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#067 「再会と初対面」

式場のロビーは華やかな香りと人のざわめきで満ちていた。

白い大理石の床に映るシャンデリアの光が、柔らかく揺れている。

6人は受付を済ませ、渡されたプログラムを手にして少し緊張混じりに辺りを見回した。


「ここ、本当に式場って感じだね」

はるなが小声で囁く。

「教室とはまるで別世界だ」

想太も頷きながら、胸の奥に落ち着かないざわめきを覚えていた。


「おお、見てみろよ。あそこで写真撮ってるぞ」

隼人が指をさす。華やかなスーツやドレスをまとった列席者たち。

美弥はいち早くカメラを構え、「これは素材だ」と目を輝かせる。


「SP君の同僚って、どんな人なんだろうね」

いちかが期待に満ちた声を上げる。

要はプログラムをじっと見つめ、「格式高そうだ」と淡々と言った。


そのとき、ロビーの一角に立つ黒いスーツの集団が目に入った。

SP君の同僚たちだ。礼儀正しく、しかしどこか柔らかい笑顔を湛えている。


「……あ、あの人たちが同僚かな」

美弥が小さく息を呑む。

「思ったよりカジュアルじゃないな。社会人ってこうなのか」

隼人が驚いたように呟いた。


SP君が一人、6人に気づいて近づいてきた。

「来てくれて、ありがとう」

淡々とした声ながら、それは誠実な感謝だった。


「こちらが、私の職場の方々です」

SP君が紹介すると、同僚たちは礼儀正しく頭を下げて挨拶してくれた。

「はじめまして。今日はよろしくお願いします」


一人、目を引く女性がいた。凛とした佇まいで、しかし目元には温かさがある。

「こんにちは。今日の式が素敵なものになりますように」

その言葉に、想太は不思議と安心感を覚えた。


「プロのプランナーさんかな?」

いちかが小声で囁くと、美弥が「違う違う、あの落ち着きは上司だよ」と首をかしげた。


緊張に押されそうになりながら、想太は深呼吸をして自己紹介をした。

言葉がぎこちなく出ると、同僚の一人が柔らかく笑って話題をつないでくれた。


「護衛の方とは聞いています。お式に華を添えるご友人の方々ですね」

その丁寧な口調と、雑談をまじえた話しぶりに、6人の緊張は少しずつほどけていった。


「仕事と式の両立は大変でしょうが、今日はSP君が主役ですから」

別の男性が言うと、SP君はほんの少しだけ顔を赤らめていた。

6人は心の中で、彼の“普段”と“今”の差に思わず笑ってしまう。


式場スタッフが近づき、控え室へ案内されることになった。

「こちらへどうぞ。着席の場所や当日の流れをご説明します」

大人の所作に従い、6人は列を組んで歩いた。


控え室の中は落ち着いた色調でまとめられており、ソファには既に数名の列席者が座っていた。

「緊張してる?」

はるなが小さな声で尋ねる。想太は肩をすくめて笑った。


いちかと美弥は早速ドレス談義を再開し、はるなは興奮しつつも視線を想太に向ける。

その視線にまた心臓が跳ね、想太はわざとらしくコップの水を一口飲んだ。


「ところで、SP君の上司の方って、結婚式慣れしてるのかな」

隼人が冗談めかして言うと、要が冷静に相槌を打つ。

「観察しておくといい。社会の振る舞いは学ぶ点が多い」


控え室の扉がそっと開き、さきほどの凛とした女性が入ってきた。

「ご紹介が遅れました。私は今日の式の世話役を務めます、森崎です」

その声は低く、確かな存在感がある。


「どうぞよろしく」

皆が礼をすると、森崎さんは細やかに一人ひとりに目をやり、気配りを見せてくれた。

「最初は緊張するものです。自然体で臨めば大丈夫ですよ」


その言葉に、はるなは少しだけ肩の力が抜けたように見えた。

「ありがとうございます」

はるなは小さな声で返し、森崎さんは優しく微笑んだ。


しばらく会場の段取りや座席の説明が続く。

要は真剣にメモを取り、隼人は冗談交じりに場を盛り上げる。

想太はというと、はるなの手元に目をやる余裕が少し生まれていた。


「君たちが来てくれることで、彼も安心するはずです」

SP君が静かに言った。

6人はその言葉を胸に、改めて来て良かったと感じた。


やがて時間が迫り、ロビーへ向かう合図がかかった。

列席者たちは順に式場へと案内されていく。

6人は互いに軽く目配せをして、肩を並べて歩き出した。


式場の扉が開き、外の光が差し込む。

白い衣装と華やかな装飾が視界に飛び込み、想太の心はまた新しい高鳴りを感じた。


――再会と初対面。

この場面で、6人は大人の世界に一歩近づいたのだと実感した。

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