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#075 「二次会の夜」

披露宴がお開きとなり、会場を移して二次会が始まった。

ホテルのラウンジは昼間の華やかさとは違い、落ち着いた照明と深い色合いの家具に包まれている。

天井から吊るされたランプが柔らかに輝き、大人たちの笑い声とグラスの音が心地よく響いていた。


「わぁ……雰囲気が全然違う」

はるなが小声で呟いた。


普段は学校帰りに寄る喫茶店くらいしか知らない彼女にとって、この空気は未知のものだった。

鼻をくすぐるアルコールと香水の匂い。落ち着いたテンポのジャズ。

まるで別世界のように感じられた。


「ほら、君たちもどうぞ」

SP君の同僚が笑顔でノンアルコールのカクテルを差し出してくれる。


「ありがとうございます!」

6人は慌てて頭を下げた。

グラスを手にすると、透き通った赤や緑の液体が氷の中で涼しげに揺れた。


「……なんか、大人になった気分だな」

想太は慎重にグラスを持ちながら呟く。


「気分だけ、ね」

美弥が冷ややかに返すが、その横顔はいつもより少し柔らかい。


「色合いがきれいだな……」

要は真剣な眼差しでカクテルを眺め、いちかは「写真撮りたい!」と小さくはしゃいだ。

その声に、美弥が苦笑しながら「あとで私が撮ってあげる」と応じる。


周囲のテーブルでは、上司や同僚たちが仕事や将来について語り合っていた。

「次のプロジェクトは成功させないとな」

「部下の育成が思った以上に難しくてさ……」

重みのある声が交錯し、若者たちの耳には新鮮に響く。


「すごい……みんな未来の話をしてるんだ」

いちかは耳を傾け、憧れと少しの不安を混ぜた表情を浮かべた。


「俺たちも、いずれはこうなるんだろうな」

隼人はグラスを傾け、肩をすくめる。


要は静かに頷いた。

「仕事を持ち、責任を背負い、誰かを守る。……それが大人だ」


その言葉に一瞬沈黙が落ちる。

手にしたグラスの冷たさが、妙に現実を突きつけるように思えた。


「――でも」

はるなが明るく声をあげる。

「今は、私たちにしかできないことをやろうよ」


その一言に、張り詰めていた空気が少し緩み、自然と笑みが広がった。


「そうだな。俺たちには俺たちの役目がある」

隼人が力強く言うと、想太も「うん」と頷いた。


美弥はカメラを取り出し、照明の下で輝くグラスを撮影した。

「大人の夜、って感じね」

その声に、いちかが「お姉ちゃん、楽しそう」と笑った。


SP君はそんな6人を横目で見ながら、どこか安心したように微笑んだ。

彼にとっても、この場に彼らがいることは大きな誇りだった。


乾杯の声が響き、グラスが触れ合う澄んだ音がラウンジに広がる。

その音は、まだ見ぬ未来に向けての静かな合図のように思えた。


――二次会の夜。

6人はほんの少しだけ“大人の世界”の入口に足を踏み入れたのだった。

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