表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/76

#068 「バージンロード」

チャペルの扉が閉まり、静けさが広がった。

天井の高い空間に、ステンドグラスから差し込む光が色鮮やかに揺れている。

6人は列席者の中に並んで座り、落ち着かない面持ちで互いに視線を交わした。


「……始まるんだね」

はるなが小さく呟く。

隼人はこくりと頷き、スーツの裾を整えた。


オルガンの音色が鳴り響いた。

その瞬間、空気が張りつめる。


扉がゆっくりと開かれる。

純白のドレスを纏った花嫁が、一歩ずつバージンロードを進んでいく。

隣には父親らしき人物が寄り添い、その歩みを支えていた。


「……きれい」

いちかが思わず息を呑んだ。


花嫁のドレスは裾に繊細なレースが重ねられ、光を受けてきらめいていた。

胸元には小さな真珠が並び、淡い輝きが彼女の微笑をさらに際立たせる。

髪には白い花の飾りが差し込まれ、ヴェールがふわりと揺れるたびに光の粒が零れるようだった。


花びらが敷かれた道を進む姿は、まるで天上から降りてきた女神のようだ。

誰もがその美しさに息を飲み、会場の空気は静かに震えていた。


美弥は茶化そうとしたが、声は出なかった。

「冗談なんて言える雰囲気じゃないね……」


想太は胸の奥に不思議なざわめきを覚えた。

結婚という儀式を、初めて真正面から目にする。

遠い未来のことだと思っていたのに、目の前で現実として進んでいく。


はるなは両手を胸の前で組み、瞳を輝かせて見つめていた。

その横顔には、憧れとほんの少しの切なさが混じっていた。


「……すげぇな」

隼人が低く呟く。

普段の豪快な声ではなく、素直に感動している響きだった。


要は背筋を伸ばしたまま、静かに観察していた。

「形式と儀礼が人の心を動かす。……なるほど」

彼にしては珍しく感慨深げな声だった。


花嫁と父親が祭壇へとたどり着く。

新郎であるSP君が一歩前へ出て、真剣な表情でその手を受け取った。


「……」

その姿に、6人の胸が同時に高鳴った。


音楽がいっそう強く鳴り響く。

ステンドグラスの光が祝福のように二人を包み込んでいた。


想太は隣のはるなをちらりと見た。

彼女の頬は赤らみ、視線はまっすぐに前を向いている。

――もしも自分がその立場に立つ日が来るとしたら。

想太は思わず、そんな未来を想像してしまった。


花嫁のドレスの裾が祭壇で止まり、会場に静寂が戻る。

司祭の低い声が響き、式は次の段階へと進んでいった。


――バージンロード。

その一歩一歩は、6人の心にも確かな余韻を刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ