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#069 「指輪の瞬間」

司祭の声が朗々と響き、厳かな空気がチャペルを包んでいた。

列席者の視線が一斉に祭壇へと注がれる。

SP君と花嫁が並び立つ姿は、まさに物語の一幕のようだった。


「誓いますか」

その問いかけに、SP君は真っ直ぐな声で答えた。

「……誓います」


低く引き締まった声が、ステンドグラスに反響する。

普段の無表情からは想像できないほどの力強さに、6人は胸を打たれた。


「……誓います」

花嫁の声は柔らかく、けれど芯のある響きだった。

その横顔は光に照らされ、白いヴェール越しに微笑みが浮かんでいる。


「きれい……」

はるなが小さく呟く。

その瞳には、憧れと夢がまっすぐに映し出されていた。


花嫁の指先が差し出される。

白い手袋を外した瞬間、透き通るような肌が現れた。

まるで光そのものを纏っているかのように、華奢で繊細だった。


SP君は震えることなく、指輪をその薬指に通した。

金色の輪がはめられた瞬間、チャペル全体が一段と明るくなったように感じられた。


「……」

想太は息を呑んだ。

その光景はただ美しいだけでなく、自分の未来を覗き込んでいるように思えた。


次に、花嫁が小さな手で指輪を取り上げる。

その仕草は優雅で、慎ましやかで、しかし確かな決意に満ちていた。


「……お似合いだな」

隼人が小声で呟く。

豪快な声ではなく、素直な賞賛だった。


要も視線を逸らさずに見つめていた。

「互いに形を持って約束を結ぶ。それが人を支えるのだな」

静かな言葉が、彼の心の深さを表していた。


美弥は手を握りしめていた。

「なんだろ……胸が熱くなる」

茶化しも皮肉もなく、本心がそのまま漏れ出していた。


花嫁はSP君の手に指輪を通した。

そのとき二人の視線が重なり、微笑み合った。


「――皆さん、若いお二人に盛大な拍手を。」


会場に柔らかな声が響いた。式場の天井近くに設置されたスピーカーから流れてきたのは、いつもの案内とは少し違う抑揚のある音声。

それは、この場のために設定されたチャペル専用のAI「ともり」だった。


一瞬、列席者の顔に驚きが走る。だが次の瞬間、驚きは歓声へと変わり、大きな拍手が湧き起こった。

人の手で紡がれる拍手と、AIの静かな祝辞が混ざり合い、会場は未来の色を帯びた温かさに満ちていく。


想太は横にいるはるなの頬を見た。

赤らんだその横顔は、ステンドグラスの光よりも温かく見えた。

胸の奥に芽生えた感情を、想太は言葉にできなかった。


オルガンの音色が再び鳴り響く。

金色の指輪が二人を結びつけ、永遠を誓う象徴となった。


――指輪の瞬間。

それは、6人にとっても忘れられない“未来への予感”となった。

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