#079 「出発の日」
朝の駅前は、早朝とは思えないほど賑わっていた。
制服姿の生徒たちが笑い声を上げ、バスのエンジン音が響く。
カメラを持つ教師、忘れ物を取りに走る生徒──まさに修学旅行の混沌だった。
「おーい、こっちこっち!」
想太が手を振ると、はるなが駆け寄ってきた。
「おはよう、想太くん。なんか……人が多すぎて落ち着かないね」
「そりゃあ、全学年合同だからな」
隼人が荷物を肩にかけて笑う。
「でも、これだけいてもさ、結局あいつらが目立つんだよな」
視線の先には、すでに人垣を作っている女子グループ。
――「灯野はるなファンクラブ」「美弥推し連盟」「いちか守る会」。
いつの間にか三大勢力が結成され、現地集合前から熱気が爆発していた。
「うわ……もうポスター持ってる……」
いちかが引きつった笑顔を見せる。
「これって、修学旅行じゃなくてライブじゃない?」
「ライブだな、これは」
要が腕を組み、冷静に分析する。
「バスの号車ごとに“担当”がいるらしい。僕たちの班は――」
「――A号車、“はるな班”だって」
美弥がため息混じりに告げる。
その声に、周囲から歓声が上がった。
「……え?」
はるなは一瞬固まる。
「ちょ、ちょっと待って、それ私、車内でずっと見られるやつじゃん!」
「がんばれ、人気者」
隼人が肩をぽんと叩き、想太は苦笑いした。
「……まあ、いつものことだよ」
「フォローになってないよ、それ!」
笑い声が広がり、車内への案内放送が流れる。
はるなは深呼吸しながら、自分の荷物を抱え直した。
バスのドアが開き、行先表示のプレートが輝く。
『修学旅行:東都古苑行き』
「さあ、出発だ!」
隼人が声を上げ、6人は並んでバスに乗り込んだ。
窓の外では、黒い車列がゆっくりと動き出す。
久遠家のSPたちが別ルートで並走し、旅の安全を確保している。
想太の端末に一瞬だけ通信が入った。
『護衛班A、問題なし。みなさん、良い旅を』
短いその声に、6人は自然と微笑みを交わす。
誰にも見えないところで、自分たちを支える人たちがいる。
――久遠野から外の世界へ。
少しだけ大人になった彼らの旅が、静かに動き出していた。




