#007 「体育館の視線」
体育館には全校生徒が整列していた。
壇上には校長、背筋を伸ばした教師たち。
空気はいつになく厳粛で、マイクを通した声が響き渡る。
「新年度を迎えるにあたり──」
生徒たちも拍手し、静かに耳を傾けている。
昨日の混乱が嘘のようだ。
「……今日は落ち着いてるな」
想太が小声で呟いた。
「このまま終わればいいのにね」
美弥が少し肩の力を抜く。
「奇跡って、あるのかな……」
いちかが胸に手を当てて、ほっとした表情を見せた。
そのとき。
「それでは──特別教室の皆さん、壇上へ」
ざわっ。
空気が一瞬で変わった。
整然と並んでいた生徒たちの中から、声が飛び交う。
「はるな様ーー!!」
「美弥先輩ーー!!」
「いちかちゃーん!!」
「隼人兄貴ーー!!」
「要せんぱーーい!!」
そして──
「想太くーーーん!!!」
体育館の屋根が震えるほどの大声援。
「え、ええっ!? なんで俺ぇぇぇ!?」
想太は壇上で頭を抱えた。
「ちょっ……想太にまでファンクラブ……?」
はるなは顔を真っ赤にして目を逸らす。
「やっぱり普通に人気あるんだよねー」
いちかが感心して拍手を送る。
「喜ぶなよ!!」
想太が全力でツッコんだ。
観客席では横断幕やうちわが乱舞している。
《はるな派!》《美弥様命!》《いちか天使!》《隼人兄貴最強!》《要先輩推し!》
そして新しく──《想太LOVE》の文字まで。
「……もうライブじゃないか」
隼人が冷静に呟く。
「統計的に言えば、応援隊は増加傾向」
要が真顔で分析する。
「だから分析禁止だって!」
全員が揃って突っ込んだ。
体育館のスピーカーが急に音量を上げた。
『静粛に。生徒は着席してください──静粛に。』
AI先生の声だ。
しかし声援はさらに大きくなる。
「きゃーー!新人SPどこ!?」「がんばれ新人くーん!」
会場の隅で警備にあたっていた新人SPが、スポットライトみたいに注目されて真っ赤になった。
「いや俺じゃなくて彼らを応援して!」と必死に叫ぶが、逆効果。
「新人くんー!」コールが響き渡る。
壇上の6人は顔を見合わせた。
「……結局、集会っていうより」
「完全にコンサートだな」
6人のため息と同時に、体育館は拍手と歓声で揺れ続けていた。




