#073 「ダンスと拍手」
披露宴も佳境に入り、司会者が笑顔で告げた。
「それではここで、余興をお楽しみください!」
会場がざわめき、注目が集まる。
ステージに立ち上がったのは、要といちかの二人だった。
「おいおい……まじか」
隼人が驚きの声を上げる。
「ふふっ、やる気満々みたいだね」
美弥はカメラを構え、興味深そうに見守った。
要はタキシード姿のまま、いちかに手を差し伸べる。
「……行こう」
「ええ」
いちかは迷いのない笑顔で手を取った。
軽快な音楽が流れ出す。
二人は自然にステップを踏み、リズムに合わせて体を動かす。
「すご……本当に踊れてる」
想太が目を丸くした。
「見て見て! 息ぴったりだよ!」
はるなが嬉しそうに身を乗り出す。
要は冷静なままリードし、いちかは楽しげにそれに応える。
二人の呼吸は完璧に合い、まるで長く練習してきたかのようだった。
くるり、といちかがターンする。
その瞬間、スポットライトに照らされ、会場から拍手と歓声が起きた。
「おーい!決まったな!」
隼人が笑顔で手を叩く。
「ほんと、いいペアだね」
はるなは微笑みながら呟いた。
要は最後まで表情を崩さなかったが、その頬はわずかに赤く染まっていた。
いちかも息を切らしつつ、幸せそうに笑っている。
曲が終わり、二人が深々と一礼する。
「ありがとうございました」
会場は大きな拍手に包まれた。
「最高!」「見事だった!」という声が飛び交い、空気は一層温かさを増す。
「……やっぱり、強いなあの二人」
想太が感心したように言うと、隼人が「相性バッチリすぎだろ」と肩をすくめた。
美弥は冷静にカメラを下ろし、ぽつりと呟く。
「まるで、最初から決まっていたみたいね」
「うん……」
はるなも同意し、その言葉に心からの拍手を添えた。
――二人の舞。
それは観客を魅了し、仲間の絆を改めて感じさせる瞬間だった。




