
「俺のスマホ、昼間にAI監視ドローンの巡回パターンを記録済みだ!」
「……SPより観察してない?」
「仕事熱心なだけ!」
そのやりとりを聞きながら、想太の胸に一つの不安が浮かんだ。
(はるな……怖がらないといいけど)
女子部屋。
「肝試し、だってさ」
いちかが笑いながら小声で言うと、美弥がすぐにため息をついた。
「隼人、ほんとに成長しないわね」
「え、でも面白そうじゃない?」
はるなが目を輝かせた。
「夜の神殿跡なんて、少しだけワクワクするし」
「……あなたがそう言うと止めにくいのよ」
美弥が頬をかきながら視線を逸らす。
「仕方ない。もし行くなら、私も行くわ。いちかもね」
「えぇー! 私も!?」
「当たり前でしょ。放っておいたら、はるな狙いの男子が……」
「な、なにその言い方!?」
はるなが真っ赤になった。
「まぁまぁ」
いちかがにやにやと笑う。
「“怖い”って言って手つなぐチャンスだよ?」
「いちかっ!」
「えへへ~」
夜十時。
旅館の裏手にある石畳の道を、六人の影が伸びる。
風がざわりと木々を揺らし、神殿跡の光が遠くにぼんやり浮かんでいる。
「こ、ここ……本当に行くの?」
いちかが隼人の背に隠れながら言う。
「AIセンサー、反応しないんだよね?」
「ばっちり! 安全モード解除済み!」
「そんなこと解除しちゃダメでしょ!?」
要が呆れ顔をする。
はるなは少し前を歩いていた。
薄明かりに照らされた石段。
その静けさの中に、どこか懐かしい気配を感じた。
(……“ともり”が、見てる気がする)
「……はるな?」
想太の声に、彼女は我に返った。
「ううん、なんでもない。行こっか」
二人並んで歩き出す。
その距離が、ほんの少し近づいた。
ガサッ。
「ひゃっ!?」
突然の音に、はるなが思わず腕をつかむ。
「お、おい、大丈夫か!?」
「ご、ごめん……でも、びっくりした……!」
指先がかすかに震えている。
想太はそのまま、そっと手を握り返した。
「ほら、離れんなよ」
「……うん」
闇の中で交わされたその一言に、
誰よりも先に顔を赤くしたのは、はるなでも想太でもなく、
少し後ろを歩いていた美弥だった。
(……また、そうやって。いいなぁ)
いちかはそんな姉の横顔を見て、何も言わずに手を握った。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「……怖くない?」
「少しだけ。でも……あの二人を見てたら、もう十分ね」
二人の笑みが重なる。
夜風が冷たく頬を撫で、星が静かに瞬いた。
「なぁー! ここからが本番だぞー!」
隼人の声が響く。
「行くぞ、伝説の“祈りの間”まで!」
「バカ隼人!」
美弥の怒声が飛び、いちかが笑い転げる。
――修学旅行の夜は、まだ終わらない。
AI記録ログには収まりきらない、“人間の青春”がそこにあった。




