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#081 「古苑の風景」

東都古苑――

久遠野市からおよそ二百キロ離れた、“記録の都”。

古い瓦屋根と新型ドローンが同じ空を飛び交い、

時代が層をなすように存在していた。


「うわぁ……本当に“昔の町”みたい」

はるなが感嘆の声を上げる。

「でも建物の角、全部光ってる……これ、ホログラム補強?」


「そうだな」

要が観光案内端末を見ながら答える。

「AIが再現してる“修復投影”。崩れた部分を自動的に補うらしい」


「なんか……すごいけど、ちょっと不思議な感じ」

いちかが小声でつぶやく。

「本物でもあり、偽物でもあるっていうか」


「うん。でもこうやって形を残せるのは、AIがいたからだよ」

はるなの言葉に、美弥は少しだけ微笑んだ。

「そうね。人間だけじゃ、きっとここまでは残せなかった」


彼女たちの後ろを、観光客AIの群れがすり抜けていく。

着物姿のホログラム案内人が、修学旅行生たちに笑顔で手を振った。

「東都古苑へようこそ。本日の歴史体験プランはこちらです」


「体験プラン、か。……要、どうする?」

隼人が問うと、要はタブレットを操作して言った。

「“千年前の祈り”コース、だって。神殿跡と記録ホールを巡るらしい」


「お、なんかロマンチック」

いちかが目を輝かせる。

「ねぇ、はるな、それ行こうよ!」


「え、いいけど……なんでそんなにテンション高いの?」

「だって、修学旅行っぽいじゃん!」


楽しげな会話が続く中、想太は少し離れた場所から街並みを眺めていた。

瓦屋根の向こう、透明な壁面ディスプレイに映るのは、

「この都市を再生したAIたちの記録」――。


かつて戦災で失われた文化を、AIが再構築し、

“記憶”として保存した映像群。

静かに流れるその光景に、胸の奥が少し熱くなる。


(ともりも、こんなふうに“記録”を見守ってるのかな……)


ふと隣に立ったはるなが、同じ方向を見上げて言った。

「ねぇ、想太くん。私ね、思うんだ。

 こうして“昔の人たち”の跡を見てると、

 なんだか“今の私たち”も記録されてる気がするの」


想太は驚いて振り向く。

「……どういう意味?」


「ほら、こうして笑ってることも、泣いたことも。

 AIは全部どこかに残してくれてる。

 それって、ちょっと恥ずかしいけど……うれしいことかも」


その言葉に、想太は小さく笑った。

「……そうだな。ともりなら、ちゃんと覚えててくれる気がする」


二人の間に流れる空気が、ほんの少しだけ静まった。

周囲の賑わいの中で、その沈黙だけがやけに柔らかかった。


「ほらほら~、ラブラブ語りしてる場合じゃないよ!」

いちかの声が飛び、二人は同時に顔を赤くする。


「違っ……! そういうのじゃ!」

「……まぁ、否定しても無駄だな」

隼人のぼそっとしたツッコミに、美弥が吹き出した。


――古苑の街並みに響く笑い声。

それは、失われた時代を超えて、新しい記録として刻まれていく。

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