#072 「スピーチの衝撃」
披露宴も中盤に差し掛かり、会場の空気はすっかり和やかになっていた。
料理が進み、ワインの香りが漂う中、司会者がマイクを手にした。
「それではここで、新郎新婦の大切な友人からスピーチをいただきます」
ざわ、と会場がざわめく。
6人の卓に注目が集まる。
「おい……まさか」
想太が顔を引きつらせた。
「はいっ!」
勢いよく立ち上がったのは、やはり隼人だった。
「ちょ、ちょっと! 事前に聞いてないけど!?」
いちかが小声で慌てるが、もう遅い。
会場の視線はすべて隼人へと注がれていた。
「えー……」
隼人はマイクを受け取り、照れ笑いを浮かべながら話し始めた。
「正直、スピーチとか柄じゃねえんですけど……。でも、今日は特別です」
一呼吸おいて、真剣な声に変わる。
「新郎のSP君は、俺たちにとって仲間みたいな存在です。
普段は無口で真面目で、融通が利かないときもあるけど……。
でも、それ以上に頼りがいがあって、俺たちを陰から支えてくれた」
会場が静まり返る。
隼人の素直な言葉に、誰もが耳を傾けていた。
「そんな彼が、今日こうして最高にきれいな花嫁さんを迎えて……。
俺は正直、ちょっと悔しいくらい嬉しいです」
会場から笑いがこぼれる。
隼人はさらに声を張った。
「どうか二人で、いつまでも幸せになってください!
……以上、友人代表・隼人でした!」
深々と頭を下げると、会場は拍手と笑い声に包まれた。
花嫁の目にはうっすら涙が光っていた。
SP君は無言のまま、しかし力強く隼人に一礼を返した。
「……やるじゃない」
美弥が小さくつぶやく。
冷静な瞳に、ほんの少し誇らしげな色が浮かんでいた。
「おいおい、あれは完全にぶっつけ本番だろ……」
要が呆れたように言う。
「でも、すごかったね」
はるなが素直に笑顔を見せる。
「……俺には無理だな」
想太が肩をすくめると、いちかが「同感」と笑った。
会場は再び和やかな雰囲気に戻り、音楽が流れ始める。
隼人の一言は、式にさらなる彩りを添えていた。
――予想外のスピーチ。
それは、仲間としての絆をあらためて示す瞬間でもあった。




