#074 「ケーキカットの歓声」
披露宴も佳境を迎え、司会者の声が高らかに響いた。
「お待たせしました! ここでお二人のケーキカットです!」
大きなウェディングケーキが運び込まれ、会場がどよめいた。
三段重ねの白いケーキに、色とりどりの花と果実が飾られている。
「すごい……本物ってこんなに豪華なんだ」
はるなが目を輝かせる。
SP君と花嫁がケーキの前に立ち、ナイフを手にした。
「せーの!」
司会者の掛け声とともに、二人が息を合わせてケーキに刃を入れる。
歓声と拍手が湧き上がり、フラッシュが一斉に光った。
「きゃー!」「おめでとう!」と会場は一気に華やぐ。
その中で、美弥は真剣な顔でカメラを構えていた。
「……はぁ、はぁ……尊い……」
小さく呟きながら、夢中でシャッターを切る。
「お、おい……大丈夫か?」
隼人が横目で見て茶化す。
「ち、違うわよ! 主役をちゃんと撮ってるだけ!」
美弥は慌てて言い返すが、レンズの先にはしっかり“はるな”の姿が収められていた。
「どう見ても、はるなばっかり撮ってるだろ」
隼人がニヤリと笑うと、美弥の頬が赤く染まった。
「……黙りなさい」
小声でピシャリと言いながらも、シャッターの音は止まらない。
「あははっ、お姉ちゃんらしい!」
いちかが笑顔で声を上げた。
要は冷静に「記録魔だな」と評し、想太は苦笑いを浮かべる。
その間もケーキカットは続き、新郎新婦が互いにケーキを食べさせ合う場面へと移った。
花嫁が恥ずかしそうにケーキを差し出し、SP君が無言で受け取る。
その真面目すぎる様子に、会場から笑いが起こった。
「いいなあ……」
はるながつぶやき、想太は思わず彼女の横顔を見つめる。
その表情は、花嫁と同じくらい幸せそうに見えた。
ケーキを食べさせ合う二人の姿に、再び大きな拍手が巻き起こる。
それは祝福の音であると同時に、未来を願う音でもあった。
――その場に立ち会えた6人もまた、自分たちの未来をほんの少しだけ意識したのだった。




