#082 「土産物屋の騒動」
午後の古苑は、昼下がりの柔らかな光に包まれていた。
観光路の両脇には土産物屋がずらりと並び、AI人形たちが声を張り上げる。
「おみやげいかがですか~? 本日限定の“再現まんじゅう”です!」
「歴史的価値ゼロ! でも味は満点です!」
「AIが自虐してる……」
隼人が笑いながら呟く。
「この街、自由すぎない?」
「プログラムに“ユーモア”があるのよ」
美弥が肩をすくめる。
「たぶん、観光促進データを学習した結果ね」
「お姉ちゃん詳しいねー」
いちかが興味深そうに覗き込むと、
「まぁね。観光AIの開発データも昔ちょっと見たことあるの」
そう言って微笑んだ。
はるなは、その少し後ろを歩いていた。
手には小さな袋。さっき試食した“再現まんじゅう”をこっそり買っていた。
(想太くん、甘いの好きだって言ってたし……)
心の中でそんなことを思いながら、さりげなく近づく。
しかしその瞬間――
「おっ、はるな!」
想太が振り返り、思わずぶつかりそうになった。
「わっ! ちょ、ちょっと……!」
「ご、ごめん!」
二人は反射的に距離を取る。
袋がふわりと宙を舞い、まんじゅうが地面に転がった。
「きゃー! 貴重な“限定再現まんじゅう”がぁぁぁ!」
AI店員が涙目のような顔文字を浮かべている。
「うう……ごめんなさい!」
はるなが慌てて拾おうとすると、想太もしゃがみ込んだ。
二人の手が、同じ包み紙の上でぴたりと重なる。
一瞬、時が止まる。
「……あ」
「……えっと」
頬を染めたまま固まる二人を見て、いちかがニヤリと笑った。
「でた、恋愛ドラマあるある。」
「カメラ、カメラ~」
隼人がスマホを構えるフリをして、美弥に軽くどつかれた。
「やめなさい。AI監視カメラがあるのよ?」
「バレたら公式記録に残るな……!」
「うわ、それはそれで恥ずかしい……!」
はるなが真っ赤になって立ち上がる。
「もう! みんな意地悪!」
AI店員が差し出した新しい袋を受け取りながら、
「……ありがと。これは、えっと……代わりに、あげる」
と、想太にそっと差し出した。
「え、俺に?」
「う、うん。だって……落としたの、私だから」
「いや、でも……」
言いかけた想太の言葉を、はるなが遮る。
「いいの! 次は……落とさないでね」
その言い方が妙に優しくて、想太はしばし言葉を失った。
いちかが小声でつぶやく。
「はるなさん、絶対わざとですよね……」
美弥が静かに笑った。
「かもね。でも、そういうのって可愛いじゃない」
通りの奥で、風鈴が小さく鳴る。
古苑の街に響くその音が、6人の笑い声と混ざり合っていた。
そしてその瞬間、
遠くの屋根の上で、監視用SPドローンが小さく翼を傾けた。
“守るための観測”が続く中、彼らの青春がそっと記録されていく。
――笑って、照れて、また笑って。
それが、久遠野から来た6人の“今”だった。




