#008 「いちか、大注目」
教室に朝の光が差し込む。
いちかは机の上に小さなお菓子の袋を置いた。
「昨日もらったの、一人で食べきれなくて……」
にこにこと微笑みながら、みんなに差し出す。
「え、いいの?」
想太が手を伸ばそうとした瞬間。
「はい、あーん!」
いちかがスプーンを差し出した。
「ちょ、ちょっと待って!?」
想太は真っ赤になり、慌てて手を振る。
その瞬間、廊下から女子たちの悲鳴が響いた。
「キャーーーー!!」
「やっぱり天使!」「尊い!」「奇跡の瞬間だ!」
扉越しに叫び声が飛び込んでくる。
「……これは完全に新派閥誕生だな」
隼人が頭を抱える。
「“お子様好き派”、増殖中」
要が冷静に分析した。
「だから分析禁止だって!」
想太が必死にツッコミを入れる。
いちか本人はきょとんと首を傾げる。
「え? みんな、なんでそんな顔してるの?」
「……その無邪気さが原因だよ!」
はるなが思わず叫んだ。
昼休み。
いちかが廊下に出ると、すぐに生徒たちに囲まれた。
「いちかちゃーん!」
「サインして!」「写真撮って!」
「え?え? 私、有名人なの?」
いちかはおどおどしながらも、笑顔で手を振る。
「こりゃダメだ、止められねぇ!」
SP新人が青ざめる。
その横で、要がさりげなくいちかの腕を取った。
「行くぞ」
短い言葉で群衆をかき分ける。
「わっ……ありがと、要くん!」
いちかは嬉しそうに笑った。
「自然体で守ってる……」「これが本物のSP……」
周囲からため息混じりの声が上がる。
「おい!俺らSPの立場がないっす!」
新人SPが頭を抱える。
「……要くん最強」
「二人で並んでるの、絵になる!」
ファンクラブの一部が「要×いちか」推しに転向し始めた。
「いやいやいや!勝手にカップリング作らないでー!」
想太が必死に叫ぶが、誰も聞いていない。
「……やっぱり二年目もカオスだね」
美弥がため息をつき、教室は爆笑に包まれた。




